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食品ロス削減先進地へ カリフォルニア州の試み 井出留美の「食品ロスの処方箋」【38】

食品ロス削減先進地へ カリフォルニア州の試み 井出留美の「食品ロスの処方箋」【38】
カリフォルニア州のリサイクルセンター(筆者撮影)
食品ロス問題ジャーナリスト/井出留美

著者画像_井出留美さん
井出留美(いで・るみ)
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学)、修士(農学)。ライオン、青年海外協力隊、日本ケロッグ広報室長などを経る。東日本大震災で支援食料の廃棄に衝撃を受け、自身の誕生日でもある日付を冠した(株)office3.11設立。第2回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門、Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018、令和2年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。著書に『SDGs時代の食べ方』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』『あるものでまかなう生活』『食料危機』『捨てないパン屋の挑戦』『北欧でみつけたサステイナブルな暮らし方』など多数。

アメリカのカリフォルニア州は、先進的な環境政策をおこなっている州として知られている。

2020年までに温室効果ガス排出量を「1990年の水準」まで削減、2035年までには販売できる新車を排ガスの出ないゼロエミッション車のみに、2045年までには電力供給量に占める再生可能エネルギーの割合を100%に、など野心的な政策を次々に打ち出している。

2021年に「千年に一度」の熱波と「史上最大」の山火事にみまわれたカリフォルニアにとって、気候変動は差し迫った危機である。お尻に火がついているから、やれることはなんでもやる、ということなのだろう。

食品ロスの削減で気候変動対策

2022年1月には、生ごみ埋め立て地から発生するメタンを削減するため、食品ロスのリユースとリサイクルを義務づける州法「SB-1383」を施行した。メタンの温室効果は二酸化炭素の25倍以上と言われており、環境に与えるインパクトがきわめて大きな物質の一つだ。

新しい州法では、生ごみの分別を義務化し、各自治体に生ごみを回収して堆肥(たいひ)やバイオガスにリサイクルさせる。州内の卸売・小売業者には、まだ食べられる余剰食品を廃棄せずに食料支援団体へ寄付することを義務化し、2024年からはホテル・飲食店・病院・学校・大規模イベント会場などにも適用。違反者には罰金を科す。

州法「SB-1383」の数値目標は以下のとおり。

  1. 2025年までに、州全体の有機廃棄物の廃棄量を2014年比で75%削減する。
  2. 2025年までに、現在廃棄されているまだ食べられる食品の少なくとも20%を再分配する。

「有機性廃棄物(Organic Waste)」には、食品、緑化資材、庭ごみ、有機繊維製品、木材、紙、印刷用紙、堆肥、下水汚泥などが含まれる。

art_00166_著者画像_井出留美

法制化で、どのような変化が見られたのか

シリコンバレーのフードバンク「セカンドハーベスト」を取材して驚いた。

訪問したのは平日だったが、30人を超えるボランティアが広々とした倉庫で食品の仕分けをおこなっていたのだ。そのうえ、まだほかに職員が300人もいるという(日本ではスタッフが10人以上いれば大きい部類)。

フードバンク「セカンドハーベスト」の様子
フードバンク「セカンドハーベスト」の様子(筆者撮影)

日本では、大型の冷蔵庫や冷凍庫を持っているフードバンクは限られるため、取り扱うのは賞味期限の長い加工食品に偏りがちだ。農業の盛んなカリフォルニア州では、寄付される食品の半分以上(セカンドハーベストでは60%以上)が生鮮食品ということも多い。この日は農家から寄付された規格外の洋梨が大量に届いていた。

セカンドハーベストで扱っている生鮮食品とエミリー・アコスタさん
セカンドハーベストで扱っている生鮮食品とエミリー・アコスタさん(筆者撮影)

シニア・マネジャーのジョアン・サンボーンさんによると、「SB-1383」施行前の2020年に4万t程度だった小売業者からの食品寄付が、施行後に約5万~6万tへと増加したそうだ。

食料支援を考えるときに日本が忘れがちなこと

フードリカバリーをおこなう「ローブス&フィッシュ・ファミリーキッチン」を訪問すると、ちょうどドライバーのコーネリオ・チャベスさんが回収してきた果物やパンなどの食品をおろす作業をしていた。

ここで10年以上働いているというチャベスさんは、「サンノゼのスープキッチン(炊き出し)で3人の子どもを連れた母親に会ったときのことが忘れられないんだ」と語っていた。

「子どもたちに食べさせるために、彼女は何日も食べていないと話してたよ。だれだってそうなる可能性がある。家族や友だちのような自分のたいせつな人にもね。そう気づいたからこの仕事をつづけているんだ」

「フードバンク」が寄付された食品や食材をそのまま組織や個人に渡すのに対して、「フードリカバリー」は寄付された食品や食材で調理をし、あたたかい食事や冷凍弁当にして必要とする人に提供することをいう。

art_00166_著者画像_井出留美

このフードリカバリーセンターでは、「SB-1383」効果で、現在は1日あたり約8千ポンド(3.6t)程度の食品寄付量が、2025年度に9千ポンド、2026年には1万ポンドと増加すると予測している。寄付量の増加に合わせて、現在1日あたり7500食程度の食事提供数を13000食まで増やせるようにキッチンを増設中だ。

印象的だったのは、一人暮らしの高齢者など、高齢の方や障害のある方も食事提供の対象に含まれていることだった。日本では子ども食堂の数が全国で9千以上に増えた一方、困窮した高齢者の支援は限られている。少子化と高齢化が同時に進んでいるのだから、高齢者への食の支援も必要なはずだ。

ローブス&フィッシュ・ファミリーキッチン
(左)「ローブス&フィッシュ・ファミリーキッチン」の外観、(中)提供されるお弁当、(右)ドライバーのコーネリオ・チャベスさん(筆者撮影)

雨水だって無駄にしない

バークリー・リサイクルセンターでは、紙類や電化製品、電池、衣類、靴、瓶などが、カテゴリー別に35種類に分別されている。近隣の住民が車で資源ごみを持参し、自分で仕分けするスタイルだ。

めずらしいところでは使用済みの食用油や自動車用オイルなんて分別もある。持ち寄られた本やCDは、希望者がいれば自由に持ち帰れる。資源ごみスタンド脇ではフードドライブもおこなわれていた。

感心していると、案内してくれたマリオ・ゴンザレスさんが「雨水だって無駄にせず、ためて使うんだ」と教えてくれた。

バークリー・リサイクルセンター
バークリー・リサイクルセンターの様子(筆者撮影)

州法「SB-1383」の成果

州リサイクル局によると、2023年には21.7万t(2億4200万食分)の余剰食品が生活困窮者に再分配された。また2024年10月時点で、州内の自治体の約8割が生ごみの分別回収をおこなっているという(州人口の何%がカバーされているのかは不明)。

できあがった堆肥を無料で配布しても消化しきれず、堆肥の山が増えていく一方の自治体もあるようだが、カリフォルニア州の農地面積は2420万エーカー(約979万ha)と広大だ。大量に生産されることになる堆肥を有機質肥料として施肥できれば簡単に解決できるはずだ。

しかし、農家に有機質肥料として安心して使ってもらうためには、成分、有効性、施肥する量や時期などについて客観的な評価が必要なはずだ。準備期間はあったはずなのに、生産される堆肥の使い道を検討せずに、いきなり食品ロス廃棄禁止に踏み込んだのだとすれば驚きだ。

ついに米国初の食品期限表示改革法が成立

2024年9月、カリフォルニア州議会は、米国ではじめてとなる食品期限表示改革法案「AB-660」を可決した。食品ロスの原因となってきた、まぎらわしい食品期限表示を簡素化・標準化するものだ。

カリフォルニア州では年間およそ600万tもの食品ロスが発生しているが、主な原因のひとつとされているのが食品期限表示の一貫性のなさだという。

米国の連邦法では乳児用の粉ミルク以外の食品には決まりがなく、食品メーカーごとに「fresh until」「enjoy by」「freeze by」「born on」など独自の期限を表示しているため、実際の店頭には50種類もの期限表示が存在している。

1029人を対象にした2016年の米国の消費者調査によると、84%は少なくとも時々期限の迫った食品を捨てており、3分の1以上の人が食品の期限表示は連邦政府によって規制されていると誤解していたという。

食品医薬品局(FDA)は期限表示が原因の食品ロスが全体の20%を占めると推定しており、カリフォルニアの場合、年間約120万tもの食品が、期限表示が原因で廃棄されていることになる。

2026年7月以降、カリフォルニア州で販売される食品の期限表示は、おいしさのめやすは「賞味期限(BEST if Used by)」、安全性を示す期限は「消費期限(USE by)」に統一され、同時に流通・小売業者が在庫管理に使い、消費者には関係のない「販売期限(Sell by)」は禁止される。

例外として、ワインや蒸留酒については、生産やボトル詰め、包装が行われた日付を表示してもよく、また乳児用加工乳、卵、殻付き低温殺菌卵、ビールやその他の麦芽飲料は、こうした期限表示ラベルの対象外となる。

カリフォルニア州は経済規模が非常に大きい(2017年時点でGDP約2兆7460億ドルは、世界5位に相当)ため、カリフォルニア州の基準で期限表示をするメーカーが増える波及効果が期待される。

3Rの全方位から食品ロス削減に取り組む

カリフォルニア州は食品ロス対策として、

  • まだ食べられる食品が間違って捨てられないように期限表示を標準化し
  • 卸売・小売業者には困窮者を支援する団体に寄付することを義務づけ
  • それでも残ってしまうものについては、温室効果ガスが発生する埋め立て地やごみ焼却施設に送るのではなく、堆肥やエネルギーにする

ことで、リデュース・リユース・リサイクルの「3R」の全方位から取り組もうとしている。

2024年9月12日に学術誌『サイエンス』に発表された論文では、「食品ロス廃棄禁止」を法制化した5つの州の中で、マサチューセッツ州以外は期待された効果が得られていないことが示唆されている。カリフォルニア州については長期的には効果が見込める可能性があるとのこと。

カリフォルニア州の取り組みは、まだはじまったばかりだ。大量に生産されることになる堆肥の使い道は、生ごみの資源化を検討している日本の自治体にも無関係ではない。ロサンゼルス市のような大都会でも機能するのかも含め、これからも注目したい。

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