物凄く久しぶりに、ミステリのハードカバー新刊を購入した。それもAmazonで予約してまで。
本棚を確認してみると、その昔、文庫化が待ちきれずに購入した樋口有介の柚木草平シリーズ『探偵は今夜も憂鬱 』以来なので、ミステリのハードカバー購入は17年振りという事になるようだ。
最近は図書館で借りて済ませることが多かったのだけど、今回それを購入するにいたった理由は、一介のサラリーマンである親戚が、昨年創設された新しいミステリーの賞「第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を受賞して出版された物だからだ。要するに親戚への義理立てである。
義理とはいえ、彼の作文能力は小学校時代から優れていたことを知っているし、全く期待していなかったというわけではない。但し、僕が知る限り、彼の好むミステリは江戸川乱歩だとかカー、クイーンあたりで、僕の好みとは全く一致しないのが引っかかっていた。
そんなわけで期待度50パーセント。親戚が集まった時に「まだ読んでいない」と言うのもアレなので、とりあえず買っておくか、という程度の気持ちでAmazonを開いてみたわけだけど。
詳細ページのあらすじを読んで、期待度が一気に上昇。
「幽霊屋敷での死体焼却現場を目撃したのは、人の顔を識別することが出来ない障害を持った少年!」
うーむ、なかなかドキドキする物語ではないか。
ところが、Amazonから届いた本を開いて、ちょっとがっかり。
ミステリにはよくある「主要登場人物の紹介」に記された名前が多すぎ、しかも全員カタカナ。アメリカの地方都市を舞台にした物語なんだから、登場人物がアメリカ人なのは当然なんだけど、僕が今ひとつ翻訳ミステリに没頭できないのは、外国人の名前が覚えられないからだったりする。
おまけに登場人物はいくつかの年代によって分類されており、物語を読む前から「おいおい、ちょっと複雑すぎやしないか?」と思ってしまった。事件が発生した「幽霊屋敷」の見取り図があるのも、個人的にはいただけない。図を見る限りは、その事件を起こす為に用意されたような、非現実的な間取りの建物というわけではなさそうなんだけど、経験上「見取り図が用意されているミステリはつまらない」と思っている。その先入観が災いしてか、読み始めからしばらくは、あらすじを読んだ時の期待値が大きく下がった状態。ひょっとしてめちゃくちゃつまらない本を買ってしまったのではないか、と心配になってきたが、それは序盤で事件が発生してから全くの杞憂であることがわかった。
「主要登場人物の紹介」に記された人数は、この分量のミステリにしては多い気がするものの、物語の進行上、覚え切れないほどでもないことがわかる。また「事件の目撃者が、人の顔を見分けることが出来ない障害を持つ少年」というアイディアは秀逸で、しかもこの奇抜なアイディアのみに頼ることなくぐいぐいと物語に引き込まれてしまう。
ここでちょっとだけネタばらしっぽいことを書いてしまうけど、この作品、「犯人を当てることを楽しむ」事を最大の目的として読む場合は、あまり面白いとは思えないかもしれない。何故なら「犯人探し」を楽しむ読者ではない僕が、物語を半分も読まないうちに犯人の目星をつけることが出来たからだ。しかしこの作品の面白さは「犯人探し」をメインにしてはいない。読者が犯人を特定しても、物語の中でそれを暴くためのプロセスに説得性がなければ、読者は納得しないし、納得できない手段によって犯人が明かされたとしたら、ミステリの新人賞を獲得できるはずもない。
「人の顔を識別できない目撃者」が、最後に何人か並べられた被疑者の中から犯人を特定するプロセスは、無名の新人によって書かれた作品とは思えない驚愕のアイディアだ。
身内贔屓は一切無いつもり。
この「玻璃の家」、僕がこれまで読んできた国産ミステリの五本の指に入る傑作。映画化しても面白そう。
とりあえず2009年の俺版「このミス」ナンバーワン決定な! (新作ミステリを読まないと思うので)しかしこの中(↓)から、どれを「五本の指」から落とすのかは、なかなか難しい物があるなぁ。
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Comments: 1
- #4020 かきたれ URL 2009-04-29 Wed 12:39
通りすがりの者です。というか、中学の同級生が受賞したのを見て買った口です。
登場人物紹介はなるべく見ずに読みました。ちょっと解決編で混乱しましたが。
見取り図はなくても良かったかもしれませんね。これからファンレターを書くつもり。
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