これはいい本だ。なんてったってタイトルがいい。「まだ見ぬ冬の悲しみも」。ただ、おれはこのタイトルを知ってから、知らない間に「まだ見ぬ冬の悲しみを」をだと思いこんでいたんだ。おれの頭の中が変化したのか、現実世界の方に変化があったのかはわからない。でも、「まだ見ぬ冬の悲しみを」の方が、単品としてはよくないだろうか?
本書は短編集であった。
「奥歯のスイッチを入れろ」は、ソニック・スピード・ソルジャーというアンドロイド兵器になった男の話。その速度で動く相手とソニック・スピードで戦闘が展開される。とにかくすごく速く動くが、意識もそれに合わせて働くので……なんというか、現実時間からすると、非常にスローモーションの戦闘になるのである。「……あれ、言葉が、遅れてくる?」みたいな。なんというか、非常に奇妙な高速戦闘描写であって、これが非常に面白い。
「バイオシップ・ハンター」は生体宇宙船を使って宇宙を旅する種族と地球人ジャーナリストの話。
「メデューサの呪文」は無限の言語宇宙を生きる言語文明を持った宇宙人と地球人の詩人の話。
ぼくが真実を口にするとほとんど全世界を凍らせるだろうという妄想によって ぼくは廃人であるそうだ
とは、吉本隆明の有名な詩の一部だが、それを思わせる。何万年も言語を研ぎ澄ませてきた言語文明の種族は、言葉を武器にできる。人を操れる、殺すこともできる。……え、『虐殺器官』? いや、言葉が武器になるなんて発想はいくらでもある。
ケイト・ブッシュの「Experiment IV」……は音楽か。でも、そういう発想というものはおそらく、SFではなく古代の呪術、人間が言葉についてなんらかの妄想を抱いてしまったときから始まったのではないだろうか。「メデューサの呪文」がどういう話になっているのかはお読みいただきたい。この短編集では一番面白かった。
「まだ見ぬ冬の悲しみも」はタイムトラベルもの。『去年はいい年になるだろう』的な要素もあるような。時間旅行とパラレルワールド。
「シュレディンガーのチョコパフェ」。人間原理を描いている。膨大なオタク的固有名詞が出てくるが、それもその時点でのリアルさを強調するためであって、やがて世界が変容していく。そのあたりの筆致がいい。
「闇からの衝動」は著者の趣味というか、原点というか、そういった1930年代くらいの実在のアメリカのSF作家たちが主役となった話。SFというよりファンタジー、ラヴクラフト世界に近いのかもしれない。おれはダンセイニ卿は好きだが、ラヴクラフト、クトゥルーはあまり興味ないのだ、なんでかしらないが。
というわけで、なんか最近、山本弘ばっかり読んでるな、と思われるかもしれないが、感想まで書く気になれないな、というあまり自分好みでない本を読んだり、途中でやめたりはしているので。
以上。
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