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 USBは周辺機器の接続規格として広く普及しているが、規格の名称はとてもわかりにくい。USB規格はUSB-IFという非営利団体が策定しているが、過去に新規格が登場した際に、既存の規格名を何度か変えたことがユーザーの混乱を招いてきた(図1)。

新規格登場のたびに従来規格の名称を変えたのが混乱の原因
新規格登場のたびに従来規格の名称を変えたのが混乱の原因
図1 今も現役のUSB 2.0は2000年に規格が策定された。その後、数年置きに新しい規格が追加されてきたが、USB 3.Xではそのたびに名称を巡って大混乱が起きた。新規格が登場するたびに、それまでの規格の名称を変更したからだ。シンプルにUSB 3.0以降の規格をUSB 3.1、USB 3.2とすれば混乱を避けられたかもしれない
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 USBは1996年に最初の規格が策定された後、次々と高速な規格が生まれた。最初のUSB 1.0は最大転送速度がわずか12Mbpsだったが、2000年のUSB 2.0では480Mbpsへと劇的に向上。USB 2.0は今も現役だ。

 混乱が生じたのは、次のUSB 3.xの時代だ。2008年に最大転送速度5GbpsのUSB 3.0が登場。そして、2013年に最大転送速度10Gbpsの規格が登場したときに、ボタンの掛け違いが起きた。

 新規格に付けられたのはUSB 3.1 Gen 2という名前。USB 3.0の次のバージョンということでバージョン番号を3.1に変更し、末尾にGen 2というジェネレーション(世代)表記を付けた。さらに、既存のUSB 3.0にはUSB 3.1 Gen 1という新しい名前を付けた。同じ規格なのに呼び名が違うという複雑怪奇な状況が生まれ、これが規格を巡る混乱の引き金となった。

 2017年に登場した最大転送速度20Gbpsの新規格は、USB 3.2 Gen 2×2。末尾がGen 3とならずに2×2となったのは、Gen 2の信号線を2レーン使うことでデータ転送の高速化を実現したからだ。そして、最大転送速度5Gbpsの規格(最初はUSB 3.0)はもう一度名前を変えてUSB 3.2 Gen 1に、10Gbpsの規格はUSB 3.2 Gen 2に改称された。

メーカーの規格表記は一斉には変わらない

 これにより、3つの規格に新旧合わせて6つの規格名が混在するという前代未聞の事態となった。この辺りの事情を整理したのが、図1のオレンジ色に塗った部分だ。そこに示したように、USB 3.0、USB 3.1、USB 3.2と順に名前を付けていれば、大きな混乱はなかっただろう。

 さらに、ブランド名も混迷に拍車をかける。USB 2.0の登場時にスピードをアピールするためにHi-Speed USBというブランド名が付けられた。その後、USB 3.xでもブランド名が付けられたが、こちらも新規格が登場したときに、既存のブランド名が変更された。

 USB 3.xの名前の付け替えに、メーカーもユーザーも困惑した。まず起こったのが、スペック表示の変更時期を巡る混乱だ。メーカーによって対応時期がずれたため、同じ規格なのに異なる規格のように見える事態が生じてしまった。

 例えば、2020年の富士通のカタログを見ると、ある製品のスペックは「USB 3.2(Gen 2)」と表記されている。同年のNECは「USB 3.1」の表示で、USB規格に詳しくない消費者からするとひと世代前の規格に見える。しかし、実際には両者はまったく同じ規格だ(図2)。

旧規格名の呼び方をいつ変更するかで混乱
旧規格名の呼び方をいつ変更するかで混乱
図2 最大転送速度10Gbpsの規格がメーカーのカタログにどのように表記されてきたか見てみよう。富士通は2020年のカタログで「USB 3.2(Gen2)」と表記。同時期のNECは「USB 3.1」の表記で1世代前のように見えるが、実は同じ規格。2022年のカタログで「USB 3.2 Gen 2」の表記に変わった
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