サイエンス

2024.11.14 17:00

チェルノブイリの「放射線を食べるカビ」、宇宙開発などに応用の可能性

チェルノブイリ原子力発電所 Getty Images

ウクライナのプリピャチ近郊にあるチェルノブイリ原子力発電所の4号炉で1986年4月26日に起きた爆発事故は、いまだに人類史上最悪の原子力災害と位置づけられている。事故によって設定された半径30キロメートルの立入禁止区域は、現在も放射線レベルが高い状態が続いており、人の定住や居住が制限されている。

しかしやがて、この立入禁止区域の中で、予想外の生物が生き延びていることが、科学者によって発見された。Cladosporium sphaerospermum(クラドスポリウム・スフェロスペルマム、通称クロカビ)と呼ばれる、生存力の高い黒いカビの1種だ。

このカビは、放射線量が最も高いところでも生き延びられるようだ。事故が起きた4号炉の壁に、黒ずんだシミのようなカビがはびこっているのが観察された。
Cladosporium sphaerospermum Medmyco via Wikimedia

Cladosporium sphaerospermum Medmyco via Wikimedia

ほとんどの生命体にとっては致死量に達している放射線レベルに、このカビは適応している。さらに興味深いのは、このカビが放射線を「食べる」ように適応しているという点だ。このカビは、植物が光合成に太陽光を使うのと似たような仕組みで、放射線をエネルギー源としている。

さらなる研究により、前述のCladosporium sphaerospermumに加え、Wangiella dermatitisやCryptococcus neoformansといった種名で呼ばれる黒いカビに、メラニンが含まれていることが判明した。

メラニンは、人の肌の色を決定づける色素だ。とはいえ、これらのカビの種でメラニンは、人とは異なる役割を果たしている。放射線を吸収し、利用可能なエネルギーに変換しているのだ。この仕組みが、放射線量が非常に高い場所での生育を可能にしている。

これは、実に驚異的な適応の姿だ。地球上で最も過酷で、生物の生存に適さない環境でも生育できる生命の力をうかがわせる実例と言える。

クロカビが、放射線をエネルギー源として取り込む仕組み

Cladosporium sphaerospermumは、放射線を栄養源にできるカビ(Radiotrophic Fungus)の仲間に属している。このような生命体は、電離放射線を吸収して活用し、代謝するプロセスを働かせることができる。

National Library of Medicineに2008年10月に掲載された論文によると、Cladosporium sphaerospermumの場合は、体内に含まれている高濃度のメラニンによって、放射線を吸収することが可能だという。これは、植物が葉緑素で太陽光を吸収するのと似た仕組みだ。
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翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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