玄理がドラマ撮影中のカルガリーで出会った「生まれて良かった」瞬間

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ドラマの撮影でカナダに3週間ほど滞在した。カルガリーで迎える初めての朝。極寒の冬には耐性があるはずの韓国スタッフ勢に、「カナダは寒いよ、本当に寒いからね。みんな電気マット持っていくんだから」と言われて、一番戦闘力の高いボアコートを持参したが、昨日は意外にも日中半袖で歩けるくらいの陽気だった。

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スタバもレストランも午後4時閉店

雄大な自然に抱かれ笑顔に(写真は全て玄理さん提供)
雄大な自然に抱かれ笑顔に(写真は全て玄理さん提供)

夜は時差ボケで2時間ごとに目が覚めるので、明け方5時前にはもう寝ることを諦めた。

目の前のビジネスビルに入っているオフィスは 人気(ひとけ) が全くないのに夜通し電気がついていて、しかもカーテンがなくて中が丸見えである。朝6時半になったら全部のオフィスが点灯した。

不思議なことに、ホテル1階のスタバも朝ご飯で有名な近所のレストランもおしゃれなカフェたちも、やっぱり朝6時半から営業している。

なんなら夕方散歩すると、ほとんどのカフェは開いていない。ドアに貼られたタイムテーブルを (のぞ) き込むと、まさかの午後4時閉店。

なんで? どういう生活スタイルなんだろう。
この街の人みんな、早起きすぎない?

ビルの隙間から見える空が高く感じる
ビルの隙間から見える空が高く感じる

カーリング場にて。かぶっているのが防寒耳つきもふもふ帽。確かにクマに見える…?
カーリング場にて。かぶっているのが防寒耳つきもふもふ帽。確かにクマに見える…?

日の出は午前7時半前後。6時半は、まだ夜と変わらない暗さだ。後に、現地ドライバーさんとの会話で理由が判明した。カルガリーは電力会社に勤めている人が多いらしく、出勤の時間が早いんだとか。郷に入ればなんとやらで、私も毎朝5時に起きては、スターバックスがオープンする6時半きっかりにコーヒーを買う日々が始まった。

ちなみに、このドライバーさんはめちゃ陽気なおじさんなのだが、私の防寒耳つきもふもふ帽子を見て「え、その帽子かわいい! めっちゃ好き! 家の庭にいたら撃ってた!」と高度なカナダギャグで、一瞬時を止めたことがある。

いや怖いって。庭にクマが出るらしいの。しかもグリズリー。グリズリーが出る庭も (すご) いし、それを迎え撃つ支度万全なのも異国の地感極まれりである。

「亀のように生きる」鼻ピアスの女の子

海外ロケだと、スタッフさんの人数が少ないので、普段話せない部署の人とも話せるのが楽しい。

現場に、少しふくよかでとてもおしゃれな女の子がいた。鼻ピアスをしていて、現場での立ち振る舞いとか、 (たたず) まいが好きでちょこちょこ話しかけていた。私が、鼻ピアスが似合ってると褒めると、そっとタトゥーも見せてくれた。耳の後ろと足首。足首のタトゥーは亀だった。

亀が好きなのと聞いたら、静かに「亀が好きなんです」と言って、また5分ぐらいしてから、「亀とうさぎが競走するっていう昔話で、うさぎはどう考えても亀より速いんだから、自分は自分のペースで歩こうと亀が思ったという話が好きで、私もそういうふうに生きよ。生きてみようと思って、亀のタトゥーを入れました」と言っていた。

東京やソウルと比べたら、ここは刺激が少なくて、生活のスピードはまるでうさぎと亀の亀みたいだけれど、必要最低限のものは (そろ) っている。何かと比べることの意味の () さや、何かを手放せば、また新しいものと出会うということの意味を考えさせられる。

サイクリングで「神様ありがとう」

ダウンタウンからちょっと歩くとため息が出るような自然や公園があって、山も川も湖もいちいちスケールがでかいのだ。今まで20か国くらいを一人旅したり仕事で訪れたりしたけど、カナダの自然の大きさは迫力が違う。うわあー、と声が出て笑ってしまうくらい。

湖までサイクリング。必死にペダルを漕ぐ
湖までサイクリング。必死にペダルを漕ぐ

数日後、カルガリーから車で数時間のもっと小さい街に移動した。1日休みの日があって、みんなで自転車を借りて湖までサイクリングをした。

ちゃんと自転車に乗るのは子供の頃以来だし、普段都会で怠けている私からするととんでもない山道で、このまま遭難するんじゃないかと思いながらペダルを () いだけど、帰りの下山道――ばああっと目の前に開けた絶景を見た時、心の中で私は「神様ありがとう」と (つぶや) いた。この場所、この瞬間にこの人たちといられて、この景色を見せてくれて、もはや地球に生まれてありがとうって思った。

こんな美しい自然を与えてくれてありがとう、だったかもしれない。それくらい、太陽が降り注ぐ壮大な山は、信じられないほど神々しかった。顔に当たり続ける風が気持ちよかった。汗でひんやりした首筋の、産毛を一本一本感じる。写真を撮るたび、光が踊っていた。

生まれて良かったと人間が思うのは、これはもちろん人によるけれど、でも私は、表彰されたりものすごい 贅沢(ぜいたく) をしたり、富と名声にウハウハする時じゃなくて、意外とこういうことなんだ、と思った。ただ私がいまここにいる、ちゃんといる瞬間。こんな時間、あと何回人生で訪れるだろう。生きていて良かった、じゃなくて生まれて良かったって思った経験、私はきっと初めてだったから。

まだまだ見せたい素敵な写真がいっぱいあるけれど、ドラマのオンエアまで大切に取っておきます(気が遠くなるくらい先ですが)。

そうこうしているうちに、日本では12月8日から始まるwowowの新ドラマ「誰かがこの町で」や、来年2月から始まる舞台「浪人街」の出演が発表されたので、その話はまた来月。いよいよ年末ですね。皆様、寒さとお体に気をつけてお過ごしください。
(俳優 玄理)

プロフィル

玄理
玄理(ヒョンリ)
俳優
1986年、東京生まれ。中学校時代にイギリスへ短期留学。大学在学中に韓国へ留学、現地の演技学校にも通う。日本語、英語、韓国語のトライリンガル。2014年、映画「水の声を聞く」で主演し、第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞などを受賞。2017年にソウル国際ドラマアワードでアジアスタープライズを受賞。近年の出演作に映画「スパイの妻」「偶然と想像」、ドラマ「アトムの童」「Eye Love You」「TOKYO VICE Season2」などがある。
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6000285 0 大手小町 2024/11/14 13:00:00 2024/11/15 16:19:33 /media/2024/11/20241111-OYT8I50029-T.jpg?type=thumbnail

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