日本産ウイスキーの価格が暴落している。数年前には投機対象になるほど価格が暴騰していたが、急速に相場が落ち込んでいる。サントリー「山崎」や「白州」、ニッカウヰスキー「余市」など、現在は一般消費者がなかなか入手できないプレミアムウイスキーも、スーパーなどの店頭で買えるようになるのだろうか。専門家は、ウイスキーの暴騰→暴落の流れの背景には中国の景気があるという。
ウイスキーは、スコットランドやアイルランドが発祥といわれ、スコットランドでつくられる「スコッチ」や、アメリカでつくられる「バーボン」の人気が高く、世界的にも長らく“欧米の飲み物”という風潮が強かった。特に高級品のイメージがあるのはスコッチで、日本のウイスキーは海外で高い評価を得られていなかった。国内でもウイスキーはピーク時の1983年から消費量は減少を続け、2008年には25年間で約5分の1の7万5000キロリットルにまで落ち込んだ。
だが、そこから徐々に回復基調に乗り、2020年頃に空前のジャパニーズウイスキーブームが到来する。清酒などの日本酒も海外で人気を博したが、2020年には輸出額でウイスキーは初めて日本酒を上回り、日本産酒類で1位となった。2010年には約17億円だったが、2020年には約271億円にまで急増しており、対前年増減率で39.4%もの増加を果たしている。その後もブームは続き、2022年には560億円に達している。
そして2023年も上半期は前年同期比で増加を続けていたが、夏場以降にマイナスに転じ、12月には輸出量が前年同月比17%減、輸出金額は同26%減となった。特に価格の落ち込みが顕著になった。
酒の買取・販売を行っているキングラムリカー事業責任者の本村翔太氏は、そんなウイスキーの相場変動を目の当たりにして、X上にこう投稿した。
「ウイスキーの相場下落がすごい。 普通に山崎とかが並ぶような世界も近いのか。サントリーさんも在庫をどう捌いていくか考えものでしょう。焦って大量に売ればさらに値崩れしてプレミア感がなくなる。かといって在庫を抱え込みすぎるわけにはいかない。今後どのような動きをされるのか。要注目。」
このポストは瞬く間に拡散され、閲覧された回数は400万回を超え、大きな関心を集めた。
ウイスキー相場が暴騰→暴落したワケ
そこでBusiness Journal編集部は、本村氏にウイスキー相場の現状や今後の見通しなどについて話を聞いた。
――ウイスキーの価格が暴落しているとのことですが、どのくらい落ち込んでいるのでしょうか。
「ここ3~4カ月で、おそらく10~15%前後落ちてきていると思います」
――その背景には中国経済の低迷があるとかんがえられるのでしょうか。
「そうですね。中国経済の影響は大きいと思います。そもそも、ここ数年で価格が暴騰していた主な原因が中国にありました」
――価格の暴騰→暴落の傾向は、日本産ウイスキーだけでしょうか。それとも他国産でも同様でしょうか。
「日本産ウイスキーのほかにも、スプリングバンクやマッカランといった有名な銘柄の古いボトルなどは高値が付いていました。熟成年数が長いものは希少価値が高く、値段も吊り上がる傾向がありましたが、これらも値段が落ち着いてきました」
――特に日本産ではサントリーの「山崎」「白州」は品薄状態が続いていましたが、これらは中国に流れていたのでしょうか。
「サントリーさんは生産量を増やしているということですが、海外への輸出にも注力されているので、国内の品薄が解消されにくかったという側面はあるかもしれません。国内で流通していた分も、我々のような2次流通業者のところに集まり、それを中国のバイヤーが買って中国に流れていくという状態でした。したがって、メーカーから直接輸出された分のみならず、国内で流通している分も中国に流れていたので、品薄になったといえます」
――中国経済の減速によって、中国の購入量が減ったとしても、日本国内の品薄感は簡単には解消されないとみていますか。
「中国での消費が減ったからといって、それを国内に流通させることは考えにくいですね。そうするとプレミア感がなくなり価格が暴落するので、サントリーさんなどのメーカーとしては避けたいはずです」
――価格が一気に下がらないとしても、「白州」や「山崎」が店頭に並ぶようになってくるのでしょうか。
「『山崎12年』(700ml)の定価は1万6500円ほどで、最近は安くなったとはいえ弊社の販売価格は2万5300円です。もう少し落ち着いてきても、2万円前後で下げ止まる可能性が高く、定価で買えるようになるには、しばらく時間がかかると思います」
――飲食店などでは定価で購入できているとの声もありますが、業務用の流通枠があるのでしょうか。
「業務店への販売を優先しているという面はあると思います」
――買取価格の相場は、どのようにして決まるのでしょうか。
「もともとはオークションで価格が決まっていたのですが、最近は競合他社同士でにらめっこをしている状況です。現時点で売れる価格から逆算し、粗利を引いた値段で買い取りをするというかたちです。販売価格はある程度決まっていますが、保有している販売ルートや企業の体力によって、買取価格は変わるといえます」
――では今のように価格が急激に下がった場合には在庫管理が難しくなりますね。
「他社が買取価格を下げた際に、仮に価格を高く維持していると商品が集まりすぎて在庫がダブつく可能性があります。確実に捌ける量を維持するためには、周辺相場に合わせて迅速に買取価格を下げることになります」
2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されてから、日本産の酒類も合わせて世界で人気が高まった。特にウイスキーは評価が高く、希少価値も高かったことから投機の対象にもされ、模造品も出回るほどだった。だが、中国の景気低迷を受けて投機筋が手を引き始めたとの観測もあり、ウイスキーの価格は急速に落ちてきたとみられる。
ウイスキーファンにしてみれば、価格が高騰しすぎていた製品が、再び定価で買えるようになることを期待するばかりだろう。
(文=Business Journal編集部、協力=本村翔太/キングラムリカー事業責任者)