<101回目からのコミックマーケット>第2部 歴史をたどる①半世紀の重み
埼玉県某所──。かつて工場だったというビルに入ると、人ひとりがやっと歩けるほどの通路の左右に、大人の背丈ほどの大量の段ボール箱が、まるで巨大なブロックのように、ぎっしり積み上げられていた。
◆半世紀分の「情熱」
ここはコミックマーケット準備会が管理する倉庫。約3万5000個に及ぶ段ボール箱それぞれに収められているのは、これまでコミケで頒布された全ての同人誌の見本誌だ。
この半世紀にわたり、コミケの全参加者が個人的な喜怒哀楽や思想、秘 かな嗜好 、商業誌に載ることのない性的欲求など人間のあらゆる感情や欲望を注ぎ込んできた本たち。100回もの開催の間に約300万冊に上ったそれらが、一つの建物内に眠っている。段ボール箱が一つずつ増えていく過程で、参加者1人1人が払った多大な情熱と労力に思いを馳 せると畏怖の念すら湧いてくる。
「われわれの歴史なので、しっかり保管していかないと。そして、増やし続けていくことが同人文化への貢献ではないか」
案内してくれたコミックマーケット準備会の市川孝一共同代表(55)は、力を込める。
見本誌はコミケ当日、サークル参加者が準備会に提出する。1冊ごとにサークル名や誌名、配置場所、頒布価格などを記入した見本誌票が貼られている。
収納する段ボール箱は、縦横がB4判、奥行きがB5判サイズの独自仕様。同人誌で主流のB5判が平置きで二つ並ぶほか、立て置きでも高さがぴったり合う。それぞれにコミケの回数や配置ブロック名などが書かれ、カタログと照合すれば、どのサークルの見本誌が入っているかが分かる。
◆回覧ノート、ポスターから「生の声」が
1箱に70~80冊程度入るといい、試しに一つ開けてもらうと、全く隙間がない。別の古めの箱から出てきたのは…。「『わが青春のアルカディア』ですね」(市川さん)。今年2月に亡くなった漫画家松本零士さん原作の映画(1982年公開)の二次創作が中心だった。
サークル参加者が当日にコメントなどを書いて回覧していた「ブロックノート」や会場内に張られていた歴代のポスターなどさまざまな資料も一緒に保管されていた。ノートからは当時の雰囲気が生の声で伝わってくる。
一般に販売される書籍や雑誌などを収集している国立国会図書館が日本文化の「正史」図書館だとすれば、その時々の流行を反映した見本誌を集めたこの場所は、本来的な意味での日本の「サブカルチャー」図書館なのではないか。そんな思いも去来する。
2025年に50周年を迎えるコミケ。市川さんは「50年分の重みがある」と説得力ある言葉を口にする一方、「現状は宝の持ち腐れ」だと悔しがる。大切に保管はしているものの、一度倉庫に入れた見本誌を一般公開する仕組みがないのだ。将来的には「デジタル化したアーカイブとするのが理想」だが、数が膨大で作業量や費用が大きなネックとなる。
また、準備会広報の里見直紀さん(55)によると、「同人誌はその時限りのものとして、後か...
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