2億円の見積もりされたのを820万でできたのはすばらしいと思う
が、過大評価はしない。
「IP電話を導入する場合のベンダーの見積もりは約2億円だった。アナログ交換機を更新する場合でも費用は約2000万円。しかし自分たちで敷設することでサーバーは20万円,電話機500台は800万円で導入でき,電話料金も年間400万円削減できた」---秋田県大館市産業部商工課商業労政係主事の中村芳樹氏は,IP電話導入の経緯と効果をこう振り返る。
見積もり2億円のIP電話を820万円で構築した秋田県大館市から学べること | 日経 xTECH(クロステック)
詳細に要件が見えている状態で2億円提示されたらまあそのベンダーは切ってもよい。逆に、適当にこういうことがしたいんですけどー的なノリで見積もらせたのであれば極大に金がかかるシチュエーションを想定して「最大このくらい」で見積もるだろうから、お役所と思って足元を見る(お役所は緊急時のために無駄を積まなければならない存在ではあるから)状況とは言え、2億円があながち的外れではない。高い信頼性を要求したら例えば(こっち系は弱いので大変適当な数字ですが)
- 要件調査…SE2名で1月(300〜400万)
- 要件定義作成(SEコスト400万)、什器(電話500台×2万+サーバ100万+ルータやら交換機やらで200万)
- 敷設と設定と運用監視開発で5人1月800万くらい?
- 教育・引継で2〜300万
とか積んでいくと3000万。どのスペックでどこまでやるか、というのははっきりいって要件しだいなので、これが2億になることはないことではありませんね。例えば、一台でも故障したらすぐに交換するとか、サーバーは常に二系構成+バックアップスタンバイとか、監査証跡のための機能とか、設定するための権限管理とか、保守コストとか、常駐SEとか、定期的なセキュリティーチェックとか、まだまだ積めるものはたくさんあります。
とはいえ、最低限でよいし、リスクは自分で被る、だったら相場に比べたらかなり安く出来るのも確かです。不確実な部分に対応するコストというのは大変に高いものであり。
あと、各所で指摘されていますけれども、この記事にある一つの問題は、人件費。ベンダーの見積もりには技術料としての人件費はかかっているから、いくら本業とは別でやったとしても、残業代が発生しているはずの公務員の人件費を無視してはいけないし、教育とか引継ぎとか保守を自分たちでやるのであれば、それもコストとして算入しなければなりません。いや、暇だからいいんだってなら別ですよww人員削減しろよって話ですが。
什器にしても、組み合わせとか実績の部分でリスクを負えないベンダーは高くなるのは仕方がない。責任は全部負うからとにかく安く、という提案依頼であれば、瑕疵担保責任一切なしで、故障の保証も(初期不良や設計ミス以外)一切なしで、という契約であれば、同等の提案(ただし人件費分高い)が出来るかもしれません。もちろん、人件費はプロフェッショナルサービスですから公務員の自給よりはだいぶ高いはずだけど。
よく業界の人は、「1000万?高すぎるなあ。個人的に頼まれたら100万でやってあげるのになあ」というようなことを言いますよね。これは真実100万でできることもあります。ただ、残りの900万が何に対してお金を払っているか、ということを無視してはいけない。「この程度の要件なら、自作サーバ1台とフリーのアレとアレを組み合わせて…」という程度のものが出来れば本当にいいのか。何か問題が起きても保守してもらえなかったりするとかえって困ることもあります。今いろんな会社で起きている「Excel業務システム(担当者退職済)」問題なんかもそれに類するものです。エンドユーザーがシステムを作れる、というのは人に依存してしまう可能性はかなり高い。教育するっていったって、ITの専門家として雇っているわけではない以上、みんなに適性があるわけでもないしね。そのあたりはちょっと心配です。
あと
つまりプロでもアマチュアでも,同じ情報にアクセスするこが可能だ。大館市の中村氏も普通科高校出身で,コンピュータの専門教育を受けたわけではない。意欲さえあれば,プロに劣らないスキルを身につけることができる環境が生まれているのではないか。
見積もり2億円のIP電話を820万円で構築した秋田県大館市から学べること(3ページ目) | 日経 xTECH(クロステック)
これはちょっとね。ベンダーの人間だって結構な人数そうなんだから、これを言ってしまうのは「お役所の仕事はITスキルを身につけシステムを構築すること」と言っているのと大差ない。それはちょっと違うよね。本業をちゃんとしなさいとは思う。
ただ、こういうことが出来る人が要る、というのはベンダーやシステムの評価をちゃんとできるし、要件の取捨選択もできるということで、ユーザーとしては理想的な状態であることは間違いない。お役所ということで、地場産業としてのITベンダーを育てる力になれるかもしれない。そういう点で、こういったケースをよいお手本にして欲しいとは思う。
この話は、個人的にはよい話だと思う。これはつまり、「要件」とは、「必要」である、ということをよく認識できる話だ。「念のため」で肥大化する無駄なシステムは山ほどある。とはいえ、「念のため」が要件になってきているのが最近の傾向でもある。それは業務システムとしてというよりはITによる企業統制として。J-SOX対応とか、個人情報保護法対応とか、そういうもの。
そのあたりのバランスを取って顧客のニーズにマッチしたシステムを作っていくことがSIerやベンダーの使命です。だから、銀行のシステムが高額になるのが仕方がない(とは言え、中にいる僕の目からしても高すぎると思うが)のと同様に、きちんと要件が絞られたシステムが安くなるのも当然でなければならないのです。
悲しいかな、客の厳しい目線に晒されすぎたベンダーはリスクを避ける方向にひた走る傾向はあります。さらにぶっちゃけると、技術力が実はそれほど高くないところに原因があるんだけど。この市職員より技術力の低いベンダー社員なんて山盛りいるだろう。でも、集団としての実力は、当たり前だけど市役所よりは高いわけだ。専門家だからね。なんだか悲しい比較だけど…
最後にもう一つだけ。ベンダーに頼むということは、ベンダーが仕事をするということです。仕事をするというのは什器をマージンを取らずに買ってきて敷設してくれるということではありません。適正な利益(これは市職員が自分で出来る程度のことだから安いというわけでは必ずしもありません)を取ること自体は商行為として当然のことです。その点はぼったくりではないということだけはわかってもらいたいものです。