本しゃぶり

骨しゃぶりの本と何かを繋げるブログ

当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

最高にエッチな画像が遺伝的アルゴリズムで生み出される様子を見て反省する日々

「なぜ見抜けなかったのか」

画像の選択を迫られるたびに俺は自問する。
進化の筋道を正しく予測するのは難しい。

遺伝的アルゴリズムの活用

2021年から、新たに習慣となった行為はあるだろうか。俺はある。PCの前に座り、二つの画像のうち、どっちの方がエッチかを選ぶ。これがモーニングルーティンとなっている。もちろんこれの話だ。

f:id:honeshabri:20210207155937p:plain
遺伝的アルゴリズムで最高にエッチな画像を作ろう!

これまで何度も話題になっていたし、直近でも関連ツイートがバズっていたので、本記事を読む人の大半は知っているだろう。名前の通り、遺伝的アルゴリズムでエッチな画像を作るシステムである。人が画像を選択することで、よりエッチな画像が生き残り、高みへと一歩近づく。最初はノイズのようなモザイク画だったが、10,000世代を超えた現在では「女性の裸体」と認識できるものに仕上がっている。

f:id:honeshabri:20210207155639p:plain
0世代と10,000世代

現状について「最高にエッチな画像か」と問われたら、賛否両論となるだろう。背景を知らなければ「否」と答える人の方が多いに違いない。だが程度を無視して「エッチな画像か」という質問なら、肯定する人の方が多いと思う。それだけでシステムは十分に機能していると言える。

俺はこうなることを見抜けなかった。

できるわけがない

最初にシステムを見たとき、俺は上手くいかないと思った。進化論を信じていないからではない。ランダムな状態からスタートし、人が選ぶからである。一つ試してみよう。どちらの方がエッチな画像だろうか。エッチに見える方をタップしてみよう。

f:id:honeshabri:20210207172427j:plain
どっちの方がエッチかな?

これは50世代と150世代を並べたものだ。単純に考えたら150世代の方が100世代進んだ分だけエッチである。どちらが150世代か分かるだろうか。あなたの感性が人間として多数派なら簡単なはずだ。自信を持ってエッチな方をタップすれば良い*1

だが「そう言われても」と困惑する人は多いと思う。あるいは「自分の判断に100万円を賭けられるか」と問われたら、「NO」と答える人が大半のはずだ。そうなるのは、どちらの画像も一般的に想像されるエッチな画像 (=人間の裸体) からはほど遠いからだ。

AIなら一貫したルールの下に選択できるだろう。理想的エッチ画像の特徴量をパラメータとして持っており、1%でも高い方を選択するからだ*2。しかし人が行う場合、理想像からかけ離れていると明確な意思のもとに選択を行うのは難しい。

f:id:honeshabri:20210207182132j:plain
AIの選択と人の選択

選択の基準が「なんとなく」だと、どちらが選ばれるかはランダムに近くなる。さっきと言っていることが違う上司の言うことに従うことで、提出物のクオリティが上がるだろうか。淘汰圧が安定しないと、進化の方向性は定まらない。現に先の比較でも、古い世代である50世代の方が肌色成分は多い*3

なのでこの試みは失敗すると思っていた。「最高に」どころか、単純な形でも人体を錬成することはできないだろう、と。しかし結果は知っての通りである。いったい俺の何が間違っていたのか。

人体錬成の過程

人体で最初に誕生したのは乳房であった。

f:id:honeshabri:20210207202047p:plain
3,525世代

遺伝的アルゴリズムで作られているため、画像は少しずつ変化する。なので明確に「いつから」と言うことはできない*4。だがあえて抜き出すなら、この3,525世代だ。両乳が揃い、顔も作られ始めているからである。特に左乳にいたっては現在 (10,699世代) と完全に一致する。

f:id:honeshabri:20210207202927j:plain
3,525世代と10,699世代

完成度から見ても分かるように、先に作られたのは乳房である。まず乳房があり、その中間上方に肌色のパーツが出現して顔となった。

乳房の成立過程を見てみると、ポイントとなるのは3,294世代である。左乳の隣に肌色の丸が降りてきた。これまで独立してた要素が、一つの存在として認識されるようになる。単細胞から多細胞に進化したのだ。

f:id:honeshabri:20210207205833j:plain
単細胞から多細胞に

ここまで提示した画像だけでも言えることがある。それは、各パーツの役割は関係性で決まるということだ。3,525世代で現れた四角を顔と認識できたのは、その下に丸が2つ並んでいたからである。さらにこの関係性は相互依存となっている。もともと2つの丸は乳房らしさがあったが、顔を獲得したことによって役割はより強固になった。これは右乳が誕生した時も同じである。1つしかなければ、右も左も無い。右乳が誕生したことで、同時に左乳という概念も誕生したのである。

一度関係性が生まれると、それを足がかりとして新たなパーツを獲得する。パーツが増えれば関連性が強まる。そして方向が定まり進化は加速する。現在の人体はこのようにして作られたのだ。

しかしこの説明は俺の誤りに対する説明とはなっていない。一度関係性が生まれた後はいいが、問題は最初の一歩である。なぜカオスの中から最初の秩序を生み出せたのか。俺は何を見落としていたのか。

⦿⦿

『遺伝的アルゴリズムで最高にエッチな画像を作ろう!』は長方形と楕円形の組み合わせで作られている。では一つの節目である3,525世代の乳房は何個の図形で作られているか。答えは3個である。右胸、左胸、そして左乳首である。たった3つの丸だけで、人はそれが特定の部位であると認識したのである。

しかも3つ揃う前からあの丸には意味があった。単細胞時代の左乳を見てみよう。

f:id:honeshabri:20210207214711j:plain
単細胞時代

この時代の丸は何に見えるだろうか。俺には「顔」に見える。ピンク色の点は下側にあるので「口」に見えるが、おそらく中心にあっても顔と認識する人は多いだろう。中心には「鼻」があるからだ。

ROBOT魂 コピーロボット (1号)

ROBOT魂 コピーロボット (1号)

  • BANDAI SPIRITS(バンダイ スピリッツ)
Amazon

つまり丸は2個しかなくても、人体を作る上で有用ということである。さらに言えば、肌色であるなら丸が1個でもいい。顔か乳房を筆頭に、裸体を連想させる要素であるからだ。従って肌色の丸が生まれたならそれを維持しようとする力が働く。そして偶然もう一つ肌色の丸が出現したり、丸の内部に点が生じると、より人体に近づくため生き残る。乳房への距離はあと一歩だ。

f:id:honeshabri:20210207221416j:plain
乳房への道筋

乳房は最小限の図形で構成され、その途中状態でも有用であるから、カオスからでも生じる可能性が高いのである。しかも「エッチな画像」というテーマが生存を後押しする。

エッチなパーツ

乳房の誕生がまとめられた時、作られつつあるものが女性の身体であることに言及するコメントがいくつか目立っていた。

なぜ女性の身体的特徴が真っ先に現れたのか。一つの理由としては、参加者の男女差が挙げられる。確率的に異性愛者の男性が最も多いため、性的対象である女性の身体が作られたというものだ。制作者によれば、乳房が誕生するまでを含む時期の男女比は約6:4である。

遺伝的アルゴリズムは数で決まるので、これが大きな理由を占めているのは間違いない。男女差が生じたのは、性別による性的欲求の傾向が異なるからだろう。性的欲求を満たすために画像や動画を求める割合が多いのは男性であり、女性は精神的繋がりを求める傾向にあるからだ。例によって『性欲の科学』からデータを引っ張ってくる。

アル・クーパーらがスウェーデンで行った「性的オンライン活動についてのアンケート」によると、主な活動として「エロ画像・動画を見る」と回答した割合は、男性は37%で最も人気だったのに対し、女性は6%にすぎなかった*5。女性に人気なのは「恋人やセフレと連絡を取る (21%)」*6「同じ性的嗜好の人達とチャットする (17%)」*7である。今回は「エッチな画像」を作るものなのだから、男性が多くてもおかしくない。むしろこのアンケート結果と比較したら、女性の参加率は多いとすら言える。

さらにもし男女比が5:5、あるいは女性の方が少しばかり多かったとしても、結果は遠からず同じになったのではないかと考える。それは女性の求めるパーツが作りにくいからだ。

オギ・オーガスサイ・ガダム1,878人の作家による10,344作品のロマンス小説の全文を抽出し、ヒーローの体がどのように描写されているか調査した。ヒーローのパーツを表���頻出語トップ7は以下となった。

  • ほお骨
  • あご
  • ひたい
  • ウエスト
  • ヒップ

乳房より簡単に作れそうなのはヒップしかない*8。そのヒップさえも点がつけば乳房に変わる。

f:id:honeshabri:20210207225740p:plain
非可逆変化

その乳房は既に述べたとおり作るのが簡単である。しかも絶大な人気を誇るパーツだ。オーガスとガダムが検索エンジン「ドッグパイル」に打ち込まれた検索ワーズ約4億語を分析した結果によれば、体のパーツにまつわる語句で最も多かったのは「乳房」にまつわる単語であり、性的検索ワーズの4%を占めていた*9

もちろん日本のオタクでもこの傾向は変わらない。FANZA同人カテゴリの「タイプ/身体的特徴」を見てみよう。一覧に表示されている34カテゴリの内*105つが乳房関連である。

f:id:honeshabri:20210207230756p:plain
同人ジャンル一覧 - FANZA同人

pixivのR-18イラストならどうだろうか。トップのタグは「#おっぱい」で、身体パーツでは「#巨乳」が続く形である。

f:id:honeshabri:20210207232142p:plain
#R-18のイラスト作品(1万件超) - pixiv

これをもたらしたのが生得的な要因か文化的な要因かはさておき、現代の日本でエッチな身体パーツの人気投票を行ったら、乳房が1位になるのは間違いないだろう。

だがここで一つの疑問が生じる。乳房が強いのは間違いない。しかし今回の結果は必然であったと言えるのだろうか。もう一度やり直しても、乳房から女体が生まれるのだろうか、と。

Re:乳から始める遺伝的アルゴリズム

残念ながら現時点ではこの取り組みは1回しかない。「ミュージックラボ実験*11」のように最初から複数の世界線を用意してあれば比較することで分かっただろうが、おそらく今回はそうなっていない。だが諦めるのはまだ早い。歴史を掘り起こせばヒントは見えてくる。

上で「人体で最初に誕生したのは乳房であった」と延べ、3,525世代を紹介した。そして左乳はもともと単独で存在しており、3,294世代で左側に丸が降りてきて左乳になった、と*12。だがこの左乳は右乳になっていてもおかしくなかったのだ。

f:id:honeshabri:20210208002023j:plain
2つの系譜

上段の3枚は、先に単細胞時代の左乳として紹介したものである。これと並行して、もう一つの強力な系譜があった。それが下段である。

縦に潰されたような形が特徴であるこの系譜に最初の変化が確認できるのは3,070世代である。「顔」の右側に赤い丸が出現したのだ。この赤丸が3,133世代では肌色になり、黒乳首まで獲得している。こうして一足先に両乳を手に入れたこの系譜は、現在に繋がる系譜との激しい争いを繰り広げた。しかし3,187世代の頃、片乳が緑色になるという致命的な変異が起きる。その結果、ホモサピエンスに敗れたネアンデルタール人のように、進化の競争から脱落したのである。

つまり乳房の獲得は2度あった。もちろん片乳は共通の先祖を持っているのだから、全く0から同じことが起きる証明にはならない。しかし、ヒトとタコの眼がよく似た構造を持つように、乳房という強力なパーツは収斂進化で獲得するのである。したがって再度この実験を行っても、再び乳房が生じる可能性はあると言えるだろう。進化は繰り返す…… こともある。

なお、記録上では13世代の時点で片乳が誕生しており、35世代では両乳が揃っているが、これは「オッパイ」ではなく「オーパーツ」である。

f:id:honeshabri:20210208003837j:plain
オーパーツ

13世代と3,093世代を比較すると、完全に一致する。画像保存システムのバグで紛れ込んだのだろう*13

f:id:honeshabri:20210208004010j:plain
13世代と3,093世代

終わりに

このように、後から振り返ってみればこの結果は予測できていても良かった。乳房のシンプルさとパワーを理解しているのであれば。俺は進化の本も乳房の本もそれなりに読んできている。だからなおのこと悔しい。その悔しさを忘れないため、今日もどちらの方がエッチか選択している。

とはいえ現在の状況は「必然」ではない。3,000世代を超えるまで乳房の獲得には至らなかった。もし2,000世代のあたりでユーザーが諦めていたら、俺の予想通り試みは失敗に終わっていただろう。そうすると俺が一番理解していなかったのは仕組みではなく、人々の心理だったのかもしれない。

制作者による記録 (2021/02/11 追記)

参考書籍

本記事を書く上で参考にした本。

『性欲の科学』

いつもの本。餅月ひまりも最近の動画で使っていた*14

『生命の歴史は繰り返すのか?』

内容そのものを参考にしたというより、本記事を書く気にさせた本。進化を実験で解き明かそうとする人たちついて書かれている。進化というと膨大な時間がかかるイメージがあるが、実は意外に速いペースで進んでいる。それも地質学上のスケールではなく、一人の科学者が実験で確認できるほどに短い期間でだ。

こういうのを読むと自分でもやってみたいと思うがなかなか難しい。なので生物ではなく画像を対象に調べてみた。

『進化とは何か』

これもどっちかといえば取り組み方を参考にした本。『利己的な遺伝子』で有名なリチャード・ドーキンスが子供に分かる形で進化を解説する。本書にはそれこそ遺伝的アルゴリズムを使って蜘蛛の巣の形状や眼の成り立ちについて説明する話がある。この記事を読んで進化に興味を持ったなら本書を勧める。

絵をクリックさせるタイプの記事

俺も以前に人に絵をクリックさせる実験をやったことある。今からでも「遺伝的アルゴリズムで最高にエッチな画像を作ろう!」にPtengineを仕込んで、人がどこをクリックしているのか調べてほしい。

*1:ブクマカはメタ的に考えて選ぶから困る。もっと自分に素直になれ。

*2:もっとも、AIでもモデルによってどちらがエッチであるかの判断は異なるだろうが。ここでは同一のAIなら一貫した選択をするという意味で言っている。

*3:ということで正解は左側が50世代で、右側が150世代である。

*4:しかもシステムエラーによって別の世代の画像が保存されている可能性もあるので。

*5:(PDF) Predicting the future of Internet sex: Online sexual activities in Sweden

*6:男性では8%

*7:男性では10%

*8:眉はそれ単体なら1個の図形で作れるが、それを眉と認識するには他にも多くの図形が必要となる。

*9:他にパーツで人気なのは「女性器」2.8%、「ペニス」2.4%、「お尻」0.9%と続く。

*10:髪に関するカテゴリも5つあるのが興味深い。長さや色だけでなく、髪型もあるのでバリエーションが豊富だからだろう。

*11:ダンカン・ワッツが行った人気投票の実験。詳細はこの記事に書いた。 『鬼滅の刃』大ヒットの理由が見つかることは無い

*12:身体の正面を見ている形だから、我々から見て右側に左乳があってややこしい。

*13:2021/02/08 22:10 追記:群青ちきんさんはTwitterを使っています 「ちなみに、かのブログで言及されている「オーパーツ」の正体は、システムのバグによるファイルアップデートミスだと思われます。0〜100代目あたりの画像は特に信用なりません。」 / Twitter

*14:(人はなぜNTRをやめられないのか…生物学の観点でその謎に迫る【餅月ひまり from ゆにクリエイト】 - YouTube