SDGsとは 17の目標と日本の現状、身近な取り組み事例をわかりやすく解説
SDGsとは、国連が掲げる「持続可能な開発目標」。この記事では、SDGsの意味や17の目標のほか、世界・日本の現状、身近な取り組み事例について、わかりやすく、簡単に紹介します。
目次
1.SDGs(持続可能な開発目標)とは?
SDGsとは、国連が掲げる「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称で、「エス・ディー・ジーズ」と読みます。「持続可能な開発」とは、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」のことです。
あらゆる貧困に終止符を打つことが地球規模の課題であり、持続可能な開発のための必要条件であるとして、達成すべき「17の目標(ゴール)」を掲げています。
「貧困や飢餓、平和、ジェンダー平等、教育などの社会面」「エネルギーの有効活用、働き方改革、不平等の解消などの経済面」「気候変動や環境保護など環境面」について幅広く目標を定めていて、持続可能な経済成長を目指しながら、「誰ひとり取り残されない(leave no one behind)」という基本理念のもと、各国が力を結集してゴールを目指しています。
1.1 2030年までに国際社会が目指す目標
SDGsは、2015年9月ニューヨークの国連本部で開催された「国連持続可能な開発サミット」において、すべての加盟国による全会一致で採択され、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられました。
前文には「このアジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画である」とあり、すべての国やステークホルダー(利害関係者)が、協同的なパートナーシップで実施することを求め、その達成目標を2030年としています。
しかし、2019年に開催された「SDGサミット」でグテーレス国連事務総長は「取り組みは進展したが、達成状況には偏りや遅れがあり、あるべき姿からはほど遠く、今、取り組みを拡大・加速しなければならない」と表明しました。
SDGsの目標期限まであと10年となった2020年、「行動の10年」がスタート。政府や市民社会、企業を動員し、すべての人々がSDGsを自分事として考え、取り組みを加速する姿勢が求められています。
1.2 17の目標
SDGsは、持続可能な開発のために国際社会が進むべき方向の道しるべとして、「17の目標(ゴール)」と「169のターゲット(具体目標)」を掲げています。
「17の目標」にはテーマカラーがあり、ピクトグラム(わかりや���い絵記号)とキャッチフレーズを表したアイコンがあります。
あらゆる場所、あらゆる形態の貧困を終わらせる
飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養の改善を実現し、持続可能な農業を促進する
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児のエンパワーメントを行う
すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
国内及び各国家間の不平等を是正する
包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
持続可能な消費生産形態を確保する
気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
持続可能な開発のために、海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
1.3 169のターゲット
「17の目標」には、それぞれ5から10程度のより具体的な目標と手段があり、計169設定されています。それが「169のターゲット(具体目標)」です。例えば「目標1:貧困をなくそう」なら、1.1~1.5と1.a~1.bの計七つのターゲットがあります。
1.2 2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子どもの割合を半減させる。
1.3 各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。
1.4 2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、すべての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。
1.5 2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する。
1.a あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する。
1.b 貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。
このように「1+数字」のものは具体的な目標を含んでいて、「1+アルファベット」のものは目標実現のための手段を表しています。
さらにこうした目標やターゲットの進捗を測るため、国連統計委員会などの専門家での議論を踏まえ、247(重複を除くと231)のグローバル指標が設けられています。
1.4 「五つのP」と「ウェディングケーキモデル」
SDGsは「17の目標」というわかりやすい行動目標ですが、その構造を別の視点から分類することで、理解をより深めることができます。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の前文にも示されている、二つの考え方を紹介します。
五つのP
SDGsの目標を、「People(人間)」「Prosperity(繁栄・豊かさ)」「Planet(地球)」「Peace(平和)」「Partnership(パートナーシップ)」という五つのキーワードで分類したもので、頭文字をとって「五つのP」と言われています。「17の目標」を五つにカテゴライズすることで、SDGsの基本となる考え方が理解しやすくなります。
ウェディングケーキモデル
SDGsの「17の目標」を三つの層に分類したのが「ウェディングケーキモデル」という構造モデルです。スウェーデンのストックホルム・レジリエンス・センター所長、ヨハン・ロックストローム氏らが考案しました。
「私たちが生きるために不可欠な環境(生物)」の基盤の上に、「人としての尊厳を持って暮らせる社会」があり、それらが整った上に「人や国に対して差別や偏見のない、働きやすい経済」が成り立つという構造で、それぞれが密接に関わっていることを示しています。「2030アジェンダ」の前文でも、17の目標とターゲットは不可分であるとして、「経済、社会及び環境の三側面を調和させるもの」としています。
・社会圏(Society)=目標1~5、7、11、16
・経済圏(Economy)=目標8~10、12
1.5 コロナ禍とSDGs
新型コロナウイルスの感染拡大は、貧困にあえぐ人たちなど、とりわけ弱い立場の人々に打撃を与えています。2020年の国連の報告書は、「1日1ドル90セント未満で暮らす極度の貧困層の割合が、新型コロナ感染拡大の影響によりここ数十年で初めて増加し、7100万人となる見通し」と発表。また、都市封鎖(ロックダウン)などにより、女性と女児に対する暴力のリスクが増大していると懸念を示しています。
国連のグテーレス事務総長は、2020年7月の会見で、SDGsについて「目標達成は一層困難になっている」という認識を述べ、各国に国連との連携を呼びかけました。
2.世界の動向 SDGsはこうして生まれた
2.1 「持続可能な開発」の登場
世界の開発をめぐる議論は長い間、経済発達と切り離すことができず、環境と経済の両立は国際社会の課題でした。SDGsという概念の誕生は、20世紀後半からの国際会議の成果の集大成でもあります。2015年にSDGsが掲げられるまでの歴史をたどります。
「成長の限界」
第2次世界大戦後の世界各国は、物質的な豊かさを経済成長の目標として発展し、「資源は無限である」という前提のもとに開発が進められてきました。しかし1960年代から70年代にかけて飛躍的な経済成長を遂げた先進諸国で公害が大きな社会問題となり、さまざまな研究から「地球の資源は有限である」ということが明確になってきました。金銭的、物質的な豊かさを求める経済社会のあり方について、世界が意識するようになったのです。
1972年、国際的な研究・提言機関のローマ・クラブは、「成長の限界」と題した報告書を発表。人類の未来について、「このまま人口増加や環境汚染などの傾向が続けば、資源の枯渇や環境の悪化により、100年以内に地球上の成長が限界に達する」と警鐘を鳴らしました。
「持続可能な開発」と地球サミット
1987年に、世界的な有識者で構成された国連の「環境と開発に関する世界委員会」が公表した報告書「Our Common Future(邦題:地球の未来を守るために/『ブルントラント報告書』ともいう)」で、「持続可能な開発」という概念が打ち出されました。持続可能な開発を、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」と定義し、環境保全を考慮した節度ある開発が重要であるという認識が、世界各国で共有されるようになりました。
1992年に、ブラジル・リオデジャネイロで「国連環境開発会議(地球サミット)」が開催され、持続可能な開発を実現するための行動計画である「アジェンダ21」が採択されました。「持続可能性(サステイナビリティー)」という言葉が世界的に普及するきっかけとなり、環境問題に国際社会が連携して取り組む枠組みができあがりました。これが2012年の「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」で提唱されるSDGsにつながっていきます。
2.2 MDGsとSDGs
SDGsの前身とされる国際目標が、「MDGs(エム・ディー・ジーズ)」です。
MDGsは、2000年のミレニアムイヤーに国連本部で開催された「国連ミレニアムサミット」で採択された国連ミレニアム宣言に基づく、「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)」の略称です。開発における国際社会共通の目標で、2015年までに達成すべき課題として、以下の八つの目標を掲げました。
目標2:初等教育の完全普及の達成
目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上
目標4:乳幼児死亡率の削減
目標5:妊産婦の健康の改善
目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
目標7:環境の持続可能性確保
目標8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進
MDGsは2015年までに一定の成果をあげましたが、達成できない課題も残り、その後継として誕生したのがSDGsです。
MDGsはODA(政府開発援助)など途上国の開発がメインで、取り組みの主体も国際機関や政府だったのに対し、SDGsは先進国も含む世界全体をターゲットにし、取り組みの主体も政府だけでなく、民間企業や個人まで広げました。
SDGsは世界中の国々が自国や世界の問題に取り組み、誰ひとり取り残さず、すべての人が尊厳を持って生きることができる世界の実現を目指しているのです。
2.3 パリ協定とSDGs
気候変動対策はSDGsの目標13に掲げられ、特に重要なテーマの一つです。SDGsの採択と同じ2015年にフランスで開かれた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)では、「パリ協定」が採択されました。
パリ協定は、1997年のCOP3で採択された「京都議定書」の後継と位置づけられ、歴史上初めて、先進国・開発途上国の区別なく「産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑える」という目標を掲げました。2021年に英国で開かれたCOP26では「グラスゴー気候合意」が採択され、パリ協定では努力目標の扱いだった「1.5度」が、事実上の国際目標に格上げされました。
3.日本のSDGs 達成度は世界21位
SDGsに法的な拘束力はありませんが、各国政府は当事者意識を持ってSDGs達成に向けた枠組みを確立するよう期待されています。日本政府も「SDGsは先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものである」として、国内での実施と国際協力の両面で率先して取り組む体制を整えています。
進捗状況のフォローアップと審査を行う責任は、主として各国にあり、その進捗は「国連ハイレベル政治フォーラ��(HLPF)」という、国連総会のもとで行われる首脳級の会合(SDGサミット・4年に1回開催)と、経済社会理事会のもとで行われる閣僚級の会合(毎年開催)によってチェックされています。
3.1 政府の動き
日本政府は、関係する行政機関が相互に連携を図りながらSDGsを効果的に推進するため、2016年に内閣総理大臣を本部長、官房長官と外務大臣を副本部長、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設けました。
また、幅広いステークホルダー(利害関係者)との連携を深めるため、行政、NGO・NPO、有識者、民間セクター、国際機関、各種団体などが集まる「SDGs推進円卓会議」を開き、意見交換しています。
SDGs推進本部は、今後の日本の取り組みの指針となる「SDGs実施指針」を策定し、「2030アジェンダ」で掲げられた「五つのP」に対応させて再構成した、「日本が取り組む八つの優先課題」を具体的な施策の指標として示しました。
SDGsの取り組みを加速させるため、 全省庁の具体的な施策を盛り込んだ「SDGsアクションプラン」を毎年発表しています。
People 人間
① あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
② 健康・長寿の達成
Prosperity 繁栄・豊かさ
③ 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
④ 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
Planet 地球
⑤ 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
⑥ 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
Peace 平和
⑦ 平和と安全・安心社会の実現
Partnership パートナーシップ
⑧ SDGs 実施推進の体制と手段
ジャパンSDGsアワードとは
SDGs達成に向けた企業・団体などの取り組みを促し、オールジャパンでSDGsを推進するために、2017年からSDGs達成への取り組みが優れている企業や団体などを表彰する「ジャパンSDGsアワード」が始まりました。SDGs推進円卓会議の構成員からなる選考委員会の意見を踏まえてSDGs推進本部の会合で決定されます。
最も優れた案件を総理大臣による「SDGs推進本部長賞」、4案件程度を官房長官と外務大臣による「SDGs推進副本部長賞」、その他を「SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」として表彰。企業、NGO・NPO、教育機関、地方自治体などが選ばれており、幅広い主体がSDGs達成に向けた原動力になっていることがわかります。
SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業とは
地方が将来にわたって成長していくには、人々が安心して暮らせるような、持続可能なまちづくりと地域活性化が重要です。急速な人口減少が進む地域では、くらしの基盤の維持・再生を図ることが不可欠です。地方創生にSDGsの理念を取り込むことで、地域の課題解決を加速させようというのが「地方創生SDGs」です。
地方創生SDGsの達成に向けて、優れた取り組みを提案する自治体や地域を選定する「SDGs未来都市」制度が2018年から始まりました。2023年までに182都市がSDGs未来都市に選ばれました。政府は、そのなかで特に優れた先進的な60の事業を「自治体SDGsモデル事業」として資金的に支援し、成功事例の普及を目指しています。
3.2 日本の達成度は世界21位。課題は?
SDGsの達成状況は、国際機関やシンクタンクなどが評価を行っています。国際的な研究組織、持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)は、国ごとにSDGsの達成度を点数化したランキングを発表しています。2023年の報告書によると、日本のSDGs達成度は、前年より2ランクダウンした21位でした。
達成度が高く評価されたのは、「目標4:質の高い教育をみんなに」「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」の二つでした。一方、「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」「目標12:つくる責任、つかう責任」「目標13:気候変動に具体的な対策を」「目標14:海の豊かさを守ろう」「目標15:陸の豊かさも守ろう」の五つは深刻な課題があるとされています。
日本が特に大きな課題を抱えているジェンダー平等に関して、世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダーギャップ指数」のランキングをみると、2023年は146カ国中125位で過去最低となりました。政治・経済分野で男女格差が大きいと指摘されており、改善が求められます。
4.企業のSDGsの取り組み 導入方法、注意点は?
4.1 ESG投資とSDGs
SDGs は政府だけでなく、企業にも具体的な行動を求めたことで、「ESG(イー・エス・ジー)」が注目を集めています。「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス/企業統治(Governance)」の頭文字をとった言葉で、SDGsというゴールを達成するには、企業や投資家がESGに配慮するプロセスが欠かせないという考えです。
ESGという言葉は、2006年、国連のアナン事務総長(当時)が、「投資家は企業がESG(環境・社会・ガバナンス)の課題に取り組んでいるかを投資判断に組み込むべきだ」とする、「責任投資原則(PRI) 」を提唱したことに始まります。
投資の判断材料として、キャッシュフローや利益率などの財務情報が主に使われてきましたが、加えて、非財務情報であるESGにも考慮して投資先を選ぶことを「ESG投資」といいます。
2015年に世界最大の年金資産規模を持つ日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名したことをきっかけに、日本でもESG投資への関心が一気に高まりました。企業が持続可能な成長をするためには、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出などESGの観点が欠かせません。
ESGとSDGsはセットで考えられており、企業はそれらの取り組みをまとめた「サステイナビリティーレポート(報告書)」を作成し、投資家などにアピールする努力が求められています。
4.2 企業にとってのメリット
日本の企業はこれまでも社会的な取り組みに積極的に関わってきました。1990年代後半から、「CSR (Corporate Social Responsibility)」、つまり企業の社会的責任として情報開示や説明責任を果たしつつ、芸術文化の支援、寄付・ボランティアなど本業以外のところで貢献してきました。
2011年ごろから、「CSV (Creating Shared Value)」という、本業のビジネスで社会課題を見つけ、社会的価値と企業価値の両立を目指す概念が注目されるようになり、投資家も「CSR」と「CSV」を投資の目安のひとつとしてきました。
「SDGs」は、事業を通じて社会課題に貢献しながら、持続可能な経済成長も目指そうというもので、投資家は企業がSDGsに取り組んでいるかどうかを投資の条件として重要視するようになってきています。ESG投資という追い風もあり、世界中の企業がSDGsへの取り組みを加速させています。
企業は、少⼦⾼齢化による⼈材不⾜や消費者ニーズの多様化、IT化、エネルギー転換など、さまざまな課題を抱え、大きな変化を求められています。今、ビジネスの世界では、経営リスクを回避しながら、新たなビジネスチャンスを獲得し、雇用を生み出し、持続可能性を追求するためのツールとしてSDGsが活用されています。
SDGsと経営を結びつけることで企業価値を高め、ESG投資を促そうとする企業が増えているのです。
企業がSDGsに取り組むメリットについて、環境省は、「すべての企業が持続的に発展するために」と題したSDGs活用ガイドの中で、次のようなメリットをあげています。
2)社会の課題への対応(経営リスクを回避し、社会への貢献ができる)
3)生存戦略になる(ESG投資家から注目され、持続可能な経営を行える)
4)新たな事業機会の創出(新しい取引先やイノベーションを創出する)
4.3 具体的な取り組み事例が知りたい
SDGsは国連で採択されたものですが、ビジネスの世界では「共通言語」となりつつあります。日本でもSDGsへの新たな取り組みを進めている企業が多くみられます。先進企業の取り組み事例を紹介します。
「未来のゆめ・まちプロジェクト」で社会貢献 阪急阪神ホールディングス
阪急阪神ホールディングスは2009年から、沿線を中心とした地域において、「未来にわたり住みたいまち」づくりを目指す、「阪急阪神 未来のゆめ・まちプロジェクト」を立ち上げ、子どもに職業体験をしてもらうなどの次世代育成や、環境保全への取り組みを続けてきました。
その社会貢献活動の一環として、2019年5月から阪急電鉄と阪神電気鉄道でSDGsをテーマとする列車「SDGsトレイン」の運行を開始。SDGsをイメージしたイラストで車体をラッピングし、車内にはSDGsを紹介するポスターを掲示して、SDGsの認知度向上を促しました。同トレインの走行に使用する電力は、実質的に再生可能エネルギー100%。これらの取り組みは、2020年のジャパンSDGsアワード「SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」を受賞しました。
阪急阪神ホールディングスが紡ぐ「未来のゆめ・まちプロジェクト」
感染症に苦しむアフリカで貢献 サラヤ
サラヤは1952年の創業以来、植物油系のヤシノミ洗剤、アルコール消毒剤など、衛生や環境への貢献を意識した製品をつくってきました。2009年の新型インフルエンザ流行をきっかけに「世界の公衆衛生のために何かしたい」と、東アフリカ・ウガンダで、日本国内で販売する対象製品の売り上げの1%を寄付して、手洗い普及活動の支援に充てる「100万人の手洗いプロジェクト」を始めました。
さらに、企業が衛生や環境などのSDGsに取り組むには、チャリティーだけでは持続できないと、現地法人を設立。アルコール消毒剤を現地生産し、使用方法などの衛生マニュアルを提供しています。新型コロナウイルス感染の予防対策として、サラヤのアルコール消毒液が病院や空港、公共施設で使われています。これらの取り組みは、2017年のジャパンSDGsアワード「SDGs推進副本部長(外務大臣)賞」を受けました。
2050年、温室効果ガス排出実質ゼロに挑戦 リコー
法人向けの複写機リースが主力のリコーは、2017年に、使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業ネットワーク「RE100」に、日本企業で初めて参加しました。「2050年に温室効果ガス排出実質ゼロ」を掲げて、自社工場や営業所などで温室効果ガス削減に積極的に取り組んでいます。その目標に到達するための手段が、再生可能エネルギーの利用です。
販売会社のリコージャパンの支社を建て替える際に、屋上に太陽光発電パネルを設置し、蓄電装置の導入により再生可能エネルギーを作り出しています。また、2020年7月に中国・深圳市の2工場を集約し、東莞市で環境最先端の新工場を稼働。以前の2工場を合わせた使用電力と比べ、電気使用量70%以上を低減。太陽光発電の設備で全電力の10%を賄っています。当面の目標は「2030年、2015年比で63%削減」で、2019年は約23%を達成しました。
定款の事業目的を「SDGs」に変更 ユーグレナ
ユーグレナは、藻の一種ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を使った食品・化粧品の販売や、バイオ燃料の研究開発を手がけるベンチャー企業です。国連世界食糧計画(WFP)と連携し、バングラデシュの小規模農家の生計を支え、ロヒンギャ難民の食料支援もおこないました。この活動が評価され、2021年のジャパンSDGsアワードで「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞しました。
また、ミドリムシ由来のバイオ燃料の実用化もめざしており、2021年には初フライトを成功させました。同じ2021年、定款上の事業目的をSDGsの17目標に沿った内容に変更しています。創業者の出雲充社長は「SDGsをど真ん中に置いた会社になる」とねらいを語りました。
2030年度に素材の半分を低環境負荷型に ファーストリテイリング
「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは2021年、2030年度までに全使用素材の約50%(重量ベース)をリサイクル素材などに切り替え、店舗の省エネルギー化を進めるといった環境への取り組みを発表しました。欧米諸国や投資家が注目する人権問題をめぐっても、サプライチェーンで人権侵害が起きていないかの監査を強化し、情報公開も進めるとしています。
今後は、使い終わった服の回収にいっそう力を入れ、新しい服や、服以外の資材に循環させる仕組みをつくることもめざしています。ファーストリテイリングは「環境や人、社会に配慮した服を提供することで、持続可能性と事業の成長の両立を図る」と説明しています。
脱プラスチックや食品ロス対策に注力 ファミリーマート
コンビニ大手のファミリーマートは、2020年までにサラダの容器をすべて、バイオマスプラスチックなどを使った環境配慮型に切り替えました。また、スプーンの持ち手を穴があいた形状にしたり、サンドイッチやおむすびの包装フィルムを薄くしたりして、プラスチックの使用量削減を進めています。2021年には、長崎県対馬市に漂着した海洋プラスチックごみを原材料の一部に使った買い物かごも導入しました。
業界の課題である食品ロス削減にも取り組んでいます。すしやサンドイッチの食材や製造方法を見直し、消費期限を延ばしているほか、2021年には、消費期限が迫ったおむすびや弁当を値下げして売り切る「エコ割」を始めました。
4.4 企業のバイブル「SDGコンパス」って?
SDGsに取り組もうと思っても、「どこから手をつければいいかわからない」という企業が少なくありません。そこで国連グローバル・コンパクトなどの3団体が、企業がSDGsを経営に導入する際の行動の指針となる「SDGコンパス」を2016年に作成しました。企業がどのようにSDGsを経営戦略に取り込み、SDGsへの貢献を測定し管理していくかを、五つのステップで示しています。
ステップ2 優先課題を決定する(事業のどの部分でプラスとマイナスの影響があるか把握)
ステップ3 目標を設定する(目標を設定して、具体的なアクションを考える)
ステップ4 経営へ統合する(関連する事業全体に、目標を定着させ取り組む)
ステップ5 報告とコミュニケーションを行う(活動を報告しステークホルダーと共有する)
4.5 「SDGsウォッシュ」に注意
SDGsに取り組む企業は「SDGsウォッシュ」に気をつける必要があります。「うわべだけ」という意味の「ホワイトウォッシュ」と、そこから派生し、実績がないのに環境問題に取り組んでいるように見せかけたり、不都合な事実を隠して良い情報のみを伝えたりする「グリーンウォッシュ」という言葉に由来しています。
SDGsを、自社の取り組みをアピールするために実際より誇張した表現を使うと、SDGsウォッシュではないかという疑いや批判を招き、信用が損なわれてしまいます。企業はSDGsの取り組みに対して十分な配慮が求められます。
5.SDGsロゴとアイコンの豆知識
SDGsの認知度を高め、目標達成のためのアクションにつなげるために、SDGsをわかりやすくイメージできるようデザインされたロゴとアイコンがあります。その意味や使い方とは? SDGsのロゴやアイコンについて、今さら聞けない豆知識をまとめました。
5.1 ドーナツ形のマークは何?
SDGsの「17の目標」のカラーに合わせた17色をドーナツ形にあしらった、シンボルマークです。「SDGsカラーホイール」と呼ばれ、これをデザインした公式ピンバッジは国連本部のオンラインショップで販売されています。
5.2 SDGsを象徴するロゴ
「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」という文言をロゴにしたもので、「GOALS」の「O」がカラーホイールのデザインになっています。「SDGsロゴ」には縦型(左)と横型(右)の2パターンがあり、それぞれにカラー版、白色版や黒色版があります。
5.3 アイコンの秘密
SDGsの17の目標を視覚的にイメージできるように、正方形のピクトグラム(わりやすい絵記号)で表したアイコンです。反転したカラー版や、白色版や黒色版もあります。SDGsのシンボルでもあるこのアイコンをデザインしたのは、スウェーデン出身のクリエーティブディレクター、ヤーコブ・トロールベック氏です。
それぞれのアイコンの中には、目標とする文言が添えられています。国ごとに翻訳されており、目標1なら、「貧困をなくそう」というキャッチコピーがついています。日本語版のキャッチコピーは、博報堂のクリエイティブボランティアの支援を受けながら、国連関係機関などとともに、イメージが湧きやすい日本語のキャッチコピーが制作されました。
「SDGsカラーホイール」「SDGsロゴ」「アイコン」の三つを組み合わせたものが、「SDGsポスター」です。SDGsの取り組みを紹介するときなどによく使用されています。
5.4 ロゴやアイコンはどうやって使うの?
国連広報センターのホームページからロゴやアイコンをダウンロードすることが可能ですが、使用する際は注意しましょう。情報発信などが目的なら許可なく使用できますが、販促や営利目的などの商業用途や、資金調達が目的の場合は、国連本部への使用申請が必要になります。
詳細なガイドラインは、国連広報センターのウェブサイトに記載されています。以下の記事も参考にしてください。