エンジニア採用シーンが高騰しすぎている件について
個人的にバブル現象について著しく興味がありまして、90年代のバブ���期から始まってIT革命、その後の局所的なブームも含めて大小バブルとそれに伴う人の流れを意識して観察しています。
これまでも何度か話題にしましたが、バブルというのは当事者はあまり「この繁栄に終わりがある」とは思いにくいものです。自分が信じたものに対し「需要がついてきた」と誤解しやすいものです。
さて、今回のテーマはエンジニア採用シーンの高騰はバブルなのか?そしてバブルだとすればその終焉はどのようにして起きるのか?ということです。
エンジニア採用シーンはバブルなのか?
提示年収も、それに伴う採用フィーもそれぞれ高騰しています。
提示年収で言うと先立ってとあるSESの会社さんが下記のような投稿をされ、話題になっていました。一日で問い合わせが30件を越えたとも書かれていました。
最低提示年収言い切るって凄いなぁと思うわけです。風評や反応を見る限り妙な会社さんではないようですが、恐らくスキ��アセスメントなどは課すのかなと推測しています。単価は高いけれどもスキルが足りなかったり勤怠が荒れているSESは短期終了してしまいますから。しかしこうした明言を重ねることによって構成されていく相場もあるので注視していく必要はあります。
2020年末ころからSESの「還元率」が話題になりました。客先に出している単価の何%が本人の給与に相当するかというものです。普通に収支表を計算すると50%くらいなりますが、徐々に65%くらいが一般的になっていそうです。「高還元率」を謳う会社さんでは85%というのもあります。ただし数字のマジックが無いとは言い切れず、下記のような不明点があります。
エンドの客先への提供単価とは言ってない
どの商流か(何社下なのか)も明言されていないことが多い
還元率の計算式を開示しているわけではなく、企業によって違う
社会保険の企業負担分を本人還元に数えたりすることもある模様
人材紹介の紹介フィーも上がっています。昔から特定の職種について瞬間的に50%、80%、100%、150%が打たれることはあり、それ自体は珍しくないことです。当該職種がバブルを迎えていただけです。ただ相場の底上げは起きており、年収の35%が下限になりつつあります。
このまま40%とかが相場になるのか?と思っていたところ、次のような話がありました。ある人材紹介さんでは求人数が昨対比3倍となったそうです。
となると人材紹介の売上はさぞ凄いだろうと思っていたのですが、次のような話も事実でした。企業側を捌けないので新規受付を停止しているようです。私も業務の一環で営業活動をしていますが、企業開拓ができなくて悩んで居る側なのでインバウンドが多くて断るなんて贅沢すぎて嫉妬してしまいます。ビジネスって難しいですね。
実際問題として正社員転職が「どこか一社を選ぶ」という行為である以上、紹介求人数が多いために契約をしても一向に紹介されない企業に対する期待値調整というのは厳しいでしょう。
また間接費としてのブランディングも必須になっています。テックブログなどはその最たる例ですが、テックブログを書くのにも1記事あたり1人日は掛かると計算すると「そんな金は出せない」「通常業務で正規のバリューを出して」となります。投資の意識と余裕のある粗利が重要です。
採用フィーはいつペイできるのか
高騰する給与を歓迎するのはあくまでもエンジニア当人のお話です。企業からすると悩ましい問題です。採用フィーや給与の上昇に対し、いつ投資回収ができるのかを考えねばなりません。その上で次の投稿をご覧ください。
SESのような人月商売の場合、企業に請求する金額に企業の利益と共に採用フィーを載せていく訳ですが、500万円の人を入社させたとすると紹介フィーも500万円になります。例えば紹介フィーを10万円ずつ毎月の請求費用に上乗せするとすると50ヶ月(4年2ヶ月)かかることになります。その一方でエンジニアの一社あたり在籍年数は短くなる傾向にあり、下記コンテンツのように2年で離職されてしまうと260万円ほどの赤字になります。人を採用しなければビジネスが始まらず、採用したら採用したで離職しないか恐れ慄く事態となります。2022年トレンド予測でお話しした「人月ビジネスの限界」シナリオがこの辺りから起きるのではないでしょうか。
期待が寄せられるリファラル採用
採用シーンにおいて注目が集まっているのはリファラル採用(社員紹介)でしょう。また別の回で取り上げたいと思いますが、リファラル採用を実現するためには何より社員に自社のファンになってもらう必要があります。リファラル採用がうまく行っていない組織には、何かしらの問題がある・殺伐としている・採用枠があることを知らない・自社の売り込み方を知らないなどのいくつかの原因が考えられます。そして恐らくはそこについて先にメスを入れないと後々の定着にも影響していくでしょう。
エンジニア採用市場の崩壊シナリオ予測
現状では少子化による供給の不足と、猫も杓子もデジタル人材採用をしているので需要の増加が起きています。
昔に比べて給与の相場も上がり、ブラックな現場も減ったとなるとこの世の春のように思えます。「西海岸では〜」「シンガポールでは〜」などと海外のITエンジニア給与と比較する向きもありますが、物価の話と当人のレベルの話が抜きで語られるのは危険です。ITスキルと英語ができればまだ異なってきますが、内需だけで高騰している状態に乗じるリスクはあると考えています。
バブルであるならば備えなければならず、崩壊の兆候を察したら身のなりふりを考えなければならないでしょう。いくつか想定されるシナリオを考えてみました。
海外人材
オフショアを担いでの営業活動をしていると感じますが、今の日本のITシーンにおいてオフショアが進んでいないのは「10年前のオフショアブームの時に煮湯を飲まされたミドル・シニアエンジニア達の嫌悪感」という防波堤の上で成立しています。いよいよ人が居なくなってきた今、ベンチャー企業さんであってもオフショア拠点を構えたり、検討されている会社さんが見られるようになってきました。この辺りの嫌悪感の防波堤が極まる人手不足の中でなし崩し的に消え始めた頃、一気に日本人人材の特需が萎むシナリオはあると想定されます。そうなるとより上流の企画部門や経営層がやりたいことを整理し、システムに落とし込める人材が優先的に残ることになるでしょう。
海外から人を呼ぶ海外移民は日本そのものの魅力具合を感じると期待薄でしょう。
デジタルネイティブ世代の台頭
幼児教育としてのプログラミングも一般的になり、幼少期からプログラミングを身につけてきた層がまとまって出現してくるでしょう。20年前には既に確認されていましたが、中学や高校でフリーランスプログラマをするような人達も一般的になるでしょう。
年齢やプログラミング歴といったものでスキルをより図れなくなっていくため、スキルアセスメント実施によりフラットに評価される流れがより一般化するでしょう。表層的な知識だけを身につけたエンジニアから順番に立場が危うくなるシナリオが想定されます。
技術革新によるプレイヤーの入れ代わり
技術とは無情なもので、技術革新によって急に需要が凹むケースが散見されます。技術そのものの流行が終わって当該エンジニアの需要がなくなるケースもあれば、技術が成長することによってそれまで必要だった特殊スキルが不要になるようなこともあります。
例えばIT革命の時などはISPやホスティングで儲けたITインフラの人たちが私の周囲に沢山居られ、「インターネットの普及は絶対。インフラを担う我々の繁栄も確実。」といった風潮がありました。しかし現実にはインターネットはスタンダードにはなりましたが価格競争が起きたため、やること据え置きで成功を継続できた方はごく少数でした。
直近でもRPAなどは高額なライセンス費用とコンサル費用と共に一世を風靡しましたが、Microsoft Power Automateで衝撃が走っています。AIについても味方によっては往時のITインフラと似た香りがしています。
今の待遇が良いからと言って胡座をかくのは非常にまずいです。今はたまたま良いだけという認識が生存戦略上は有効です。
崩壊に備える
個人的にはいつか崩壊するのではないかと考えています。今の繁栄は永遠ではないと捉えた上で、次の身の形振りを考えた方が、キャリアのロバストネスは得られるでしょう。絶好調な時に「もしも」を考えられる人はごく少数です。
でも思うんです。ここで「エンジニアの需要は崩壊しない!エンジニアは儲かる!」と断言したほうが私は短期的には儲かるんだろうなと。そんな楽観的なことは言いませんけどね。
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