ピッチクロック導入で試合30分短縮 意外な売り上げへの影響も…メジャー激変新ルールの影響検証
メジャーリーグでは今季から複数のルール変更があり、昨季とは違った野球が見られるようになった。投球間の時間を制限する「ピッチクロック」が導入され、試合時間は1試合平均で約30分も短縮された。シフト禁止は打率や得点アップをもたらし、けん制制限やベース拡大に伴い、盗塁数が増加。各ルールによる劇的な変化を検証する。(MLB取材班)
16日(日本時間17日)のエンゼルス―Rソックス戦は、ピッチクロックの影響を如実に示した試合となった。試合時間1時間57分。4日(同5日)のツインズ―マーリンズ戦に並ぶ今季最短タイとなった。MLB全体では1試合平均で30分短縮。試合時間短縮の狙いは十分に達成されている。
導入直後とあり、現場も審判も探りながらの側面はある。大谷は5日(同6日)の敵地・マリナーズ戦で、投球動作に入るのが早すぎたと違反を宣告された。昨季、無走者時の投球間隔は21秒7で、先発投手で2番目に長かった。今季から使用が認められた投手が操作できるピッチコム(サイン伝達機器)を使って球種を選択するなど工夫するが、早すぎることも問題となった。「審判の方もグレーゾーンみたいな感じだった」と振り返るなど、球審によって基準が異なるのが現状だ。
選手の体調への影響はどうか。エ軍の救援右腕エステベスは「試合が短くなれば休養の時間も増え、疲労度は減る」と語る。一方、エ軍の寺田トレーナーは「先発の疲労回復にどういう影響があるか。投球間隔が10秒短くなると、呼吸が2、3回少なくなる。その分、体に運ばれる酸素が減る。まだ問題は起きていないが、登板間のリカバリー変化があるかもしれない」と指摘。同じ強度の負荷を短時間でかけることはリスクとする意見もある。
長時間試合で離れるファンを引き留めることも目的だが、野球の醍醐味(だいごみ)に関わる問題も起きている。オープン戦では、同点の9回2死満塁で打者が打撃準備を整えるのが遅かったとして1ストライクが加算され、三振で試合終了になる珍事が起きた。14日(同15日)には、今季ドジャースからカブスに加入したベリンジャーが昨季までの本拠地に戻ると、1打席目のスタンディングオベーションで打席に入るのが遅れ、1ストライクを宣告された。
意外な影響も出た。試合時間短縮でビールの売り上げが減少。通常は7回終了時までに販売をやめるが、一部球場は8回まで延長する措置を導入した。現地で観戦するファンからは「同じチケット代を払っているのに試合が短いとお得感が減る」という声もある。
劇的な時間短縮により、NPBでの導入議論も起こるだろうが、まだ各チーム開幕15試合程度。効果や問題点、ファンの動向などを見守る必要がありそうだ。ちなみに、WBC決勝で大谷がトラウトから空振り三振を奪った、最後の球を投げるまで20秒以上。WBCにピッチクロックがあったら、あの緊張感はなかった。
エンゼルス・ハーゲット投手「打者に得なルールで投手にいいことはない。納得がいかなくても投げないといけないし、常に焦らされて心地よくない。納得して投げていない球もあるので打ちやすいだろう」
エンゼルス・タイス捕手「『この球をこの状況で使うとどうなるか』などを事前にしっかり勉強しておくことが大事になった。しっかりプランを立てておかなければいけない」
Rソックス・ウィンコウスキ投手「僕は準備の遅い打者にイラッとするタイプ。なかなか構えず、肘当てを触ったり、ヘルメットをかぶり直したり。だから投げやすくなった」
上原浩治氏(イベントでRソックス戦を観戦)「急がされている感じがすごくする。試合を見ていても、秒数に目がいってしまう。ちょっと野球に目がいかない感じがあるので、もうちょっと野球を楽しませてほしいなと。5秒くらい延ばしてもいいんじゃないか」
◆ピッチクロック 試合の無駄な時間を省き、ペースを速めるために導入された。投手はボールを受けてから無走者で15秒以内、走者ありで20秒以内に投球動作に、打者は残り8秒までに打撃姿勢に入らなければいけない。投手は違反で1ボール、打者は違反で1ストライクが自動的に加わる。打者の準備が整う前に投手が投球動作に入ることも禁止。タイマーは球場の複数箇所に設置され、カウントダウンが終わっても音などはならず、球審が宣告する。