慶應SFC30年、立命館APU20年――日本の大学をどう変えたか
APU編⑩◆出口治明学長インタビュー(下)「次期学長公募に僕が応じた理由」
2020.09.14
この30年の日本の大学に大きなインパクトを与えたのは、「大学改革のモデル」と言われた慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)と、学生・教員の半数が外国人という立命館アジア太平洋大学(APU)だろう。奇しくも今年、SFCは30年、APUは20年を迎える。両大学は日本の大学をどう変えたのか、そして現在も開設当初の理念は受け継がれているのか、連載で報告する。
2000年代以降、大学も企業もグローバル化が急速に進み、グローバル教育が求められるようになったが、その先陣を切ったのがAPUである。その後、各大学が国際系の学部を次々に開設し、その動きは今も続いている。その現在とは、そして卒業生たちのその後は――。(写真は、APUのこれからを語った出口治明学長=APU提供)
APUはフロントランナーでなければ、つくった意味がない
2018年1月に日本の大学では異例の学長公募で選出され、実業界から転身した出口治明学長は、今年12月に任期(3年)満了を迎える。7月下旬から始まった次期学長候補者の公募に、自ら名乗りを上げたことをインタビュー前編(連載第9回)で明かした。
――国内学生のうち、AO入試(2021年度から総合型選抜)で入る学生は3割くらいです。開学初期はAOをメインに想定していたようですが、一般入試(一般選抜)とAO入試の比率についてはどう考えますか。
AOと一般入試の関係は難しい。格差については松岡亮二さん(早稲田大学准教授)が『教育格差』で書いていますが、AO入試のほうがむしろ格差を固定するのです。コミュニケーション能力や全人格的な能力を見ようとすると、両親が裕福でいろんな所に連れていってもらった子どもが有利になり、家庭の経済格差が反映されやすい。一般入試のいいところは、経済的に恵まれない高校生が受験勉強して一発逆転するチャンスが生まれることです。
一般入試とAO入試のバランスは難しく、永遠の課題です。AOとか全人格的な入試がすばらしいというのは、皮相的な見方です。格差がなければそれでいいですが、現実の格差を考えたら、全人格的な入試は格差を助長する側面があるのです。
APUの両者のバランスは、社会状況や、我々の高大連携の状況など、いろんな要素によって変わると思います。
――教員の教育力、研究力を上げることも課題だと思います。
どの大学にも共通することで、教育と研究が大学のすべてです。教育・研究のレベルを上げていくために、APUは国際認証を取得しています。これまでにビジネス教育の国際認証AACSBを2016年に、観光教育の国際認証TedQualを18年に取得し、この8月にマネジメント教育の国際認証AMBAを取得しました。これで3冠になりました。三つの国際認証を持っている大学は他にはありません。国際認証は言ってみればミシュランの三つ星で、教育の質と研究の質が落ちると維持できませんから、3冠を維持することをテコに教育・研究の質を高めていきます。
――APUの学長は学校法人立命館の副総長でもありますが、APUが独自性や個性を発揮しようとする時に、立命館大学や学校法人との関係はどうなっていますか。
APUが決めたことで学校法人からダメだと言われたことは一度もありません。新学部も実質100%、APUで決めました。形式的には学校法人立命館の理事会の下に新学部設置委員会をつくりましたが、委員長はAPUの人間です。学校法人からは「APUはフロントランナーとして突っ走ってほしい。そうでなければ、APUをつくった意味がない」と言われています。APUは独立した大学ですから、授業料の値上げや高大連携についても学校法人から意見を言われたことはありません。APUが考えたことで学校法人から反対されたこともなければ、制約を感じたことも一度もありませんね。むしろ、いろいろと助けてもらっています。