2024年11月8日、Bokeh Game Studioから新作アクションアドベンチャー『野狗子:Slitterhead』がPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS4/PS5/Xbox Series X|S向けに発売されます。
猥雑なネオン街を駆け抜け、モブを操って“野狗子”を狩れ―『野狗子: Slitterhead』先行プレイレポート街の至るところで輝くネオン、所狭しと立ち並ぶビルに彩られた「九龍」を舞台に、記憶と肉体を失った「憑鬼」となって人間に擬態する怪物「野狗子」と戦うこの新作について、Game*Sparkは単独インタビューを実施しました。インタビューに応じてくれたのは、クリエイティブディレクターの外山圭一郎氏、キャラクターデザイナーの吉川達哉氏、作曲家の山岡晃氏の3名です(以下、敬称略)。
『野狗子:Slitterhead』のストーリー、世界観について
――本作の世界観とストーリーについて改めてお聞かせください。
外山 舞台は90年代前半の「九龍」という架空の都市です。脳を吸い上げる怪物が跋扈しており、伝承になぞらえて「野狗子」と呼ばれています。そこに、肉体も記憶も持たない「憑鬼」というものが流れ着き、野狗子を殲滅するという目的だけを持っていました。
人間の体を借りないと��き回れない野狗子は、最初は感情を持っていなかったものの、だんだんと乗り移った人間から影響を受けていきます。
――野狗子に感情が芽生えるという点がドラマになっている、ということですか?
外山 ええ、そうですね。序盤こそ人間に思い入れはありませんが、稀少体という意思疎通ができる人間と触れ合っていくことで、野狗子に少しずつ変化が生じていきます。
――「失われたものへのノスタルジー」というテーマは、ゲーム内ではどのように活かされているのでしょうか。
外山 主に美術に関してですね。いま、東京も含めて東アジアの状況は変化しているじゃないですか。ネオン煌めく歓楽街というのも老朽化して減っていて、その代わり洗練されて便利な都市が作られるようになった。猥雑だったときの空気を残すような街に、ゲームの世界でまた訪れたいというのがきっかけになります。
――本作の世界観を練り上げるまでに、香港映画や青年向け漫画を参考にしてきたとのことでした。具体的には、どのような作品に影響されましたか?
外山 ウォン・カーウァイ監督の映画を若い頃によく観てまして、ジャッキー・チェンの映画とはまた違った面白さを感じていました。懐かしさとモダンの混ざり合いというか、色彩感覚にも魅了されましたね。コミックだと「寄生獣」などの、アフタヌーンのSFホラーですかね。あとは、今作はバトルにフィーチャーしたので「東京喰種」や「呪術廻戦」も念頭にあります。
――本作で“バトル”要素を大きくフィーチャーした理由についてお聞かせください。
外山 ホラーゲームというジャンルは敬遠されがちなので、裾野を広げたかったんです。陰惨な感じは残しつつも、バトルを入れることで、若い方にも遊んでもらえるかなと。
――ゲームプレイとストーリーのどちらを先に考えましたか?
外山 どちらが先ということはないです。最初のキーコンセプトとして『SIREN』を現代的に再解釈することから始まりました。具体的には3つあって、群像劇、視界ジャック、現代とは異なる郷愁を誘う世界観……といった感じですね。
――新しく発表された「銀月」「ドニ」「トゥリ」について、どのようなキャラクターなのか改めてお聞かせください。
外山 ドニは街中にいる普通の高校生です。ジュリーやアレックスと違って、こんなキャラもいるのか、と思って欲しいところがあります。トゥリは、外国から出稼ぎに来てる人ですね。ふたりとも憑依すると固有スキルが出せるので、おとなしそうなキャラなのにアクションがすごいぞというギャップを楽しんでください。
銀月はキーパーソン。ストーリーに関わるのであんまり言えません(笑)。宗教団体の幹部をしています。
『野狗子:Slitterhead』のバトル要素について
――本作のバトルシステムのデザインについて、詳しくお聞かせください。
外山 「憑依」というシステムが重要です。街中を歩いているほとんどのモブに憑依できます。命を削って野狗子��戦いますが、非力なので次の体にどんどん乗り換えないといけません。
また、ミッションの開始時には稀少体を2人選んでゲームに挑めます。それぞれモブとは異なる固有スキルを持つので、色々試しながら戦ってみてください。
――本作の「憑依」というメカニクスについて、アイデアの根幹はどこにあったのでしょうか。憑依を繰り返しすぎてモブがいなくなる……というゲームデザインは非常に面白かったです。
外山 『SIREN2』の感応視という、相手の行動も乗っ取れるギミックがあるんですが、それを発展させました。『SIREN』シリーズはステルスゲームでしたが、今回はゲームディレクターの大倉純也がバトルアクションにアレンジしてくれました。基本的に大倉がゲーム全体を作ってくれていて、僕は世界観やストーリーに注力しています。
――ゲームデザインについて、参考にしたゲームやその他のコンテンツはありますか?
外山 ゲームシステムの部分だと、最近のバトルアクションを踏襲しようと思ったので、フロム・ソフトウェアさんのゲームを意識しています。要は敵をロックオンして向かい合って、攻撃・回避・パリィをするといったところですね。あまりにそのままでは面白くないので、大倉が右スティックパリィを入れました。
――難易度のバリエーションはいくつありますか?
外山 イージー、ノーマル、ハード、ナイトメアの4つです。いわゆる“死にゲー”ではないので、ノーマルであればアクションゲームにそこそこ慣れた人なら遊べるんじゃないかなと。もしアクションが苦手なら、イージーで楽しんでください。イージーだと憑依をしなくても、なんとかなる難易度です。より深く楽しみたいなら、ナイトメアで。慣れたスタッフでも気を抜くと死にます(笑)。
――バトルと探索のバランスについて、お聞かせください。
外山 バトルと探索の割合は、半々くらいですかね。敵を追いかける場面や、隠れている敵を暴き出したりといった場面もあります。
――開発初期から一貫している要素や、途中で変更した箇所があればお聞かせください。
外山 バトルは開発を進めている中でも、都度細かく変わりましたね。パリィ要素も途中から追加されたものですし。少し作ってはユーザーテストして、思ったものと違うとなれば変えてきました。
入り組んだ街をマップとしているので、基本的なアクションの挙動が大変でしたね。「オートでジャンプして良いのか、またはボタンを押させるのか」なんてレベルから弄っています。
開発初期から一貫しているのは憑依システムで、最初からずっと考えていた要素であるものの、これもどういったテンポ感がいいかとか、どのボタンにアサインするのがが適切かとか、いろいろ考えましたよ。最初は障害物も貫通して憑依できていたんですから。
――あまりアクションゲームをやらない人向けに、本作���ゲームプレイについてのアドバイスをいただけるでしょうか。
外山 最初のうちは「今使っている身体」を大事にし過ぎると思うけど、危ないと思ったらすぐ乗り換えるといいでしょう。そのうち“人間の身体を乗り捨てる”という感覚に慣れてくると思います。
――他人の体を使い捨てるという残酷さが面白いですよね。
外山 そのゲームプレイがストーリーにも絡んでくるので、お楽しみに。
『野狗子:Slitterhead』のキャラクターについて
――今作のキャラクターデザインですが、アイデアの源泉はどこにあるのでしょうか?
吉川 まず外山さんから世界観や参考にした映画についてヒアリングして、それを元にキャラクターを作りました。
最近の自分の仕事はデフォルメされたアニメ風のものが多かったのですが、リアルなキャラを描いていた時期もあったので、好きな映画や役者を基にしてデザインするのは楽しかったですね。
――どんな映画や役者を参考にしましたか?
吉川 やはりウォン・カーウァイ作品ですね。あとは、アジアのアクション映画です。ユーザーの皆さんはまずジュリーを見ていただいて、この子がどんな役者を参考にしたかを想像してみてもらいたいです。全体的に、キャラの顔を見たら「こういう人間なんじゃないか?」と感じていただけるように作りました。
――キャラクター全体を作る上で工夫したポイントはどこでしょうか? また、完成形までフィックスするのが大変だったキャラクターはいますか?
吉川 アレックスとジュリーは大変でしたね。なんといっても、ゲームの基準となる主要キャラクターなので。この2人が『野狗子: Slitterhead』という作品の全体を想像させてくれないと、周りのキャラクターとのギャップを感じてもらえないですよね。
実は、今回採用されたキャラクター数の倍はデザインしてます。自分の描いた没キャラを見て自分でも笑うくらいギャップがありましたよ(笑)。没キャラの一部分は採用されているキャラに引き継がれていたりするので、よければ設定画などで確認してみてください。
――吉川さんは3Dモデルの監修もされているとのことですが、苦労した点はありますか?
吉川 キャラクターの顔に関しては、スケジュールやコストを見ながら詰めていきました。キャラクターの人生を表しているので、そこはやはり大事ですよね。最初はクリーチャーもやれるかなと思ったんですが、物量的に無理でしたね……。
――特に気に入っているキャラクターデザインについてお聞かせください。
吉川 トゥリというキャラが好きで、可愛らしく仕上がっていると思います。
――吉川さんは『四のの目』シリーズを開発されているWODANに在籍されていらっしゃいますよね。今秋に発売される新作『深 四のの目 -陰陽の巫女-』と開発期間が被っていたのではと思います。開発の並行はなかなか大変だったのではないでしょうか。
吉川 『深 四のの目』は一部のデザインとイラストの担当だったため、問題なくスケジュールを調整できました。『野狗子』の作業のほうがボリューミーでしたね。
『野狗子: Slitterhead』の音楽について
――本作のサウンドについても、いくつかお聞かせください。本作の収録曲はギターロックを中心としている印象ですが、どのような意識で作曲されましたか?
山岡 実は「The Game Awards 2021」のときのティーザートレーラーくらいのもので、本編ではそんなにギターロックはかからないんですよ。あの時はスピード感みたいなものを出して、ホラーゲームというくくりじゃないぞと伝える意味合いで作りました。
――中国語のトレイラーソングは劇中でも聴けるのでしょうか? また、どのような内容の曲なのか教えていただけるでしょうか。
山岡 広東語を使ったものは3曲ありまして、うち1曲はオープニングで流れます。最初は歌詞がなかったんですが、僕が入れるように決めました。それぞれ「ジュリーのテーマ」「アレックスのテーマ」というニュアンスをボーカルの方に伝えて、それぞれの心情を書いてもらいました。
――サウンド面の制作において、特にこだわったポイントについてお聞かせください。
山岡 何年もゲームサウンドの制作に関わってきていますが、「音楽」というカテゴリでは仕事をしてないつもりです。例えば「ロック」や「クラシック」という音楽ジャンルの作風について一言で表すのは簡単ですが、ゲームの音ってそうじゃないでしょう。憑依とかアクションとか、そういうことひとつひとつに音が付くので。
このBokeh Game Studioで作るゲームに対して「唯一無二の音が出せるかどうか」、そしてそれが突飛ではなく共感を得られる形で提供できるかに苦心しました。そもそも僕って音楽理論もそんなにわかっていないし、譜面も全然読めないので。
外山 え、そうなの!?
山岡 そうです。“ミ”とか言われても鍵盤見て探してますよ(笑)。常にゲームという軸で考えて、どう面白くなるかを気にしながら音楽を作ってます。
――山岡さんは、本作のサウンドのすべてを担当されたのですか?
山岡 そうなんですけど、コンポーザーっていうよりはゲームの話のほうができるんですよね。だって最初に話を貰ったとき、“外山さんは今になって『レリクス(1986年のPC向けアドベンチャーゲーム。敵の体に憑依しながら遺跡を探索するのが目的)』をやるんだ”と思いましたからね。
外山 『レリクス』ね、懐かしいね(笑)。
山岡 脱線したので音楽の話に戻りますが、たしかに僕はホラーゲームの音楽が得意で、定型文的なサウンドをそのまま出すことは可能です。しかし、今回はアクションゲームとして、他にはない感じを出したかったんですよね。サウンドってどうしても下請けっぽい作り方になるんだけど、今回はスタッフと足並み揃えてやれました。
細かい話はいくらでもあるのですが、ひとつ挙げるとしたら「音が増えることで全体が濁ってしまう」ようなケースについてですね。特にアクションゲームは、音が増えてどんどんうるさくなっていくことが多いんですよ。
なので、“アライン”という音を揃えていく作業をかなり細かくやりましたね。自分がゲーム大好きなもので、一個一個丁寧にやりたいという思いがあり、違和感のあるところを逐一潰していったという感じです。楽しかったですよ。
――本作のサウンド制作にあたって、何かユニークな楽器は使いましたか?
山岡 そんなにユニークなものは使ってないと思います。舞台やキャラクターやクリーチャーといった「目で見ればすぐわかるもの」に対して、「見た目ではわからないもの」をサウンドで表現したつもりです。街の温度とかキャラクターの気持ちとか各種パラメーターとかね。
遊んだ人たちが自分の原体験が能動的に出てくるようにしたかったので、“特にここを聴いてほしい!”というポイントはあまりないんです。
――リメイク版『SILENT HILL 2』と制作スケジュールが被っていたと見受けられますが、並行して開発する際に意識していたことはありますか。
山岡 それに加えて、育児もあったんですよ(笑)。オムツを替えてる間に『野狗子』の足音を調整しようとか、そんな感じでした。
ものづくりとして集中して作業に入り、そして机の上にはコーヒーとタバコがあって……みたいな「私はこうじゃないと制作できない」という環境から外れたときに、自分がどのように制作に取り組めるのかを考えることは、チャレンジングで面白かったですけどね。
人生の中でのクリエイティブという意味で「こういうことはできない」って線を引くのは、簡単なんですよ。50代になって違うギアを入れて、やったことのないものづくりをしたわけですが、これがこのあとの自分にも影響していくかもしれません。
『野狗子: Slitterhead』の今後、クリエイターとしての考えは?
――ダウンロードコンテンツや発売後の追加要素については、予定されていますか。また、どのようなものを配信したいなどのアイデアはありますか。
外山 現時点では白紙です。自社開発かつ自社パブリッシングなので、こんなアイデアがあるというのが出てきたらキャッチアップしたいという思いはあります。
――本作の制作が完了したあとは、今後どういったクリエイティブに携わっていきたいですか? それぞれお聞かせください。
外山 スタジオが始まったと言うこともあり、スタジオのクリエイティブを意識しています。年齢的にはベテランになっちゃったので、スタジオのカラーを継承していくべきだと痛感している次第ですね。
吉川 まだちょっと仕事は残ってますが、今回は映画好きであることを仕事に活かせたので、こんな感じの作品がまたあったらやりたいですね。
山岡 外山さんがベテランという話を出しましたけど、本当にその通りで、我々には一体あと何年が残されているの��……。
外山 山岡さんにはこれから育児があるでしょ(笑)。
山岡 たしかに答えは育児になっちゃいますが(笑)。それはそうと、今までの経験が通用しないものにゼロからチャレンジしたいですね。こうやったら怖くなるとか、そういうパターンはわかっちゃってるので、パターンにない音を作りたいなと考えてます。
――開発中にお世話になったアイテム、ホビー、飲食物やお店などありましたら、お聞かせください。気分転換や能率アップに繋がったものなど。
外山 トランスフォーマーのおもちゃかな……あとタブレットでジグソーパズルをやってました。あれは整うんですよ……(笑)。
吉川 昔から動植物が好きなんですが、コロナ禍ということもあり、家で仕事しながら観葉植物を集めてました。出勤してた頃はずっと我慢してたんです。ビザールプランツ(塊根植物)のデザインが好きで、“振り向くと見たことのない植物がいっぱいある”っていうのに憧れてたんですよ。小さいのが50個くらいあります(笑)。
山岡 私は正直言うと、無いかもしれませんね。整っちゃうと、制作に戻るときが大変なんですよ。なので、なるべくマグロみたいにずっと泳ぎ続けてます。
外山 それは凄いね。僕は企画書くのは楽しいんだけど、セリフを考えるのがイヤで……他にすることがなくなってから渋々やってました(笑)。
――お三方は長きにわたってゲーム業界でクリエイティビティを発揮されていますが、この業界で長く活躍し続けるための秘訣がありましたら教えてください。
外山 実際どうなんだろうなあ。あんまり思いつかないですけど。
佐藤(『野狗子』プロデューサー) 僕が思うに「有名になりたい」とか「お金が欲しい」とかより「ゲームを作りたい」という気持ちが強い人が残っている印象があります。
外山 いや、お金は欲しいよ(笑)。
山岡 「こんな感じで良いかな」というものづくりじゃなくて「これを作りたい」「こうしたい」というモチベーションがある人が、業界に残っているのではないかと思いますね。タイトルや人との出会いにも恵まれましたけど、それを続けられたからではないかなと。
外山 たしかに、僕もこうしてディレクターを続けられたのは、自分らしさを出す意識があったからかな。他の人ではだめというか、僕の作ってきたIPが長持ちする傾向があるのは、上書きされにくい自分らしさを出してきたからなんでしょうね。
吉川 僕はユーザーとして欲張りなんですよ。常に良いものが欲しいんです。なので自分の仕事も、自分がユーザーとして満足できるようなものをぶつけられてると思います。それがお仕事する人にも伝わってるのかな。今も設定資料を見ていて、キャラクターに満足感があります。自分で楽しめているんですよね。
――本日はありがとうございました。
『野狗子:Slitterhead』は、PC(Steam/Epic Gamesストア)/PS4/PS5/Xbox Series X|S向けに2024年11月8日よりリリースされます。Game*Sparkでは先行プレイレポートも掲載しているので、実際のゲームプレイに興味を持っている方は本記事とあわせてご覧ください。
猥雑なネオン街を駆け抜け、モブを操って“野狗子”を狩れ―『野狗子: Slitterhead』先行プレイレポート©2021 Bokeh Game Studio Inc.