現在、50歳の私(佐藤)は日々、実感していることがある。考えたくはないが「人生の残された時間には限りがある」と。仕事もさることながら、ポールダンスをあとどれだけやっていられるだろうか? と考えてしまう。せめてケガなく長く続けたいと思い、むちゃな挑戦を避けてきた。

だが、同世代のある人物の活躍を見ていると「そんなに弱気でどうするんだ?」と改めて自分に問う次第だ。

その人、酒井博生さんは47歳でそれまで培ったことのすべて手放し、プロレスラーに転身した。そして自らの団体「酒井組」を立ち上げて、旗揚げ興行に挑もうとしている。彼はいう「挑戦することに年齢は関係ない」と。

・47歳からのプロレス、後悔はない

酒井さんはプロレスを始めるまで、いわゆる普通の会社員だった。スーパーに勤めて総菜を作っていたという。そんな彼が道場に通い始めたのは44歳の時だった。キックや寝技のクラスを受講しているうちに、子どもの頃の夢がフツフツとよみがえってきたという。その夢というのがプロレスラーになることだった。

その当時、所属していた道場に週5で通うことを条件に、2021年10月、47歳で練習生になり4カ月後にデビューを果たしている。以前のインタビューで「後悔はないですか?」と尋ねると、彼はこう応えた。


酒井「正直、収入面でいえば、サラリーマン時代の10分の1くらいだし。週5で練習して毎週試合ですから。肉体的にもハードですよ。それでも、後悔はないです。

はっきりわかるんです。やらなかった方がずっと後悔してたって。「やればよかった」って思うに決まってると」


同世代の私はその言葉に励まされる思いがした。そんな気持ちで日々を生きているだろうか? 歳を言い訳にして、尻込みしていないか? 自らを省みた時に、「後悔はない」と言い切れるようなものがなく、恥ずかしくも感じた。



・さらなる挑戦、さらなる野望

その彼がまたもう1歩前へ。いや10歩くらい前に進みだしている。

プロ歴わずか2年半にして、自らの団体を立ち上げて旗揚げ興行を開催する。2024年7月21日、新宿「FACE」で行われるイベントの対戦カードは、異様なまでに豪華だ。


プロレスにそれほど明るくない私でもわかる選手が何人もいる。とりわけ豪華なカードが、メインイベントの旗揚げ記念特別試合のタッグマッチ、60分1本勝負。


「酒井博生、ザ・グレート・サスケ VS 藤原喜明、田中将斗」


繰り返すがわずか2年半のプロ歴しかない。49歳とはいえ、いわば新人である。そんな彼がなぜここまでの興行を行うことができたのだろうか?


酒井「歳も歳ですから、人と同じスピードでやっていてはダメなことがわかってるんです。とはいっても、まったく後ろ盾のない状態ですから、怖さはありましたよ。

でも、いざ始めてみると、本当に大勢の皆さんにご助力を頂いて、なんとか開催までこぎつけることができました」



酒井さんは現在フリー。酒井組に所属しているのは、現在ご自身のみだ。そんな頼りない状況でありながらも、今回の興行へのこだわりは譲っていない。


酒井「やるなら歌舞伎町がいいって思ってたんですよね。それで関係者の方々にお声がけをしたら、佐野(直)さんが「やっちゃいな」って言って、会場をおさえてくださいましてね。

それからプロになって1番戦いたかったのが、田中将斗さんなんですよ。いつかはやりたいと思っていたら、メインイベントで対戦させて頂くことになって。サスケさんには最近ご指導を頂いていたり、藤原組長とは組長対決ですし。夢のような対戦が実現しました」


酒井さん自身の力で組み立てた興行なのでは? そう尋ねると、彼はそれを否定する。


酒井「たしかに決断したのは自分ですけど、本当にまわりの皆さんのおかげです。皆さんの支えがなければ、何もできないってことを今回痛感しました。

関係者の皆さんも含めて、ファンの皆さんの声援が後押ししてくれました。そうじゃなきゃ、ここまで来ることはできませんでしたよ」


たしかに支えあってのこと。でも、彼を支えたい何かがあるから、声援を得られているのではないかとも思う。それつまり彼のいう「挑戦するのに年齢は関係ない」だ。その言葉を酒井さん自身が体現しているからこそ、誰もが力になってくれているはず。

団体を立ち上げた彼が描く、この先のビジョンもまた挑戦に満ちている。


酒井「まずは旗揚げ興行ですよね。これを成功させます。その先はしばらく年に2回は興行したいですね。さらにその先は季節ごと、3カ月に1回くらいで続けて行きたいです。

それから道場を持ちたいですね。今はフリーなので他の道場をお借りしている状況ですから、自分の練習のためにも。それから同じように挑戦していく人の器になるような場所として、道場が欲しいです。

それからですね、実はご縁を頂いて、人気の任侠ドラマシリーズに出演させて頂いたんですよ。可能なら俳優業という芽も伸ばしていければ。何をやるにも地名度は必要ですから、より多くの人に自分自身のことを知ってほしいです」



彼の野望は尽きない。

新人レスラー酒井博生。寄る辺なくフリーの身にして自らの団体を立ち上げ、名だたるレスラーを招集して旗揚げ興行に打って出た。49歳は彼にとっての人生の終盤ではない。なぜなら、挑戦することに年齢は関係ないからだ。

彼の戦いのゴン��が鳴るのは、これからだ


・イベント情報

名称 酒井組旗揚げ興行
会場 新宿FACE (東京都新宿区歌舞伎町1丁目20-1 7F)
日時 2024年7月21日 開場17:00 試合開始18:00
チケット イープラス

参考リンク:酒井博生 公式X
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

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