「まったく、人をバカにした話だと思いますよ。152万円も出して、ダミー(偽物)を3万5000冊も買って並べるというのですから」
そう憤慨するのは、山口県周南市のある市議会関係者だ。憤るのも無理はない。昨年12月に開催された市議会の予算委員会で、市が来年2月オープン予定の新図書館の開館準備に合わせ「ダミー本を3万5000冊分、約152万円で購入」することを明らかにしたからだ。
「ダミー本」とは、ダンボールでできた中身が空洞の偽物の本のこと。マンションのモデルルームなどで、部屋のインテリアをオシャレに演出するために使われる洋書風の小道具といえば、イメージしやすいだろう。その偽物の本を、よりによって新設する公共図書館に3万5000冊分も入れる計画というのだ。
仮に1冊2センチの厚さの単行本を寝かせて縦に積み上げると、その高さは700メートルにもなる。偽物に152万円も使わず、1冊2000円の本を760冊買ったほうが有意義なのではないだろうか。市民の知的活動を支える社会教育機関が“偽物の本”を大量に購入するというのは、長い公共図書館の歴史のなかでも、前代未聞のことだろう。
周南市は、なぜそんなことをするのか。
それは、この開館予定の図書館の指定管理者となるのが、レンタル大手TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)であることが関係している。CCCは、空間プロデュースから手掛け、図書館開館後は指定管理者として図書館運営業務を担う。同社が運営する図書館は、すでに全国に4例あり、通称“ツタヤ図書館”と呼ばれている。
いずれも、都会型のカフェや新刊書店を併設した商業スペース顔負けのオシャレ空間を売りにしており、とりわけ壁面一杯に広がる4メートル超の高層書架を配置する独特のデザインが最大の特徴だ。
ツタヤ図書館は、2013年の佐賀県武雄市を皮切りに、神奈川県海老名市、宮城県多賀城市、そして先月には岡山県高梁市でオープンしている。これらの図書館では、高層書架の高い位置にダミー本が配架されているが、その具体的な数量が出てきたのは今回の周南市が初めてだ。市の担当者は、次のように話す。
「新図書館用に購入するのは、すべて新刊で6万冊を予定しています。(ダミー本は)ダンボールでつくった装飾といいますか、本に囲まれた空間づくりのために置かせていただくように進めているところです」