まことに憂慮すべき事態である。言うまでもない、アニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のことである。
この作品のオープニング、主人公京介のアップから入り、ヒロインの桐乃ときて、その次にモノレールが映るのである。それも場面を換えて2つもだ。 黒猫でも沙織・バジーナでもなく、第三の主役はモノレールという明確なメッセージと受け取るしかないだろう。
問題は、ふたつある。ひとつは、これが千葉都市モノレールであるということである。湘南モノレール沿線に育ち、10年にわたって定期券を使ってきた湘南モノレール主義者の自分にとって、これは大きな問題と言える。
なにせ、湘南モノレールの抱える大きな問題は、その知名度不足にほかならない。交通拠点大船から観光名所江ノ島を繋ぐ路線、しかも他にはほとんど見られぬ懸垂式の、サフェージュ式の特色ある乗り物でありながら(跨座式などは通常の軌条式の焼き直しにすぎない!←偏見)、いまいちパッとしない湘南モノレール! たかが一部区間を134と並走して海沿いを走り、たかが一部区間を路面走行する(しかも龍口寺前に混乱を引き起こす)ていどの、江ノ電とかいう乗り物の存在感の前に、影のような存在感すら醸し出せていない。
そして、ここで『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』による千葉モノレールの大プッシュが加わればどうなるか? 「モノレール」という単語に対して情報の海が弾きだす答えは、ことごとく「千葉都市モノレール」になるであろう。「湘南 モノレール」と検索しても「もしかして:千葉都市モノレール」などという屈辱の事態を引き起こすやもしれん。情報化社会でこれは致命傷である。おそらく廃線は免れず、やがては「湘南モノレール? ああ、ドリームランド行きの? すごい廃墟だよね?」などと誤った歴史が広まるかもしれない。これは、湘南モノレールに愛着を持つ人間としては想像したくないことといってよい。いかに三菱サフェージュ式の兄弟的存在と言えども、不倶戴天である。
あと、正直、青色は千葉みたいだからやめてほしい。
俺の湘南モノレールがたいへんなことに - 関内関外日記(跡地)
そして、ふたつめの問題が、今回千葉都市モノレールを推している『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』というアニメ作品についてである。どういった評価軸でアニメを分類すれば適切なのかわからぬが、きわめて影響力の大きい作品であることは間違いない。ひどくキャッチーなキャラデザインに、オタクの在りようを描いた内容。また、18禁をめぐる論争を巻き起こすなど、ともかく注目の作品である。
いっぽうで、湘南モノレールを推すアニメはなにか? 言うまでもない、『青い花」である。
鎌倉を舞台とし、湘南モノレールをプッシュしてくれた名作『青い花』。
『青い花』という非常に出来のいいアニメを作ったのですが、DVDが売れなくて二期が作れないんです。
http://shakediary.blog93.fc2.com/blog-entry-3667.html
でおなじみの『青い花』……。これでいいのか、日本のアニメ業界? たしかに『青い花』は俺の妹ではないが、姉妹における妹的存在としての杉本先輩……、いや、いいのだ。違う、よくない。このままアニメが『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』ばかりになっていいわけがない。これ以上、30過ぎてアニメを見始めた挙句、「高坂桐乃のfigma、いつ出るんだ? 一般発売か? 黒猫は?」などとぶつぶつ言い出すような人間をつくりだしてはいけないんだ! 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』断固粉砕!
異議なし! と、以上のような理由から俺は千葉へと立ったのだった。
あるいは、スデイギンを暗殺しに向かうデガーエフの心持ちで。
「お兄ちゃんどいて! アレクサンドル2世殺せない!」
チバ・シティ
横浜から横須賀線に乗り換えて千葉へ一発。……が、ちょうど来たのは津田沼行きであった。「津田沼」。横須賀線で逗子の学校に通うこと六年、大船で下りるその登り電車のはるかなる行き先である。いったいどのような沼か……。いや、今はいい。俺は千葉に降り立った。
さっそく、モノレールの線路が見える。くっ、複線! これでもかと複雑な複線を見せつける。
と、思ったら車両まで! 下方スレスレに通り過ぎていく。行き先の方にそごうが見える。
はじめて訪れた、チバ・シティの玄関口である。空の色もテレビの空きチャンネルの色ではないし、オノ・センダイのコンソールを叩いている人間もいない。ただ、コフィンからあぶれたやつはいるようだ。
また、ピーナッツを崇めているようだ。
こっちの方か?
む、こんな巨大なビルからレールが飛び出ているような!
しかしまあ、複線、複線、複線コンプレックス。なんというのか、大都市型のモノレールの威容をほころうと。まったく!
千葉駅〜千葉みなと駅
とりあえず押さえるところは押さえたので、次は乗るわけである。乗らずになにが語れようか。引き返してJRの対面あたりの駅である。三階建てくらいで、いろいろの店が入っているのは湘南江の島駅と一緒ではあるが、一緒とはいえない。おそろしい話である。ミスドまであってミスドで昼飯を食う。ドーナツを食っているときの俺は「博愛」の二文字で表せる。
しかし、気を引き締めて活動にあたらねばならぬ。そのために、600円のホリデー・フリーパスを買う。くっ、お得ではないか。
ホーム。車両進入部の段差が低くなイカ? というか、湘南を舞台とする『イカ娘』がモノレールを推してくれたら勢力図は変わるはずなのだが……、しかし、江ノ島より由比ガ浜寄りではイカんでゲソ……。
などとぶつぶつつぶやいていたら(つぶやいていたのかよ)、青いやつ来る。湘南のよりも一回りコンパクトに感じる。しかし、なによりも大きな違いは、その静音性である。まるで音がしないといってよい。湘南モノレールはといえば、だいたいまず地元民がレールのヴヴヴヴという僅かな震えからその気配を察し、やがてガランゴロン音がして近づいてくると、ウィィーとかモータ音をかなで、止まったら止まったでプヒー、プシューなどと何かを吐き出したりして、けっこう騒がしい。ところがこいつときたら、えらく静かでスマートなのである。これでは地域住民がモノレールの騒音を理由に買ったばかりの家を手放すということなども起こりにくいはずである。おそるべし。
しかも二枚ドア。あと、座席配置も、ボックスシートではない。とはいえ、同じ三菱重工製品、ほとんど同じ気配がするわけだが。
運転席の後ろから。と、このあたり、この千葉駅付近、かなりの高度である。嫌な汗をかく。もとより自分は高所恐怖症なのだが、湘南モノレールは大丈夫なのである。ただ、それは湘南モノレールの高さだから大丈夫というだけであって、ほとんど似たような乗り物でこんだけ高いと、参ってしまうわけだ。ぞくっとくる高さ。そしてついには、「大丈夫かこの乗り物は? みんな落ちて死ぬんじゃないのか?」などと、懸垂式モノレール全否定に走りそうになる。罠だ、これは千葉都市モノレールの奸計にほかならない!
千葉ポートパーク、ポートタワー
さて、なぜ千葉みなと駅に来たかといえば、Google Mapで海辺の公園を見つけたからである。俺は埋め立て地などに作られた緑地、公園が大好きだ。だいたいうらびれていて、釣り人がいる! これは趣味の話であり、義憤による千葉都市モノレール訪問からいったんはずれる。いや、周辺観光もポイントではあるが。なんかEVAの使徒みたいなタワーがあったところで。
老人が一人。
こうなってくるとこっちのもので。
ほら、いた。まったく。あとは、ひとりで来ていたバイク乗りに、ひとりで来ていたGIOS乗りなどもいて、非常にうらさみしくて素晴らしい。
ひとりで来ていたウィンドサーファーなどもいた。向こう岸には海上保安庁の船(消防巡視艇あわなみ?)なども見えた。タワーには登らなかった。今日は一人だし、怖いので。
しかしまあ、ロッテ戦のチバテレビなど見ていると思うのだけれども、不動産屋や住宅関係のCMが多い。船橋競馬あたり行ったときも感じたが、街が若いというか、これからまだまだ増えていきますよ、みたいなところがあるのだろうか。実際、公園近くもマンションの建設ラッシュみたいに見えた。実態は知るよしもないけれど。
市役所前駅〜千城台駅
公園のあとは、元の千葉みなとではなく、市役所前駅まで歩く。たいして距離は変わらない。これにより、モノレールの線路のある風景を観ることができる。このあたりのズドーンと広いところをぶっ通っているモノレールというのは、俺の知っているモノレールとは違うと言わざるをえない。輝ける都市のようである。
また、駅に関しても、巨大である。事前にWikipediaで予習もしたが、どれも同じような形であって、どうもスケールが大きい。舎人ライナーのようである。湘南モノレールなど、どれもこれもそれぞれ「現場合わせで」みたいな作りであって、統一感がない。これもまた、規模の差、土地のサイズの差か。あと、地形の差、高低差というのもあるだろうか。
次なる目的地は終点・千城台。
と、ここからは写真がない。一般沿線住民に混じり、たんに着座していたからである。とはいえ、メモは残してある。以下にiPhoneから転載する(本当は書き起こすべきだが、面倒くさいので)。
作草部・天台 深沢あたりの気配。市役所前、千葉非常に高い。公園前、千葉競輪見える。みな駅高く立派。
スポーツセンター,球場を巻くカーブよし。
動物公園駅暗し。
引き込み線か?
みつわ台、特徴なく好感
カーブが見通せる。見通しがよい。高さ、広さか。
連結部中抜け禁止。窓のあるドア。
三菱重工平成五年
千城台北、駅劣化激しい。
あの逆さじょうご、なんだ?
この世の果て、千城台
ついに終点、千城台である。JRやほかの鉄道との連結もないが、乗降客数は多いという情報通り、ここまで乗る乗客は少なくなかった。
しかし、俺はここでどうすればよいのか? そのまま下りに乗るのもつまらないし、どうふるまえばよいかわからない。とはいえ、Google Mapでまわりになにか目的地があるか探したところで、どうも見当たらない。前を行く女子高生に「ここらあたりに名物はありますか?」などと聞いてみようかと思うも、「はぁ、なんだこの変質者、通報しよう」となることは必至であり、<“聖地巡礼”でアニメオタク逮捕、問われるモラル>などとなってしまってはみなに申し訳が立たない。
おとなしくショッピングモールのフードコートに立ち寄り、外はカリカリ中身はぬるめのたこ焼きなどを食う(俺は熱いものでも無理して食ってしまう癖があるので、これのほうがたこ焼きを味わえるので歓迎なのだ)。じつのところ、見知らぬ街のイトーヨーカドーであるとか、ダイエーに入るというのは、俺の好む行動であった。それを思い出した。ついでに馬券をiPhoneから買う。買わなければよかった。いや、正確に言うならば、ファンタージーステークスはボックス買いにするべきだった、である。その後、店内をぶらぶらする。お年寄りのたまり場になっている感もある。
……して、どうしようか、これから。また駅に戻るのもつまらぬ。それならば、ひと駅歩いてみようか。俺は外に出た。
そして外に出てみて飛び込んできた光景というのが、モノレールの線路の終わりであった。
このような光景は、初めて見た。湘南モノレールは、大船も、湘南江の島も、建物の中のどん詰まりであって、モノレールの終点はあのようなものになっているという固定概念があった。しかし、ここでは、終点がこのようにむき出しになっているではないか。まるでこの世の終わりのようだ! しかし、終点であると同時に、延伸をも予感させる風景……。千葉都市モノレール、あなどれぬ!
と、上に書いた「初めて見た」は大ウソであって、まず千葉みなとの終点の方も似たような風になっていたし、だいたい駅を降りたら見えるし。だいたいこれを読んでる人に言いたいが、俺が実は千葉都市モノレール沿線住人であるという可能性すら捨てるべきではないのだ、インターネットでは。
千城台駅〜小倉台駅(徒歩)
モノレールの線路の下を歩く。歩いているときの俺の心境はといえば、ひとことであって「ホーム感」である。ホーム&アウェイのホーム。ものすごく強烈な地元感覚。日は落ち始め、一都一県さきの、まったく見知らぬどこかの街。それなのに、どうも落ち着く。異常に落ち着く。まったく頭の上にモノレールの線路があるだけで、ここまで安心できるのか。今や俺はモノレール沿線の住人ですらないのに、だ。このあまりに単純な心のはたらきに、少し可笑しくなったくらいだ。
……だからって、千葉都市モノレールに心を許したわけじゃないんだからね!
千葉公園
小倉台から乗車。乗車率は100%くらい。せっかくなので外が見えるドア際にへばりつく。パラパラと乗客が増えていくと、車両のドア周りだけがギュウギュウになってくる。俺もそれに加担しているのでなにも言えたものではないが、まあ乗り物にはよくある光景か。ほとんどは千葉行きの客で、俺は押し出されるように千葉公園で降りた。なぜ、千葉公園か? 言うまでもなく『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の
……打ち消し線を用いておきながら言うのもなんだが、せめてもう1フレーズくらい覚えておくべき。ちなみにここには俺以外に一人、なにやら同じ場所からモノレールのレールを撮っているお兄ちゃんがいたことを報告しておく。もう、あまりにも暗く、期待していた夕焼けもなかったのだけれども。
いい公園だと思う。
なにせ、千葉競輪場がある。この日は函館あたりの場外発売をしていたようで、ちょうど最終レースが終わったところだった。
アニメ+公営ギャンブル+モノレール。ここは俺の聖地か……。
くっ、たぶら��されてはいけない。
まとめ
以上が、俺の千葉都市モノレール及び『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』についての報告である。偏見による事実誤認などがたくさんあると思うが(だいたい湘南モノレールの沿線から去って7、8年経っているので。ひょっとしたら複々線化くらいはしているかもしれない)、こちらも事実の歪曲や誇大表現をしているのでおあいこだ(どこが?)。
いずれにせよ、千葉都市モノレールに圧倒されたという事実は認めなくてはならない。営業距離世界最長をうたうだけのことはある。その規模にがっぷり四つで組んでどうこうしようという相手ではないのである。これに、人気アニメの力が加わったらどうなるか。おそらく、今は「市税の納期」などをおおいに宣伝している車両のラッピングはすべて痛車のごとくになり、千城台の駅で『俺の妹』グッズ(千葉県名物の塩ゆでピーナッツの袋にシールが貼ってあったりするもの)を限定販売したりするだろう。なにせ社長も萌えているくらいである。大盛況確実、完全勝利。こうなっては、湘南モノレールの廃線は確実の状況である。ゆえに、今後は同じ三菱サフェージュ式モノレールとして連携を深め、連動イベントやキャンペーンを行ない、互いの知名度の向上と集客へとつなげていくべきである(何様?)。
また、こうなると、次の敵も見えてくる。跨座式モノレールである。東京モノレールの方は大井競馬通いに使っていたこともあり、俺としても見当はつく。問題は、多摩モノレールだ。なにせ、『とある魔術の禁書目録』、『とある科学の超電磁砲』の舞台である。現在放送中の第2期も、次回は白井黒子メーンの話らしく、また多摩モノレールが映らないともかぎらない。次は、多摩か?
関連☆☆☆
- 101106CHIBA - goldhead's fotolife……入れ忘れた写真なども。もう、めんどくさいからリサイズもしないで撮ったままのアップだけれども、そうしてみると今度はトリミングと色調補正したくなる。
- 感傷と追憶の湘南モノレール紀行 - 関内関外日記(跡地)……湘南モノレールの話はこのあたりで。このときは自転車で下を通った。千葉でもできないことはないだろうが、今体調を崩しているうえに、自転車熱が冷めているので。