東京オリンピックについて、これまで関係組織からの発表や報道されたサイバー関連事象についてまとめます。この記事は個別事象を整理したもので各々の関連性は一部を除きありません。また大会期間中のものを判別つきやすくするためタイトル部を赤文字で記載しています。
大会中に起きたこと
1. 大会関係者に関連するサイバー事象
(1) 大会組織委員会
〇公式サイトへの大量アクセス (2015年11月14日発生)
- 大会組織委員会の公式サイトに対して、11月4日20時半頃にDoS攻撃とみられる短時間の大量のアクセスが発生。*3
- 2015年当時のサーバー運営会社*4が攻撃観測を受け自主的な避難措置として通信遮断を実施。組織委員会のWebサイトは11月5日 9時頃までに復旧をした。
- 当時公式エンブレムの公募受付が11月24日から予定されており、応募要領をダウンロードできるよう組織委員会のFacebook等で閲覧できる措置が取られた。*5
〇Twitter公式アカウントの一時凍結 (2020年1月25日発生)
- 発足7年を受け公式Twitterアカウントに2013年生まれと誕生日を設定してしまい、Twitterのサービス利用にあたって年齢制限が設定されていることから公式アカウントが一時凍結されてしまった。*6
【悲報】東京五輪2020の公式アカウント、消される pic.twitter.com/HkF3ZdjXUR
— Osaka-Subway.com/鉄道プレス (@OsakaSubwaycom) 2021年1月24日
〇開会式当日のサイト閲覧障害 (2021年7月23日発生)
- Akamaiの「Edge DNS」で24日0時46分頃に障害が起きたことにより、同社のサービスを利用する東京オリンピックを含む複数のサイトでも接続障害が発生した。Akamaiはサイバー攻撃によるものではなく、ソフトウェア構成の変更が原因で障害が発生したと説明。構成変更のロールバックを行い、障害影響は最大で1時間程度とされた。
〇公式オンラインショップの閲覧障害(2021年7月23日発生)
- 公式オンラインショップで23日21時頃(開会式開始から1時間後)から翌日0時半頃まで接続障害が発生した。警察はサイバー攻撃によるものという認識はないと取材にコメントしている。*7
〇 マスコット撮影が有料との虚偽情報出回る (2021年7月27日報道)
- マスコットと一緒に写真を撮ると手数料として5000円が必要とした海外メディアが選手への取材を記事化したものがネット上で拡散。
- 大会組織委員会はマスコット(オリパラ共に)と一緒に撮影し、SNS上へ投稿を行う場合において対価の設定を行わないことが出演ガイドラインに記載されており、有料撮影について否定した。*8
(2) 国際オリンピック委員会(IOC)
〇公式Twitterアカウントで不正な投稿 (2020年2月15日頃発生)
- OurMineを名乗るグループによって複数のTwitterアカウントから勝手な投稿が行われる事象が発生。その中にIOCが運営するアカウントも含まれており、影響を受けたのはOlymic(@olympics)、IOC Media(@iocmedia)、Athlete365(@athlete365)、Youth Olympic(@youtholympics)、リオ大会公式アカウント(@rio2016)などが報じられている。*9
- 同タイミングに被害に遭ったFCバルセロナはデータ分析用のサードパーティアプリを通じ第三者による投稿が行われたと報告している。
Hackearon las cuentas de Twitter del Comité Olímpico Internacional. En al menos tres de ellas, incluida @Olympics, aparecieron mensajes firmados por "Ourmine" pic.twitter.com/YplpnW1wAH
— Belisario Martínez 💚 (@Belisario_M) 2020年2月15日
(3) 日本オリンピック委員会(JOC)
〇JOC内でランサムウエア感染被害(2020年4月下旬と報道)
- JOC事務局内でランサムウエアによる感染被害が発生し、対応として約60台の端末を約3000万円をかけ入れ替えていたと2021年6月に報じられた。身代金要求は行われていない。また、この件に関してJOCより公式の対外発表は行われていない。
(4) チケット購入者、ボランティア
〇フリマサービスでユニフォーム転売(2021年7月7日報道)
- メルカリやラクマ、ヤフオクなどでボランティアの公式ユニフォームや入館パス(アクレディテーションカード)とみられる出品が行われた。既に約1万円での取引が行われた事例も確認された。大会組織委員会、東京都それぞれのボランティア向け物品での出品が確認された。参加規約では大会関係のボランティアは支給品の第三者譲渡は禁止されている。*10
- ユニフォームの出品行為は無観客開催が決定された7月8日頃から増加。*11
- メルカリは2021年7月17日以降、ユニフォーム等大会関係者向け物品の出品を禁止すると発表した。またラクマでは役職、身元の偽装が可能な制服等の出品を禁止しておりボランティアユニフォームも該当することから出品の削除対応を行った。
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に関連する商品の出品について | メルカリびより【公式サイト】
まぁ、IDないから会場はさすがに入れないよねー、でも人払い出来ない都市部での開催だから一般人は騙せそう、とツイートして、鍵垢友人から追撃がきたでござる。
— ぴ (@Blackymarine) 2021年7月15日
これでも会場内には入れないとは思うけど!思うけど!
こえええええ!!!! https://t.co/Vl4OmmRAcB pic.twitter.com/QFBVLuao3M
〇サイト登録者のパスワード観測報告 (2021年7月21日報道)
- 7月21日に東京オリンピックのチケット購入者やボランティア関係者のIDとパスワードが販売されているとセキュリティ研究者によりSNSへ投稿が行われた。投稿された画像からは10件のURL、ID、パスワード、流出日、被害IPアドレスがリストになったものが確認された。(ID、パスワード、被害IPはぼかしが行われている)取材に対して東京オリンピック関連のサイトからの流出ではないとの見解を組織委員会は示している。また他のセキュリティ関係者は確認された情報はRedLineなど情報窃取を行うマルウエアにより当事者の利用するPCから盗まれた情報の可能性があると指摘。個人のPCから個別に集められたもので、大規模な流出になる可能性は低いとされた。
- 報告を行ったセキュリティ研究者は認証情報以外には暗号化された機密文書やコロナ関連の個人情報なども確認されたと主張しこれに該当するとみられる報道が行われていた*12が、その後確認した情報の一部は公開されたものだったと訂正を行っている。また、登録が行われたサイトへログインができれば氏名や住所などの情報も参照することが出来る。
- 日本政府に対して7月14日に情報提供が行われており、10件のアカウントに対して大会組織委員会は注意喚起とパスワードリセットを行っている。*13
(5) 内閣サイバーセキュリティセンター
〇富士通のProjectWeb不正アクセスで大会関係者情報流出(2021年6月4日報道)
- 富士通のProjectWebが不正アクセスを受けたことにより、内閣サイバーセキュリティセンターの情報流出が確認された。流出した情報の中に、サイバー攻撃への対応を��的とした訓練に参加した約90組織(約170名分)の役職、氏名等が含まれていた。参加組織には大会組織委員会関係者や東京都、福島県等の会場担当の自治体、スポンサー企業などが含まれていた。*14
- NISCは流出情報がオリンピック関連かは明らかに出来ない、業務影響は確認されていないと取材に回答している。
(6) オリンピック参加選手
〇 SNS上で相次ぐ誹謗中傷(2021年5月以降)
- TwitterやInstagramなどで大会参加選手に対して国内外から誹謗中傷が相次ぎ行われた。敗退したことを受けてであったり、試合採点の不満のはけ口として行われるケースが確認されている他*15、大会開催前も選手に対して出場辞退や開催反対を求める投稿が行われた。警視庁は本人から被害届が提出された際は真摯に対応を行うと方針を示した。*16 *17 また選手が反応したことを取り上げた記事が誤った内容であったことから延焼するケースも発生した。*18
- 委託を行っていた編集者が個人で利用するアカウントにおいて人権侵害を伴った不適切な投稿が行われたとして、委託元が契約解除を行ったことを公表する事例もあった。*19
- JOCは選手への誹謗中傷を監視するチームを設置することを大会前より明らかにしており、Twitter社と連携する方針であることが報じられていた。東京オリンピック中に誹謗中傷行為にあたるとみられた書き込みについてはモニタリングを行い、該当する事例も記録している。*20 *21
〇 ベッド破壊動画公開し関係者が謝罪 (2021年7月26日)
- オリンピック選手村で選手らが就寝用に利用するベッドが段ボール製だったことを受け、「何人が乗ったら壊れるか」を検証する動画をイスラエルの選手がTiktokに公開。ベッドは最終的に9人がジャンプをして壊れてしまいベッドが壊れた様子も流された。
- 段ボールベッドはエアウィーヴが開発したもので耐荷重は200㎏。取材に対して破壊されたベッドが拡散されたことは残念としつつ、選手にケガがなく良かったとコメントをしている。*22
- テレビ局がこの動画を取り上げたことでネット上で拡散。その後動画は削除され、行為をした選手が謝罪動画を公開することとなった。*23
〇 選手村にユニフォーム廃棄で批判(2021年7月29日)
- オリンピックで使用したユニフォーム等が選手村に廃棄されていたとして、その写真がSNSへ投稿され拡散。
- 廃棄されたユニフォームはメキシコのソフトボール競技の選手が来ていたもので、写真を投稿したのは同国別競技の選手。同国ソフトボール連盟は徹底した調査を行うとの考えを表明している。*24
Este uniforme representa años de esfuerzos, sacrificios y lágrimas.
— Brianda Tamara (@BriandaTamara) 2021年7月29日
Todos los deportistas mexicanos anhelamos portarlo dignamente, y hoy tristemente el equipo mexicano de sóftbol lo dejó todo en la basura de las villas olímpicas.@esmerfalconmx @CONADE @COM_Mexico pic.twitter.com/zqkmVva6PP
(7) その他
〇大会関係者を狙った不審メール (2020年1月下旬発生)
- IOC、組織委員会の連名による英文の不審メールが確認された。メール文中にはURLが記載されており、五輪ロゴが掲載されたフィッシングサイト(メールアドレス、パスワードの入力フォーム)に誘導される。
- Trend Microは自社の観測より、不特定多数にばらまいたものではなく、狙いを絞ったものである可能性を指摘している。
🆕hxxps://www.oscl.gr/olympicmesage/ pic.twitter.com/gN2o3FmXgt
— John Lambert (@JohnLaTwC) 2020年2月4日
フィッシングサイトが設置されていたとみられるURL
hxxps://amazingmonkey[.]es/tokyo2020comiteeolympic/
hxxps://amazingmonkeys[.]es/olympiccomitee/
hxxps://amazingmonkeys[.]es/tokyo2020portal/
hxxps://154dst[.]com/comiteeolympic/
hxxps://154dst[.]com/olympiccomitee/
hxxps://154dst[.]com/olympicinternationalcomitee/
hxxps://transnesia[.]co[.]id/olympicfencingtoshiromutotokyo2020/
hxxps://byteout[.]xyz/olympic/ad/index.html
hxxps://www.oscl[.]gr/olympicmesage/
〇関係者向けWifiの事前共有鍵が晒される (2021年7月26日)
- 大会関係者向けに開放しているフリーWifiのSSIDが「sushi2020」「sakura2020」と設定*25されており、興味深いとして取り上げられた複数の記事で事前共有鍵まで含めて撮影が行われた写真が掲載された。この件を受けて被害などが発生したなどは報じられていない。
韓国メディア、オリンピック関係者用のWiFiのSSIDが「Sushi2020」「Sakura2020」だってことを面白がって報じてるけど、パスワードまで同じ写真のなかに写しこんでるのええんかこれ。 pic.twitter.com/vaDwTdV3Xj
— 須藤玲司 (@LazyWorkz) 2021年7月25日
2. 東京五輪へのサイバー攻撃予兆に関する動き
(1) 英国
〇攻撃予兆情報の提供 (2019年秋頃)
- 東京オリンピックを狙った偵察行為が発生しているとして英国から情報提供が日本政府へ行われたと報じられた。
- 提供された情報はオリンピック関連のシステムを狙った偵察活動が行われているというものだったとみられる。
- NISC、組織委員会、関係組織が調査を行った結果、実際はシステムベンダであるAtoSに対して行われたものとみられ日本での影響は確認されてなかった模様。*26
- その後、2020年10月に英国が発表したGRUが行った攻撃の件と関連があるとされる。
〇大会関係者を狙った攻撃発生と発表 (2020年10月19日)
www.gov.uk
- ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が大会関係者に対してサイバー攻撃を行っていたと英国が発表。*27
- 対象は大会主催者、物流サービス、スポンサー企業等が含まれていた。攻撃時期はコロナ禍による大会延期決定前で、関係組織を偵察する類だったとされる。*28
- 同日に英国、米国司法省が平昌大会で発生したサイバー攻撃に係ったとしてロシアの関係者を起訴したことを発表している。
(2) Microsoft
〇アンチドーピング機関への攻撃観測と報告 (2019年10月28日)
- MSの脅威インテリジェンスセンターはアンチドーピング機関やスポーツ関連組織を標的としたサイバー攻撃が発生したと公表。
- 攻撃にはAPT28(MSはStrontiumと呼称)が関わったとみられるとして、少なくとも3つの大陸において、16の国内、国際スポーツ関連組織、アンチドーピング機関が狙われたとしている。
- 観測された攻撃の一部は成功したものの、大部分は成果とならず、標的となった顧客への連絡も行われた。
- APT28が行った攻撃として、スピアフィッシング、パスワードスプレー攻撃、IoTデバイスの悪用、そしてオープンソースとカスタムのマルウエアの併用が手法として確認されている。
(3) 東京オリンピックに関連した注意喚起
〇国内関係
- チケット・模倣品・寄付金等の不正サイト・メールや詐欺にご注意ください(大会組織委員会)
- 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に便乗した不審メールにご注意を!(神奈川県警)
- [PDF] 東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて ~SC3 会員企業・組織の経営者へのサイバーセキュリティ対策に関するメッセージ~ (サプライチェーン・サイバーセキュリティ・コンソーシアム)
- [PDF] 夏季休暇等に伴うセキュリティ上の留意点について(NISC)
〇国内キャリア
大規模イベントでの詐欺被害増加の傾向よりフィッシングに対する注意喚起が行われた。*29
- 【お客さまへの注意喚起】通信事業者などを装うフィッシング詐欺にご注意ください (NTTドコモ)
- 【お客さまへの注意喚起】通信事業者などを装うフィッシング詐欺にご注意ください (KDDI)
- 【お客さまへの注意喚起】通信事業者などを装うフィッシング詐欺にご注意ください(ソフトバンク)
- 【再掲】宅配便の不在通知を装った迷惑ショートメッセージ(SMS)にご注意ください(楽天モバイル)
〇海外関係
3. オリンピックに関連したデモや詐欺等の行為
(1) 類似ドメイン名の観測報告(2019年5月)
- 大学の研究者らが東京オリンピックの公式サイト(当時tokyo2020.org)に類似したドメイン名の調査分析を行い、件数などが報じられた。
- 公開されている調査方法は有効なドメイン名の内、tokyo、2020の両方を含むものを抽出するというもの。2019年当時2.4億件のドメイン名が有効で、その内、956件の類似ドメイン名が抽出されたと報告している。この研究チームはその後も調査を継続しており、(調査方法が同一かはわからないが)件数のアップデートを行っている。*30
- 抽出された類似ドメイン名に対しては、Aレコードの設定がある場合、Virusotalを使った簡易の悪性判定を行っており、2019年当時は調査時点でアクティブではなかったものの2つのドメイン名がmalicious判定をされるなど確認されたとしている。
年 | 類似ドメイン名の件数 | 悪性等の判定対象件数 |
---|---|---|
2019年5月 | 956件 | 22件 |
2020年7月 | 1089件 | - |
2021年7月 | 1753件 | 148件 |
(2) 無観客決定後も販売続けるチケット転売サイト (2020年1月報告)
- 無観客決定が行われる前だが、東京オリンピックのチケット転売サイトが確認されたとしてインターネット上の記事で取り上げられた。チケット転売は公式リセールサービス以外では禁止されており、さらには運営者情報などに不審な点も複数見られたということで詐欺サイトの可能性があると指摘された。
- 無観客決定後も同サイトではチケットの販売ページが公開されたままの状態である。
(3) 詐欺メール・SMSの観測
〇類似ドメイン名で番組騙りの詐欺メール(2019年3月)
- 日本アトピー協会を装った詐欺メールで、使用されていたFROMアドレスが
nhk@tokyo202020.com
であった。内容はアトピー悪化の外的要因の紹介など、東京オリンピックとは関係がないもの。 - URLが文中に記載されており、同一のIPアドレスではクリックすると商品紹介の様なページへ誘導される。使用されていたドメインはテレビ番組からの連絡を騙る事例でも使用されていたとの報告があった。
〇 チケット販売を偽装したスミッシング (2019年7月)
- 東京オリンピックチケットの抽選券を配布する内容が記載されたSMSがばらまかれた。競技一覧をクリックするとApple IDへのサインインが要求される。その後さらに宝くじとして表示された一覧をクリックすると記念の盃がもらえるとして送付先の入力やApple Storeのギフトカードの入力を求められるもの。*31
誘導先の偽サイトは、公式サイトのオリンピック協議一覧をパクったこんなところでした。宝くじを引くとApple IDのサインインを要求され、記念御盃がもれなく当たります。送付先を入力すると何故が1万円分のApple Storeギフトカードを強請られる仕掛けでした。 pic.twitter.com/1MaWdGoouC
— Naomi Suzuki (@NaomiSuzuki_) 2019年7月12日
〇延期を受け支援呼びかける詐欺メール(2020年4月)
- 東京オリンピックが2020年3月に延期が決定されたことを受け、巨額の賠償請求の負担が生じるなどと虚偽の記載を行い、支援金を募る詐欺メールが発生。寄付を行った人に対してはチケットを3割引きで購入できるなどとうたっていた。寄付の振込先は暗号資産を指定。
- Trend Microは2020年4月24日~26日の3日間にかけて約400件以上の詐欺メールを確認したことと、送信元IPアドレスは日本国内のISPであったことを報告している。
(4) 聖火リレーや開会式の偽動画配信サイト (2021年3月以降)
- オリンピックの動画配信がみられる等と虚偽の情報を掲載し誘導するものが複数確認された。一部サイトは検索サイトでも上位に表示される状況であった。
- 動画配信をしようとクリックを進めていくと、不要な有料サービスの契約やクレジットカード情報の入力、ブラウザ通知の登録を促されるもの。
- 聖火リレーが行われているタイミングにあわせて「山口県 聖火 リレー放送(LIVE)」などと各自治体名を動画サイト上に載せる動きも見られた。*32
- 偽動画配信サイトへの誘導は検索サイトの他、Twitterへの投稿やYoutube上での動画投稿など複数の手法がみられた。なお、これらの行為を行っている者らが関係しているのかは不明。
- 正規サイトが改ざんされたページを介して、偽動画配信サイトにリダイレクトされる事例も確認された。(現時点では修正済とみられる)
五輪開会式直前ですが、Googleの検索結果からミズノ公式ウェブサイトのドメインを介して五輪開会式のライブ配信を装う偽サイトへリダイレクトされます。cc ->@Mizuno_Tokyo、@jpcert_ac
— mona©︎sec (@monacasec) 2021年7月23日
hxxps://www.mizuno.jp/osc/video-oly-jp02.html
->hxxps://sportsbuz.live/olympics/https://t.co/t2BHumCTbd pic.twitter.com/o57DikCsfF
(5) 通販やフリマサービスで偽のグッズ販売(2017年頃から摘発相次ぐ)
- エンブレムやマスコットなど、オリンピック関連を模した非正規のピンバッジなどをフリマサービスやネット通販で売却する行為が確認された。*33
- 2017年6月にはTOKYO 2020(文字商標)が入った非正規のピンバッジの販売を行ったとして商標法違反で摘発以降、2018年10月警視庁が著作権法違反の容疑で販売目的で所持していた男の逮捕や、2019年6月にオリンピックエンブレムを模した非正規のピンバッジを販売した疑いで商標法違反の容疑で別の男を摘発、2021年5月にはオリンピックの聖火輸送機の偽模型販売を行ったとして商標法違反の容疑で摘発、など立件される事案も相次いでいる。*34 *35 *36 *37
(6) オリンピック公式を騙る暗号資産取引(2021年7月28日報告)
- 「Olympic Games Official Token」といった名前で、選手への資金支援を呼び掛けるサイトが報告された。Kasperskyもこのトークン購入の呼びかけ行為を「詐欺の中でも興味深い」とコメントを行っている。
- 偽取引サイトへどのようにして誘導が行われるかは報告されていないが、piyokangoはキーワード次第では検索サイト上に表示されることを確認している。
(7) SNSでボイコット呼びかけ (2021年7月20日以降)
- 7月20日~7月24日と8月8日にかけTwitter上で特定のハッシュタグを用いて東京オリンピックのボイコットを呼びかける投稿が行われた。
- このハッシュタグ上では大会関連組織としての日本スポーツ協会など4組織を列挙しており、さらには攻撃を示唆する投稿も行っている。但し、対象として名前を挙げられた組織では2021年8月8日時点で障害公表などを行っておらず攻撃が実際に行われたかは不明である。
(8) 東京オリンピックの海賊版動画出回る (2021年7月31日)
- 開会式の海賊版動画がインターネット上で出回っていると報告された。8Kの動画ファイルであったことから海賊版では初めての事例とされており、サイズも約135GBと巨大なファイルとなっている。ファイルの内容から、NHKが8K放送していた動画の可能性があると指摘されている。*38
- 開会式以外にもビーチバレーなど競技中の動画とみられるファイルも出回っていることを確認している。
(9) 真偽不明なセキュリティ企業のフィッシング報告(2018年8月)
- 2018年8月に 企業へのスピアフィッシングやチケット購入希望者を狙ったスミッシングが行われているとしてセキュリティ企業が報告を行っている。
- この攻撃に用いられた複数のドメインが報告されているが、比較的大規模な攻撃で会ったことを報告しているにも関わらず、同事象について実際に被害に遭った企業や他のセキュリティ企業からの報告が行われておらず、また攻撃に使われたとするドメインの一部を取得できてしまった、取得後もアクセスがほぼ確認されていないとする報告もあり、この企業が報告した事象が実際にあったのか真偽が不明な情報が当時出回った。
報告されたフィッシングサイトとみられるURL
www[.]kennicwa-tokyo2020[.]io/bolde12[.]exe
www[.]ticket-sales[.]com/index[.]htm
www[.]20gamestokyo[.]net/emp[.]asp
livetokyo2020[.]net/media-ch[.]asp
freeloaderstokyo[.]com/fill-form[.]html
www[.]ticket-sales[.]com/index[.]htm
freeloaderstokyo[.]com/fill-form[.]html
tokyogames[.]net/contact-bankdetails[.]htm
2020tokyogame[.]cn/gtui/gifthamp[.]js
4. その他関連する事象
(1) 「オリンピック」名がついた実行ファイルの観測 (2021年7月22日)
- 「【至急】東京オリンピック開催に伴うサイバー攻撃等発生に関する被害報告について.exe」というファイル名の実行ファイルが確認されたとして、セキュリティベンダが解析報告を行った。
- メールに添付されたり、インターネット上でばらまかれたりなど、実際に悪用されているケースは発見時点では確認されておらず、2021年7月21日にVirustotalにTor経由でアップロードされたものを複数のセキュリティベンダが発見し解析した。なお、発見以降も大会終了までにこれらのファイルに関連する攻撃などは報告されておらず、悪戯目的の可能性もあるとセキュリティ企業は分析している。
- PDFファイルのアイコンを模した実行ファイルで、実行すると特定の拡張子のファイルに対してWiper(ファイル削除)として機能する。また特定プロセスの存在判定など解析除けの仕組みも複数実装されている。削除される拡張子には一太郎形式である
jtdc
なども含まれていた。また意図は不明だが、実行後にアダルト動画サイトへの接続を行う処理も実装されていた。 - 問題の実行ファイルがアップロードされる3日前には「zzz.exe」といった類似の実行ファイルがアップロードされていた。ファイル削除機能こそ実装されていないが他は同様の実装が行われているとしてテスト目的で作られた可能性が指摘されている。
実行ファイルの解析報告等
(2) 競技開始後サイバー攻撃約10倍報道(2021年7月29日報道)
- CloudflareがインターネットやDoS攻撃の状況を取りまとめたダッシュボードをソースとしたとみられる、五輪開始後に攻撃件数が増加しているとの記事が公開された。*39
- 記事では攻撃件数が約10倍、最も多いところでは約30倍となっていると記載されているが、この傾向についてCloudflareが直接言及したのかは記事中からは判別ができず、また東京オリンピックとは直接関係のない米国でも似たような傾向となっていた。
(3) 過去大会の事象
〇リオ大会のサイバー関連事象 (2016年)
〇平昌大会のサイバー関連事象 (2018年)
更新履歴
- 2021年8月9日 AM 新規作成
- 2021年8月9日 PM 偽動画配信サイトの一部を正確な表記に修正
*1:サイバー攻撃「発生ない」東京五輪で官房長官,共同通信,2021年7月26日
*2:大規模サイバー被害なし 五輪閉幕で梶山経産相,産経新聞,2021年8月10日
*3:東京五輪組織委にサイバー攻撃 HP、一時閲覧不能に,日本経済新聞,2015年11月6日
*5:東京五輪組織委:サイバー攻撃か 午前9時過ぎ復旧,毎日新聞,2015年11月5日
*6:東京オリンピックのTwitterアカウントが一時凍結。原因は例の「誕生日」のやらかし,INTERNET Watch,2020年1月25日
*7:東京オリンピック オンラインショップ 一時利用不能に,NHK,2021年7月24日
*8:五輪マスコット「ミライトワ」撮影で「5千円とられる」…ネット情報、組織委は全否定,弁護士ドットコム,2021年7月30日
*9:Twitter Accounts For The Olympics, FC Barcelona Hacked By OurMine,Mashable India
*10:五輪ボランティア用ユニホーム、フリマアプリに出品相次ぐ…犯罪に悪用の恐れも,読売新聞,2021年7月7日
*11:ボランティア制服の転売急増 「無観客」決定後、削除求める―東京五輪,時事通信,2021年7月15日
*12:五輪関係の情報流出 チケット購入者らのID・パスワード,朝日新聞,2021年7月21日
*13:IDとパスワード、ネット流出は10人分 五輪チケット購入者ら,毎日新聞,2021年7月22日
*14:五輪組織委の個人情報も流出 富士通の不正アクセス問題,日本経済新聞,2021年6月4日
*15:選手へのSNS中傷相次ぐ 卓球水谷、体操橋本も被害―対策急務・東京五輪,時事通信,2021年7月29日
*16:五輪選手への誹謗中傷 警視庁「被害届出れば対応」,ANN,2021年7月25日
*17:「見たくないのに」選手涙 相次ぐSNS中傷、どう防ぐ―東京五輪,時事通信,2021年7月31日
*18:村上茉愛選手は五輪を反対してる人に「見返したい」「思い知ったか」とは言ってない。問題の記事も修正済み,Yahoo!ニュース,2021年7月31日
*19:大坂なおみ選手を中傷する差別投稿 徳間書店が編集者の契約解除,共同通信,2021年7月28日
*20:JOC、五輪選手への誹謗中傷監視チーム設置 悪質なら通報も,毎日新聞,2021年6月29日
*21:SNSで五輪選手を中傷「断じて許されない」 JOC、警察と連携を検討,東京新聞,2021年8月1日
*22:選手村の段ボールベッド「破壊動画」が話題に、エアウィーヴ「跳びはねることは想定していたが…」,読売新聞,2021年7月29日
*23:選手村のベッド破壊動画公開 イスラエル選手、謝罪,産経新聞,2021年7月29日
*24:選手村でユニホーム捨てる ソフトボール代表に批判―メキシコ,時事通信,2021年7月30日
*25:sushi2020は輸送バス、sakura2020はメディアセンター、会場などで利用可能。
*26:ハッカーも五輪はお祭り? 日本、情報共有に残る不安,朝日新聞,2021年7月16日
*27:Tokyo Olympics: Russian hackers targeted Games, UK says,2020年10月19日
*28:東京五輪 関連組織が「露サイバー攻撃の標的に」:英政府,読売新聞,2021年11月27日
*29:携帯4社、フィッシング詐欺の注意喚起,日本経済新聞,2021年7月21日
*30:五輪、類似ドメイン1753件,共同通信,2021年7月26日
*31:「五輪抽選」SMSで偽サイト誘導 個人情報盗む詐欺注意を,東京新聞,2019年7月15日
*32:聖火リレーで偽サイト、警察が捜査 生中継うたう,日本経済新聞,2021年5月15日
*33:偽五輪ピンバッジ、交換の場なくネット上に 愛好家注意呼び掛け,毎日新聞,2021年7月27日
*34:東京五輪ロゴ、不正使用の疑い ピンバッジ販売の男逮捕,朝日新聞,2017年6月15日
*35:五輪関連グッズに偽造横行か フリマサイトなど注意,日本経済新聞,2019年7月8日
*36:出回る東京五輪「偽」バッジ 出どころを追って驚いた,朝日新聞,2018年12月5日
*37:五輪聖火輸送機の偽模型販売 商標法違反容疑で男逮捕―警視庁,時事通信,2021年5月28日
*38:Tokyo Olympics Opening Ceremony is The First Mainstream 8K Rip on Pirate Sites,TorrentFreak,2021年7月31日
*39:日本へのサイバー攻撃、五輪開始後は約10倍に 組織委「対策を徹底する」,ITmedia,2021年7月29日