アメリカの美大で学んだこと05:「絵がうまい」より大切なこと
突然ですが絵がうまい人ってたくさんいますよね。
SNSなんか見てると、もう全人類が自分より絵が上手いんじゃないかって思えてきて、凹むことさえあります。笑
僕は23歳のド素人として美��に入学したので(うちの学校はポートフォリオ審査や美術スキルのテストは無いので本当に素人でした)、入学時点でのスキルは学校内ではすごく下の方でした。
さて、絵がうまいのはコンセプトアーティストとして働く上で当然大きなアドバンテージになりますが、一番大事なことが「絵がうまいこと」かと聞かれれば、、、どうなんでしょう?
今回は「絵がうまいこと」よりもっと大切なことがあるぞ、と教わった授業の話です。
絵の天才じゃない人は何で勝負するの?
学校が3年目に突入すると、基礎授業が終わり、だんだんとコンセプトアートらしい授業が始まります。そんな中、ある授業で教授がこんな質問をしてきます。
「さて、この中(教室内)に絵の天才はいないわけだけど、、、君たちが業界で生き残るには何で勝負すべきだと思う?」
絵を専門で学んでいる(と思い込んでる)僕らには、なかなかズシっとくる言葉でした。笑 天才じゃないのは気づいてるけども。教授は僕らの表情を見ながら続けます。
「中国で今年10歳になるアーティストがいて、彼は3歳から絵の英才教育を受けてきて、今の時点でキャリアも技術も彼の方が上だよ。もっというと、彼みたいな人は世界にたくさんいるけど、どうしようかね?」
そんなこと言われたって、、、って感じですよね。笑
教授はさらに続けます。
「答えを言うと君たちが武器にすべきは"考え方、つまりアイデアを考えて絵で表現すること" これだけ���、鍛えれば絶対に他の人と勝負できるようになる。単に絵の技術だけの勝負じゃない。」
正直、この瞬間は教授の言っている意味はよく理解できてはいませんでした。
「考えること」を学ぶ課題
「コンセプトアートの絵っていうのは、最終的に映画やゲームの画面には映らないものでしょ?あくまで制作過程で使われるものなの。そんな中で、一番大事なことは何かを考えるべき。」
ここまで説明され(意味はよくわかっていないが)、先日出された課題に話は移ります。僕らはこの日までに木のシルエットを20個描いてくるように言われていました。
こんな感じで種類の違う木を20本描きました
※当時の課題が見つからなかったのでこれは改めて描き直したもの
(確かこんな感じだった、、はず、、、)
「それじゃあ今日描いてきてもらった木の50年後を想像してみましょう。それぞれの木にどんな変化が起こるか、できる限りいろんな可能性を想像して、変化した木をシルエットで描いてきて。それが次の課題です。」
実はこの課題で僕は大学生活で初めてべた褒めされます(自慢です!笑)。
次のクラスではみんな課題で描いてきたものを壁に張り出し教授を待ちました。入ってきた教授がじっと黙って壁をみつめている時間って、ドキドキがたまりませんよね。
すると突然名前を呼ばれます。
「Kenta!」
心臓飛び出ます。というのも、僕は怒られると思ったんです。なぜなら張り出された絵の中で、僕の絵が多分一番下手だったからです。しかし、、、
「グレイトジョブ!」
固まりました。褒められた理由がわからなかったんです。キョトンとしていると教授は続けます。
「アイデアの幅が素晴らしい。これが、考えるということです。」
こんな感じで木の変化を表したシルエットを描く課題
※こちらも新たに描きましたが当時描いた物の再現です
ここでぼんやりと気づきました。今までとは課題の評価基準が変わっていたんですね。これまでは絵の基礎技術が授業のメインだったので、「技術的にうまいこと」が評価基準でした。しかし今回からは「アイデアを考え、伝えられているか」が評価基準に変わっていたんですね。
よく考えてみると、確かに僕らの絵はそれ自体が商品というよりも、製作の工程を繋いだり、チームでイメージを共有するために使われます。そこでは、技術以上にアイデアを考えて人に伝えることがより重視されるんですね。
僕は課題の意図に気づいていたわけではなかったので、この時うまくいったのは完全にラッキーです。教授はさらに続けます。
「ケンタ、これ考えている間、楽しかったでしょう?」
そうなんです。僕は課題をやっていて、この「考える」というプロセスがめちゃくちゃ楽しかったんです。いろんな資料を探しながら、「あっ、この木はよく街中に植えられてるから、引っこ抜かれて街路樹にされることもあるのかな」、「木の伐採業者に切られたらどうなる?割り箸だ!」、「森の中の木が朽ちたら、その上に新しい木が生えてきたりするのかな?」など、想像と現実を照らし合わせながら発想を膨らませている時間が何より楽しかったです。楽しかったから、とにかくたくさん考えたんです。この時はその楽しんで考えたアイデアが、なんとか伝わったんですね。
あまりうまくいかなかったクラスメートの絵は技術的に上手でも、単純に50年経って大きくなった木で埋め尽くされていました。
しかし、初めてのベタ褒めに浮かれていた僕に、教授は最後に一言付け加えるのを忘れませんでした。
「絵の技術がもっと高かったら、もっと伝わってたアイデアもあったのにね。」
間違っちゃいけないこと
教授の最後の一言は、今でも僕の大きな課題です。
アイデアを考えるのはすごく大事、たぶん一番大事です。前回の記事でも書きましたが、オリジナリティはアーティストの頭の中にあります。
アメリカの美大で学んだこと04:オリジナリティってなに?https://note.com/kenta_design/n/n529d0e3c36b6
だからこそ、与えられたお題に関してどう考えるか、にも個性が出てきます(例えば僕は日本人なので、日常的に使っている割り箸などは、アイデアとして出てきやすいんだと思います。)
しかし、ここで疎かにしちゃいけないのが技術の大事さです。しっかりと自分のアイデアを伝えるためには技術が必要です。技術が全てではないです。ですがコンセプトアーティストはしっかりした技術がある前提で成り立つ仕事です。だから常に鍛えておかなければいけないし、鍛え続けなければいけないです。普段のスケッチも勉強もガシガシやって、もっと頭の中のことを絵で表現できるようになりたいと僕もいつも思っています。
ここで教授の言葉を一つ。僕はこの言葉めっちゃ好きで、noteを始めた頃からシェアしたかった言葉なんです。笑
"Creativity only shines on top of basic skills."
「クリエイティビティはしっかりした基礎の上でしか輝きを放たない。」
別の教授に言わせると
うちの学校には素晴らしい教授が何人かいたんですが、別な教授がこんなことを言っていました。
「うちが教えているのは、決して絵を描くスキルだけじゃないんだ。考える力が大事なんだ。例えば10年後になんらかの理由でゲームもアニメーションもなくなって、エンターテイメントってものがナイトクラブだけになったとしよう。そうなったとしても、このクラブはこういう音楽だからこういう照明を当ててこうやって見せればお客さんは喜んでくれるんじゃないかって、考えられる人にはちゃんと仕事はあるんだ。考えるってのはいろんな仕事で共通してるんだよ。」
ちょっと例えはぶっ飛んでますが、、、笑
でも言っていることはわかります。「考える力」というのはどの仕事でも根底にあるもので、業界の変化にも振り回されないものだってことだと思います。そう考えると変化の激しいエンターテイメント業界では本当に大事なことですよね。
まとめ
コンセプトアーティストにとって、一番大事なのは「考えること、意見を伝えること」です。でもその考えや意見は、しっかりとした技術がないとそもそも伝わらないことも多いです。これはすごく大変なことですが、同時に幸せなことだとも思います。だって技術も考える力も、両方生きてる限り伸ばし続けられるものだからです。なかなか一生続けられるものって出会えませんが、絵を描いて伝えることに関しては生涯成長を続けられるものだと思います。こんな風に書くと大げさですが、「こんな楽しいものを爺さんになっても続けられるって最高じゃん!」ってことです。笑
なので、日頃からいろんなものに興味を持って触れて考え、それを表すための技術の鍛錬を続ける。そんな風に生活していきたいですね。
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