国会を揺るがす不倫騒動の落としどころはどこなのか――。国民民主党・玉木雄一郎代表の不倫相手と報じられている元グラドルで、高松市観光大使をつとめる女性の去就に注目が集まっている。
玉木代表の不倫疑惑をめぐっては、11月11日の「SmartFLASH」で報じられて、玉木代表が同日に臨時記者会見で「おおむね事実だ」と認めた。こうした状況の中、高松市が女性の「解職」を検討していると一部で報じらている。
弁護士ドットコムニュースが、高松市・観光交流課に取材にしたところ「解職は検討していません。事実確認を進めており、その内容を踏まえて適切に対応していく」という回答があった(11月12日)。
市観光交流課によると、高松市と女性は、雇用契約も委託契約も結んでおらず、報酬も発生してない。体調不良などで本人都合から申し出があったり、観光大使として適切でない場合は「解職」となるという。
今回の不倫騒動を受けて、女性は高松市観光大使を「解職」になってしまうのだろうか。高木啓成弁護士に聞いた。
●11月1日から「フリーランス新法」が施行された
ちょうど今月、2024年11月1日から、いわゆる「フリーランス新法」(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。
フリーランスとして働く人は年々増えていますが、仕事を受ける際に報酬の金額や支払日が明示されなかったり、買い叩きに遭ったり、場合によってはハラスメントを受けることがあります。
雇用契約の場合、これらについて労働基準法などで一定の保護がありますが、これまでフリーランスを保護する法律はありませんでした。そこで、フリーランスを保護すべく制定されたのが、このフリーランス新法です。
フリーランス新法は、仕事を受ける立場のフリーランスを保護するための法律なので、仕事を発注する事業者に一定の規制や義務を課しています。
たとえば、フリーランスに仕事を発注する際には、仕事の内容や報酬の金額・支払日を明示しなければなりません。また、原則として、法人が仕事を発注する場合には60日以内に報酬を支払わなければなりませんし、一方的な報酬の減額や不当に仕事をやり直しさせることも禁止されています。
●フリーランスを中途解除する場合は「事前予告する」義務あり
そして、フリーランスを中途解約する場合には事前予告する義務もあり、これが今回問題になりそうな規定です。観光大使には報酬が支払われないということなので、フリーランス新法の対象となる「業務委託」に該当しないとも考えられますが、該当するという前提で今回解説します。
仕事を発注する事業者は、フリーランスに6カ月以上の期間で業務委託をしている場合、その契約を解除するためには、少なくとも30日前までに予告しなければなりません。即時解除はできないわけです。
ちなみに、この事前予告義務は、従業員を雇っていない個人事業主や一定の小規模の法人が発注者の場合は対象外ですが、もちろん高松市はこれらに該当しません。
ここで、「フリーランスに6カ月以上の期間で業務委託をしている場合」とは、実際に6カ月以上継続的にフリーランスに仕事を依頼している場合だけでなく、契約期間が6カ月以上である場合も含みます。
観光大使としての仕事を6カ月未満で依頼することは通常想定しづらいので、本件は、「フリーランスに6カ月以上の期間で業務委託をしている場合」に該当すると思われます。
●事前予告義務に例外はあるが・・・
ただ、この事前予告義務には例外事由があります。「災害などのやむを得ない事由がある場合」や「フリーランスに責めに帰すべき事由がある場合」には、事前予告は不要とされているのです。
ここで「不倫したのなら帰責性があるのでは?」と思われるかもしれませんが、フリーランスに少しでも帰責性があれば事前予告不要というわけではありません。
業務委託契約の内容などを考慮して、総合的に判断して、30日前の事前予告の保護を与える必要のない程度に重大または悪質なものであるかどうかで判断するとされています。
とはいえ、施行されたばかりの法律で、これまで即時解除の有効性が争われた事例もありません。ですので、高松市としては、事前予告せずに解除するのであれば、観光大使の女性に事前予告の保護を与える必要のない程度に重大または悪質といえる帰責事由が認められるのか、慎重な判断が求められます。
●タレント事務所に所属していた場合は?
ちなみに、その女性がタレント事務所に所属し、高松市とそのタレント事務所との契約だったという場合には、基本的に、高松市は直接フリーランスと契約しているわけではないので、フリーランス新法は適用されません。
ただし、この場合も、要注意です。
フリーランス新法でいう「フリーランス」とは、個人事業主だけではありません。たとえ法人であったとしても、法人の代表者1名以外に役員がおらず、かつ、週20時間以上勤務する従業員も雇用していない場合には「フリーランス」に含まれるのです。
タレント事務所は、小規模な場合、代表者1名と、週数時間勤務のアルバイトや業務受託者しかいない場合もあります。この場合、そのタレント事務所も「フリーランス」に該当し、即時解除には制限がかかることになるわけです。
●価値観のアップデートが求められる
ここ数年、タレントに不祥事があった際には、マネジメント事務所は即時解除することが正しいかのような風潮がありましたが、フリーランス新法の施行によりこのような風潮に変化が起きていくように思います。
たとえば、アイドルがファンと繋がったことにより運営が即時解除をおこなったり、フリーのアナウンサーが炎上発言をしたことでマネジメント事務所が即時解除をおこなうようなことは、フリーランス新法上、認められず、逆に事務所側が非難を受けることになりかねません。
人々の価値観はどんどん変化していきますので、価値観をアップデートせずに以前と同じような対応をしていると、足をすくわれる会社も出てきそうな予感がします。