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河浦美絵子|台湾

台湾化粧品業界に激震!PIF制度導入で企業は生き残れるのか?

化粧品管理に2024年7月1日から新制度導入の台湾 (写真はイメージです) kaboompics-pixabay

■偽装と危険が渦巻く台湾消費市場

今年の初めから台湾では「黒心食品」問題が世間を騒がせている。「黒心食品」とは、健康に害を及ぼす可能性のある食品を指す。本来、玩具などプラスチック製品の着色に使われる工業用染料スダン。そのスダンが中国から輸入の辣椒粉(チリパウダー)から検出された。スダンの食品への使用は台湾だけでなく国際的にも禁止されている。国際がん研究機関(IARC)によればスダンが発がん性を持つ可能性が高いという。

スダン入りの辣椒粉(チリパウダー)は台湾大手のチェーン店や、飲食店、子���たちも良く食べるスナック菓子等にも使用が確認され、消費者を震え上がらせた。安価で手軽に、見た目を鮮やかに着色する目的でのスダン使用。消費者としてはたまったものではない。

台湾では今回に限らず、食の安全を脅かす問題が繰り返し発生しているが、化粧品も同様だ。数年前、薄汚れた地下工場で、成分不明のボディソープやシャンプーを違法に大量生産していた企業が摘発された。その製品が、大手スーパーマーケットにも多く流通していたことも発覚して、大問題となった。

事が起こる度に衛生福利部食品藥物管理署(以下、TFDA)は規定を厳格化し対応してきている。しかし、いまだに違法成分を使用したり、偽りの効能を謳った化粧品の摘発情報が絶えない。

■PIF制度導入で台湾化粧品管理に大改革

このような状況を打破すべく、「化粧品の品質向上」「消費者の安全確保」「企業の自主管理強化」を目的に、TFDAは2019年5月、「化粧品產品資訊檔案管理辦法」(化粧品製品情報ファイル管理辦法)を公布、台湾の化粧品管理についてPIF制度を導入することを発表した。この大改革発表は、台湾国内だけでなく、台湾で化粧品を販売している他国の企業にも大きな衝撃を与え、動揺をもたらした。

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多種多様な化粧品が陳列されるドラッグストアの化粧品売場(筆者撮影)

■EU PIFを参考に、台湾独自のPIFの制度規定

PIFとは、製品情報ファイル(Product Information File)の略。製品に関する全ての情報を収集したファイルである。

このPIF制度導入により、台湾で化粧品を販売するためには、企業がPIF作成をすることが必須の条件となる。PIFを作成していなければ、台湾で新規に製品を販売することはもちろんのこと、現在、すでに棚に並んでいる製品であっても販売が不可となる。PIF作成をせず製品を販売した場合、規定では1万~100万元(約4,7万~470万円)以上の罰金が科せられる。

PIF制度は欧州連合(EU)や東南アジア諸国連合(ASEAN)で既に実施されている。台湾はEUのシステムを参考にして独自の規定を設定した。そのため、他国でPIFを作成していても、台湾の規定に準じたPIFを作成をする必要がある。

PIF制度は今年7月1日から段階的に開始される。まずスタートを切るのが「特定用途化粧品」。日焼け止め、美白化粧品、パーマ剤、ヘアーカラー剤など、特別な用途成分を一定量使用した化粧品だ。そして2025年7月1日には第2段階として乳幼児向け、唇や目に使用の化粧品、非医療用の歯磨き粉とマウスウォッシュ製品が対象に加わる。最終段階となる2026年7月1日には台湾で販売される全ての化粧品にPIF作成が義務付けられることになる。

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あと2か月でPIF作成が必須となる特別用途化粧品のヘアーカラー剤(筆者撮影)

■難易度の高いPIF作成。増加する企業の負担

それならば、すぐにでもPIFを作成すればいい・・・

それが実はそう簡単ではない。PIFに必要な資料は信じられないほど細かいものなのだ。化粧品の全成分、製造工程、製造工場の品質基準の証明書、そして各成分の安全性試験データをはじめとする多くの試験データ、それぞれに詳細な説明と証明が求められる。資料は繁体字中国語か英語で作成しなければならない。

また、資料は収集するだけではない。安全評価者(Safety Assessor、以下SA)という、薬学、毒物学、皮膚医学、医学部などの大学卒業資格を持ち、TFDA認定の履修コースを修了した者が内容を審査する。膨大な資料は、SAの詳細な審査で安全が確認され、署名されて初めてPIFという完成物となる。

さらに、PIFに要求される資料について、企業側が「製造過程でそんなデータは取っていない、提出できない」と申し立てをしても、規定通りの資料が揃わなければSAは署名をしない。そのため、不足データがあれば、新たに試験を行わなければならない。そこにはPIF制度導入以前には不要だった多くの費用が発生してくる。

ある日系の化粧品販売企業の関係者からは「PIF作成がこんなに大変だとは想定外でした。コストや時間もかかることから、現在、台湾で販売中の製品の中で、人気商品を残すけれど、それ以外は台湾での販売を中止する方向でも検討しています」といった声も聞かれた。

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PIF作成のためには多くの試験データが必要になる (写真はイメージです) 6689062-pixabay


■PIF制度は企業にとって好機か、逆風か

PIF制度の導入により、台湾の化粧品業界に大きな変革が訪れている。この制度によって、成分が不明だったり品質の低い化粧品が市場から淘汰される。消費者はより安全な製品を手にすることが可能になる。企業にとっても、自社の製品の安全性を証明し、ブランドイメージを向上させる絶好の機会でもある。


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2年後の2026年7月までに全ての化粧品にPIF作成が完了しなければならない台湾の現状(筆者撮影)

しかし、厳格化された規制に適応できない企業には逆風も予想される。制度への完全な準備や適応が難しい企業などは、コストの増大や業務負担の重さから市場からの撤退を余儀なくされるかもしれない。こうした企業の撤退は、一部で台湾化粧品業界の再編や競争環境の変化を引き起こす可能性もある。

衝撃のPIF制度導入の発表から5年。まもなく始まるPIF制度。今後どのような動向が見られ、化粧品売場にどんな変化が起こるのかが注目される。

 

Profile

著者プロフィール
河浦美絵子
海外在住30年。現在、台湾在住21年目。ライフコーチ兼リサーチャー。現地コンサルティング企業勤務を経て起業。キャリアトランジション、自己啓発の専門知識を活かして、日系企業や個人向けにライフコーチングとリサーチサービスを提供している。趣味は旅とマラソンと食べ歩き。

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