TIGの辻 (@d_tutuz)です。
本記事ではAWS Lambdaの関数シグネチャを静的解析することで、より安全にAWS Lambdaを実装する方法を紹介します。
はじめに
早速ですがAWS LambdaのアプリケーションをGoのSDKを用いて開発するときに、関数のハンドラは以下のシグネチャでなくてはなりません。
func () |
関数を実行するときは lambda.Start
や lambda.StartWithContext
の引数として関数ハンドラを渡すことで、開発者が実装した関数ハンドラが実行されます。
以下はAWS LambdaをGoで実装するときの main
パッケージの実装例です。
package main |
interface{}
型であるハンドラ
ところで lambda.Start
関数の引数であるハンドラは interface{}
型 3 です。
func Start(handler interface{}) |
interface{}
型として扱うため、以下の HandleInvalid
のようにハンドラの関数シグネチャが、うっかり有効でないシグネチャになっていたとしてもビルド自体は成功します。有効でない関数シグネチャを引数に渡して実行するとどうなるのでしょうか?
package main |
答えは “実行時エラー” になります。AWSのコンソールから実行すると以下のようなエラーメッセージが出力されます。
静的解析による関数シグネチャチェック
できることなら、有効でない関数シグネチャを早い段階で検知して、実行時エラーを防止したいですよね。
「静的解析」とはプログラムを実行せずにソースコードを解析することです。Goは静的解析のエコシステムが充実しており、静的解析でコードを検査して、不具合につながりそうなソースコードを検知することは一般的です。Go言語自体に備わっている go vet
コマンドがありますし 1、サードパーティによるツールですとGoの典型的なエラー処理のミスを検知する errcheck
や静的解析のツールセットである staticcheck
などがあります。
unmarshal
��ジュールによる静的解析
静的解析の例として go vet
コマンドを用いてJSONをGoの型にマッピングするときの実装ミスを静的解析でチェックしてみましょう。Go公式のツールである go vet
コマンドを実行したときに呼び出される unmarshal
モジュールを使って検知できます。2 GoでJSONを型にマッピングするときは json.Unmarshal
(あるいは (Decoder).Decode
)を使います。json.Unmarshal
に渡す第2引数はポインタである必要がありますが、ポインタになっていない場合に go vet
コマンドを使うと、ポインタになっていないことを検知できます。
package main |
このとき $ go vet ./...
とすると以下のように出力されます。第2引数がポインタではないことを教えてくれます。
.\main.go:17:26: call of Unmarshal passes non-pointer as second argument |
このように静的解析を行うことで、コードを実行せずに不具合につながるコードを早期に検知でき、品質向上に寄与します。
自作ツールでAWS Lambdaの関数シグネチャを静的解析
JSONのマッピングの実装ミスを静的解析で検知した要領で、AWS Lambdaにおけるハンドラの関数シグネチャも静的解析を行い、有効でない関数シグネチャを検知することを試みます。筆者が調べたところ、既存のツールとして公開されているものはなかったため自作しました。
- 静的解析ツールの自作
gostaticanalysis/skeleton
を使うことで静的解析の雛形を生成でき、便利に静的解析ツールを作り始めることができます。また golang.org/x/tools/go/analysis
モジュールなどを用いて、構文解析の解析結果である抽象構文木やソースコードの型の情報など、静的解析に必要な情報を扱うことができ、静的解析したい独自のロジックを実装できます。
自作したAWS Lambdaの関数シグネチャを静的解析ツールは以下です。
d-tsuji/awslambdahandler
を使うと Start
や StartWithContext
の引数に渡す関数のシグネチャが正しくないコードを発見してくれます。
冒頭に紹介した、AWS Lambdaが実行時エラーになる以下のコードに対して、awslambdahandler
で静的解析をしてみます。
package main |
- 静的解析の実施
awslambdahandler
を実行すると、以下のように有効でない関数シグネチャとして検知できます。AWS Lambdaにデプロイして実行せずとも、実行時にエラーになる関数シグネチャを静的解析で検知できました。
$ go vet -vettool=`which awslambdahandler` main.go |
awslambdahandler
のインストール
インストールは
go install github.com/d-tsuji/awslambdahandler/cmd/awslambdahandler@latest |
などとして簡単にできます。CI環境に組み込めば、日々のチーム開発でより安全にAWS Lambdaを実装できます。ぜひ使ってみてください。
まとめ
静的解析を実施することでバグにつながるコードを早い段階で検知できます。gostaticanalysis/skeleton
や golang.org/x/tools/go/analysis
を用いることで便利に静的解析ツールを自作できます。awslambdahandler
を用いることでAWS Lambdaの関数シグネチャを静的解析でき、より安全にAWS Lambdaを実装できるようになりました。
- 1.
go vet
コマンドを知らなかったという方も、実はgo test
のときにgo vet
に含まれる一部の静的解析が実行されています。https://golang.org/pkg/cmd/go/internal/test/ ↩ - 2.https://golang.org/cmd/vet/ に含まれている
unmarshal
です。 ↩ - 3.Go1.18から導入予定の型パラメータを使ったジェネリクスが浸透すれば、今後引数の型の扱いは変わっていく可能性はあるでしょう。 ↩