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安い中国製SSDってどう?米大手とガチンコ対決!
2023年9月12日 06:21
8月某日、PC Watch編集部の劉氏と打ち合わせしていた時のこと。いろいろ業務の話を進めつつ、新しい記事のネタへと話題が展開していった。
私:このところ大手ブランドSSDも安くなってきたことですし、SSDでなにかやりませんか。
劉:お、いいですね。
私:まあ、安くなったSSDを集めて比較ってだけだとちょっと弱いので、もうちょっとひねった内容にしたいところですが。
劉:それなら、米中半導体対決なんてどうですかね。中国製NAND搭載SSDと米国製or日本製NAND搭載SSDのガチンコ対決。書き込みまくって耐久性見る、みたいなの。
私:それ面白そうですね、やりましょうか。
かなり端折ってはいるが、概ねこんな感じで決まった今回の企画。個人的に、政治的な部分は興味がないので置いておくとして、成長著しい中国製NANDや、その中国製NANDを搭載するSSDの品質がどの程度のものなのか興味があったのは事実。
そこで、近年製品を多く見かけるようになった中国製NAND搭載SSDと、いわゆる大手ブランドSSDを用意して、NANDの耐久性を検証することになった。
対決用として用意したSSD
今回の対決用として用意したSSDは、次の2製品。
大手ブランドSSDは、WDの「WD_BLACK SN850X NVMe SSD」1TBモデル、WDS100T2X0Eを用意。WDのPCIe 4.0x4/NVMe SSDの最上位モデルで、ゲーミングPCやPlayStation 5などでの利用を想定した製品。主な仕様は以下にまとめたとおりで、購入価格は1万3,114円だった。
SSDコントローラはWD自社開発の独自コントローラを、NANDフラッシュメモリはWD自社開発のTLC 3D NAND(BiCS 5)をそれぞれ採用。なお、NANDフラッシュメモリは、SN850X発売当初は112層3D NAND「BiCS5」とされていたが、現在発売されているものは162層3D NAND「BiCS6」を採用している可能性がある。容量は非公開ながらDRAMキャッシュも搭載。シーケンシャルアクセス速度はリード最大7,300MB/s、ライト最大6,300MB/s。
【表1】WD_BLACK SN850X NVMe SSD WDS100T2X0Eの主な仕様 | |
---|---|
容量 | 1TB |
フォームファクタ | M.2 2280 |
インターフェイス | PCI Express 4.0 x4 |
プロトコル | NVMe 1.4 |
NANDフラッシュメモリ | TLC 3D NAND(112層 BiCS5) |
コントローラ | WD独自コントローラ |
DRAMキャッシュ | 搭載(容量非公開) |
シーケンシャルリード | 7,300MB/s |
シーケンシャルライト | 6,300MB/s |
ランダムリード | 800,000IOPS |
ランダムライト | 1,100,000IOPS |
総書き込み容量 | 600TBW |
保証期間 | 5年 |
対する中国製NAND搭載SSDとしては、HIKSEMIの「FUTURE SSD」1024GBモデル、HS-SSD-FUTIRE 1024Gを用意。こちらもPCIe 4.0x4/NVMe SSDで、同じくゲーミングPCなどでの利用を想定した製品だ。主な仕様は以下にまとめたとおりで、購入価格は1万800円だった。
SSDコントローラは中国Maxio製「MAP1602」を、NANDフラッシュメモリは中国YMTC(Yangtze Memory Technology Corp)が開発した232層TLC 3D NANDをそれぞれ採用。DRAMキャッシュは非搭載。シーケンシャル速度はリード最大7,450MB/s、ライト最大6,600MB/s。
【表2】HIKSEMI FUTURE SSD HS-SSD-FUTIRE 1024Gの主な仕様 | |
---|---|
容量 | 1,024GB |
フォームファクタ | M.2 2280 |
インターフェイス | PCI Express 4.0 x4 |
プロトコル | NVMe 1.4 |
NANDフラッシュメモリ | TLC 3D NAND(YMTC 232層) |
コントローラ | Maxio MAP1602 |
DRAMキャッシュ | 非搭載 |
シーケンシャルリード | 7,450MB/s |
シーケンシャルライト | 6,600MB/s |
ランダムリード | 860,000IOPS |
ランダムライト | 670,000IOPS |
総書き込み容量 | 1,800TBW |
保証期間 | 5年 |
まずは通常のベンチマークテストで比較
まずはじめに通常のベンチマークテストで比較してみた。利用したベンチマークソフトは「CrystalDiskMark 8.0.4c」、「ATTO Disk Benchmark 4.01.0f1」、「PCMark 10 Full System Drive Benchmark」、「3DMark Storage Benchmark」だ。テスト環境は以下にまとめたとおり。
テスト環境
マザーボード:ASUS TUF GAMING B650-PLUS WIFI
CPU:Ryzen 5 7600
メモリ:DDR5-5600 32GB
システム用ストレージ:Samsung SSD 950 PRO 256GB
OS:Windows 11 Pro 64bit
CrystalDiskMark 8.0.4cの結果を見ると、データサイズが1GiBの場合には双方ともほぼスペック通りの結果が得られている。それに対しデータサイズを64GiBに設定すると、SN850Xでは4Kランダムライトのみやや落ち込みが見られるのに対し、FUTURE SSDではシーケンシャルリード・ライト、ランダムリード・ライトともに落ち込んだ。
それもランダム速度の落ち込みはかなり大きく、このあたりはDRAMキャッシュが非搭載だったり、コントローラやファームウェアの完成度といったあたりに原因がある可能性が考えられる。とはいえ、通常利用であれば、それほど気にする必要はなさそうだ。
続いてATTO Disk Benchmark 4.01.0f1。こちらもほぼスペックどおりの結果となっている。どちらも安定して速度が発揮されており、性能面で大きな違いはないと言える。
PCMark 10 Full System Drive Benchmarkの結果は、ほぼスコアが横並びとなった。アクセス速度が速いFUTURE SSDのほうがスコアがわずかに上回っているが、ほぼ誤差の範囲内と言えるほどで、この結果からも性能差はほとんどないと言える。
3DMark Storage Benchmarkの結果は、先ほどのPCMark 10 Full System Drive Benchmarkの結果とは異なり、SN850Xのほうがわずかにスコアが上回った。とはいえ、こちらもスコア差は誤差と言える範囲内であり、ほぼ性能差はないと考えていいだろう。
次に、HD Tune Pro 5.75を利用し、大容量ファイルの読み書きを行なった場合の速度変化をチェックしてみた。今回は、データサイズを200GBに設定してテストを行なっている。ただし、双方ともランダムアクセステスト時にI/Oエラーが発生してテストが中断しているが、シーケンシャルアクセスは結果が得られているため、そのまま利用している。
結果を見ると、SN850Xでは容量200GBのシーケンシャルリード・ライト時にほとんど速度変化が起きていないことが分かる。
それに対しFUTURE SSDでは、ライト時にはテスト開始直後は6,000MB/sほどの速度が記録されているが、書き込み容量が5GBほどを超えると速度が5,000MB/s前後へと低下し、さらに容量130GBほどを超えると1,500MB/s前後へと低下した。またリード速度も130GBを超えたあたりで速度が低下するとともに、大きく速度が上下していることが分かる。
SN850Xでは、DRAMキャッシュに加えて、NANDフラッシュメモリの一部をSLCキャッシュキャッシュとして利用するキャッシュ機能が用意されており、SLCキャッシュは空き容量が多いほど多く確保される。今回はデータが一切保存されていない状態でテストを行なっているため、200GB程度の書き込みではSLCキャッシュが尽きることがないため、速度が低下しなかったと考えられる。
それに対しFUTURE SSDでは、DRAMキャッシュ非搭載ではあるが、おそらくメインメモリにキャッシュを確保するとともに、SLCキャッシュ機能も用意されているようだ。ただその容量はSN850Xよりも少なく、SN850Xよりも早く速度低下が発生したと考えていいだろう。
このことから、キャッシュ性能に関してはSN850Xのほうが優れると考えられる。とはいえFUTURE SSDも実利用時ではキャッシュが切れるような大容量の書き込みが発生することは希だ。もちろん、保存データが増えればその限りではないが、どちらもキャッシュが切れて速度が大きく低下するような事態が頻発するようなことはないと考えていい。
ここまでのベンチマークテストからは、キャッシュ性能がFUTURE SSDのほうがやや弱いものの、全体的には大きな性能差がないことが分かる。そのため、通常利用の範囲内では、どちらを利用したとしても、ほぼ性能差を感じることはないと考えていいだろう。
HIKSEMIの温度報告は怪しい
ところで、念のため負荷をかけたときの温度の推移をチェックしてみたところ、気になる部分があった。
以下のグラフは、CrystalDiskMark 8.0.4cをデータサイズ64GiB、5回計測で実行した際の、それぞれの温度変化とアクセス速度を、ハードウェア情報取得ソフト「HWINFO64」で取得したものだ。このチェック時にはSSDにマザーボード付属のヒートシンクは装着せず、エアフローもほとんど届かない状況でチェックしているため、本来であればヒートシンクを装着した通常利用時に比べて温度がかなり高くなるはずだ。
実際、SN850Xは温度が最高で86℃に達している。しかしFUTURE SSDではテスト開始から終了時までほとんど温度が変化せず、最高でも49℃までしか上がらなかったのだ。
今回用意したSN850Xはヒートシンク非装着モデルで、チップ上にも型番シールが貼られているだけだ。それに対しFUTURE SSDには、先に紹介下用に金属プレートを含むヒートスプレッダがチップ上に張られているため、SN850Xよりも冷却性能は優れるだろう。ただ、それにしてもエアフローがほとんど届いていない状態でも最高温度が50℃を下回っているというのはかなり不自然だ。
そこで、サーモグラフィーカメラを利用して表面温度を計測してみたところ、76℃を超える温度を計測した。表面温度が76℃を超えているなら、内部温度はもっと高温になっているはずで、FUTURE SSDのS.M.A.R.T.の温度情報は正確なものではない、と考えられる。このあたりから、まだまだ製品が未熟といった印象を受ける。
耐久性チェックはこれから
というわけで、今回は比較用に用意したSSD 2製品について紹介した。本題の耐久性チェックについては、これから順次行なう予定だ。その方法としては、以下のようなものを考えている。
テスト環境
マザーボード:ASUS TUF GAMING B650-PLUS WIFI
CPU:Ryzen 5 7600
メモリ:DDR5-5600 32GB
システム用ストレージ:Samsung SSD 950 PRO 256GB
OS:Windows 11 Pro 64bit
- マザーボードのM.2スロットに装着し、マザーボード付属のヒートシンクを取り付ける
- 株式会社スマートセキュリティイノベーションのSSD加速寿命テストツール「SSD耐久テストPro.」を利用し、データをSSDに書き込み続ける
- 一定期間でSSDを交換しながら交互に書き込みを行なう
耐久性テスト自体はかなり時間がかかる。また、テスト環境は1つしかないため、SSDを交換しながら交互にテストを行なうことになる。一定期間ごとにSSDを交換しながらテストを続けようと思うので、どういった結果になるかは気長に待ってもらいたい。
【11時25分訂正】記事初出時、WD SSDの型番が誤っておりました。お詫びして訂正します。