貧しいからカップラーメンを食う? 惣菜パンばかり食う? 牛丼ばかり食う? なにを言ってるんだ? おれにはわからない。おれたちにはキムチ鍋があるじゃないか。
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日本と韓国の間は冷えッ冷えだが、おれとキムチ鍋は熱いのだぜ。どんだけキムチ鍋が優れた自炊なのか、おまえらは何もわかっちゃいないんだ。どんだけ野菜を食えるのか、キモくて金のない独身のおっさんに優しいのか、わかっちゃいないんだ。おれがどれだけキムチ鍋を食っても、おまえらには伝わらないかもしれないが、それでもおれは伝えたいんだ。
キムチ鍋は簡単だ、はっきり言ってお好み焼きより簡単だ。それに安いんだ。さらにはすばらしい追加効果もある。おれはそのことを言うために山を下っておまえらの広場に顔を出した。そして演説するのだ。
まず、行平鍋ひとつ用意しろ。
谷口金属 日本製 和の職人 深型ゆきひら鍋 シルバー 18cm 容量 1.8L ガス火専用 軽くて使い易い 熱伝導がよいアルミニウム製
- 出版社/メーカー: 谷口金属(Taniguchi-metal)
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べつになんでもいい。そんなに大きくないやつだ。そこに水を200mlだか、400mlだか入れろ。なに? 2倍も違う? 気にするな。そして、火をつけろ。火をつけたら次のものを投入しろ。
キムチの素だ。間違ってもストレートの鍋スープとか買うな。キムチ鍋の素、でなくてもいい。キムチの素でいい。これを、適当に入れろ。ただ、「入れすぎかな?」と思うまで入れることはない。足りなければあとから足せばいい。
そして、液体みそ汁の素を入れろ。べつにみそからでもいい。好きにしろ。お前は自由だ。ただ、ここであえて「液体」みそ汁を使う理由はある。普通のみそを溶くにはお湯が温まっていなければいけないし、計量スプーンのようなものを使い、それを浸して箸でかき混ぜるという行為が発生する。計量スプーンの洗浄という行為がはっせいする。ナンセンス! 液体みそ汁を適当にブシャーとぶちまければいい。だし入りなのだから、だしをとる必要もない。量? 適当でよろしい!
ただ、塩分が気になるなら減塩のを試せ。
ともかく、これでキムチ鍋のベースはできたといっていい。あとは簡単な話だ。野菜を刻め、鍋に入れろ。そして少量の肉を入れろ。それでいい。
もう少し具体的に言えば、まずは大根がいいだろう。冬場に安くなってるでかい大根を買え。大根を少し太めに切りおとせ。あとは薄く切れ。薄いほうが火の通りが早いからだ。大根を鍋に入れろ。
白菜を切れ。半玉を100円ローソンで手に入れられたならば神に祈れ。おまえに神がいないのであれば、沈みゆく太陽に、月に祈れ。好きにしろ。白菜を切れ。切って、硬そうな方から入れろ。薄い葉の方から入れたいというのであれば、好きにしろ。
そして、少量の肉を入れろ。しゃぶしゃぶ用薄切り豚バラ肉でもいい。どこか遠くの国から来て100g100円未満のものだ。あるいは、ブラジル産の鶏もも肉唐揚げ用100g68円でもいい。100g100円未満であれば、骨付きの鶏肉でもなんでもいい。適当に入れろ。
肉の上に野菜で蓋をしろ。白菜の葉っぱの方でもいい。べつの野菜でもいい。ニラでもいいだろう。ニラはキムチ鍋向きの雰囲気をだしている。だが、春菊でもいいし、かき菜のような特徴のないやつでもいい。安かったならキャベツでもいいだろう。勝手にしろ。
ただ、おまえの行平鍋は野菜だけではみ出しているくらいじゃなきゃいけない。分量を間違えた、というくらいでいい。そこにだ、そこに安いキムチを置け。キムチを買っておくのだ。そして蓋をしろ。そうして、野菜から水分が出て、目方が減るのを待て。
あとは、あったほうが面白いのはきのこ類だろう。舞茸、ぶなしめじ、本しめじ、しいたけ、なんでもいい。
そして、3パック100円くらいの充填豆腐、もめん。そしてマロニーちゃん。
あるいは、おでんだの鍋用だのに売られているつみれの類。
このあたりを突っ込め。そうだ、目方が減ったな、というころでマロニーちゃんをつきたて、ずぶずぶと煉獄の汁の中に沈め、それが柔らかくなったころが食べごろだ。
食べる前に、すりごまをふりかけるのもいいだろう。ごまというもの、そのままではほtんど栄養を吸収できないという。だから、すりごまだ。
そして、食え、食えばいい��。鍋敷きのうえに行平鍋置いて、食え。
そうしたらどうなる?
おまえは汗をかく。室温が一桁℃なのに、汗をかく。身体が温まる。これが追加効果だ。おまえは暖房に使う金を節約することができる。
さらにいえば、乳酸菌が入っている、などというキムチを選ぶべきだ。おれは唐辛子にすっかり弱くなっていたが、このところむしろ腹の調子がいいくらいだ。それにだ、白菜の中にキムチが入っているという状況がいい。どちらかわからず口に運んでみて、それがキムチだったとしたら、「当たりだ」と思うことだろう。人生、当たるのは悪いことではない。
さて、おまえは野菜と少量の肉を食い尽くしてしまった。おれはそこでもう食事終了だ。だが、もしおまえが炭水化物を摂りたいというのであれば、ここにパックごはんを入れようが、うどんを入れようが、それも好きにすればいい。おれのおすすめはオートミールだが。
オートミールは水を加えて電子レンジであっという間にできてしまう、非常にすぐれたやつだ。こういう鍋の〆に使ったっていい。
まあいい、おまえは食い終えた。洗い物が待っている。が、そこでお前が洗うべきものは、包丁、まな板、行平鍋、箸、これだけである。包丁とまな板は鍋が煮える間に洗ってしまえば、あとは鍋と箸だけだ。どうだ、すごく簡単だろう?
簡単なのはいいことだろう? おれはおれの晩飯に興味がない。一工夫して美味しいものを食べようという気も、料理のレパートリーを増やそうという気もいっさいない。カネに余裕があれば、どこかの宅配食でもいいくらいだ。太るのを気にしなければ毎晩牛丼屋でもいい。
ただ、カネがない、太りたくない……おれにとって太るというのは、おれの精神を安定させている抗精神病薬オランザピン(糖尿病禁忌)を食えなくなるというありえない状況に直結する……そんな情況にあっては、キムチ鍋、これがいい。これだけでいい。わかるか、おまえがおれのように金のない人間で、暖房費も浮かせたいと、そして野菜も食いたいと、そう思っているなら、冬はキムチ鍋だ。勝手に煮詰めろ、勝手に食え。勝手に生きろ、そして死ね。
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