異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2024年7~10月の#musicdogg選曲

 大分間が開いてしまったなあ。
2024年7月は7月4日のアメリカ独立記念日にちなんでAmericaとかU.S.Aとかの曲。
1.”Born In The U.S.A." Bruce Springsteen
2."Banned In The U.S.A." 2 Live Crew
3."Dreaming In The U.S.A." Sting & Shaggy
4."America" Simon & Garfunkel
5."American Woman" Lenny Kravitz
6."American" Lana Del Rey
7."America" Prince
8."American Oxygen" Rihanna
9."R.O.C.K. In The U.S.A." John Cougar Mellencamp
10."American Dream" Crazy Ken Band
11."White America" Eminem
12."U.S. Blues" Grateful Dead
13."An American Trilogy" Elvis Presley
14."Red, White & Blue" Judas Priest
15."This Is Not America" David Bowie (feat. The Pat Metheny Group)
16."(You Can Still) Rock In America" Night Ranger
17."American Girl" Tom Petty And The Heartbreakers
18."Little America" R.E.M.
19."America Eats Its Young" Funkadelic
20."Breakfast In America" Supertramp
21."Miss Black America" Curtis Mayfield
22."My Country" Randy Newman
23."Yankee Rose" David Lee Roth
24."Ameykahn Promise" Erykah Badu
25."I'm So Bored With The U.S.A." The Clash
26."Lost In America" Alice Cooper
27."God Bless America" Lil Wayne
28."America The Beautiful" Ray Charles
29."All American Man" Kiss
30."Oklahoma U.S.A." The Kinks
31."This Is America" Childish Gambino

 8月は夏にちなんでThunderやLightningな曲。
1."雷櫻” MAISONdes feat. 9Lana & SAKURAmoti
2."Thunder Road" Bruce Springsteen
3."Heavy Metal Thunder" Saxon
4."Thunder" Lana Del Rey
5."Smokestack Lightning" Howlin' Wolf
6."Thunderstruck" AC/DC
7."Lightning" Mortimer
8."We Don't Need Another Hero (Thunderdome)" Tina Turner
9."Ride The Lightning" Mettallica
10."Lightning Strikes" Cypress Hill
11."Thunder And Lightning" Meredith Brooks
12."Thunder" Prince & The New Power Generation
13."Johnny Thunder" The Kinks
14."The Man Comes Around" Johnny Cash
15."Switch On Your Radio" Maurice White
16."Lightning Strikes" Ozzy Osbourne
17."Don't Let Go" Roy Hamilton
18."Thunder And Lightning" Thin Lizzy
19."Thunder" Jessie J
20."Downbound Train" Chuck Berry
21."Thundersteel" Riot
22."I Love A Rainy Night" Eddie Rabbitt
23."I Don't Do Drugs" Doja Cat feat. Ariana Grande
24."Revolution" Bob Marley
25."Knock On Wood" Eddie Floyd
26."Hit Me, Thunder" Suchmos
27.”雷鳴と稲妻” Johann Strauss II
28."God Of Thunder" Kiss
29."Hang On In There Baby"Johnny Bristol
30."Thunder On The Mountain" Wanda Jackson
31."Dreams" Fleetwood Mac

 9月はWorld Letter Writing DayでLetter関連の曲で。
www.daysoftheyear.com
1."Please Mr. Postman" The Marvelettes
2."Poofter's From Wyoming Plans Ahead" Frank Zappa
3."Write Me A Letter" Aerosmith
4."手紙” 奥田民生
5.”My Computer" Prince
6."Letters" 宇多田ヒカル
7."Take A Letter Maria" R.B.Graves
8.”Babooshka” Kate Bush
9."Please Read The Letter" Robert Plant & Jimmy Page
10."Dear God" XTC
11."Strawberry Letter 23" Shuggie Otis
12."Stan" Eminem feat. Dido
13."Blue Letter" Fleetwood Mac
14."I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter" The Boswell Sisters
15."Letter To Hermione" David Bowie
16."Postman" Living Colour
17."Le déserteur" Boris Vian
18."Message In A Bottle" The Police
19."Love Letter" Bonnie Raitt
20."One Love" Nas feat. Q-Tip
21."A Letter To Elise" The Cure
22."Write A Letter To Myself" The Chi Lites
23."P.S. I Love You" The Beatles
24."Postcards From The Past" Billy Idol
25."Walking On Sunshine" Katrina & The Waves
26."Letter Never Sent" R.E.M.
27."Soldier's Last Letter" Merle Haggard
28."Letter My Unborn" 2Pac
29."In Your Letter" REO Sppedwagon
30."Signed, Sealed, Delivered" Stevie Wonder

  10月は一応Teacherがテーマ(。10月5日はWorld Teacher's Dayなんだそうで。先生をempowerする日なんですが、ポピュラー音楽なんで対極なアヤシイ感じの曲もいろいろと含んで。
www.unesco.org
1."You Can Be My Teacher" 94East(Prince)
2."Hot For Teacher" Van Halen
3."When I Kissed My Teacher" Abba
4."Teachers" Daft Punk
5."School"s Out" Alice Cooper
6."Teacher's Pet" Doris Day
7."Oh Teacher" Diana Ross
8."The Teacher" Paul Simon
9."Teacher, Teacher" Slick Rick
10."Master Teacher" Erykah Badu
11."Teacher's Blues" Pete Seeger
12."Teachers" Leonard Cohen
13."先生がんばってください” Vibrastone
14."The Miseducation Of Lauryn Hill" Lauryn Hill
15."Another Brick In The Wall Pt.2" Pink Floyd
16."Be True To Your School" The Beach Boys
17."Teach Your Children" Crosby, Stills, Nash & Young
18."Subsitute" The Who
19."My Old School" Steely Dan
20."Passin' Me By" Pharcyde
21."Smokin' In The Boys Room" Brownsville Station
22."Don't Stand So Close To Me" The Police
23."The Teacher" The Falcons
24."Education" Pearl Jam
25."My Name Is" Eminem
26."家庭教師” 岡村靖幸
27.”Teacher I Need You" Elton John
28."School Days" Chuck Berry
29."Teach Me Tonight" Dinah Washington
30."Rock'n Roll High School" Ramones

 選曲やって2年になるが、なるべく同じ曲をポストしないように頑張るのが精いっぱい。まとめると、ここのところは同じアーティストばかりになってるなあ。本職の人達は大変なのがわかるね(もちろん個人でやっていないとは思うけど)

2024年9-10月に行ったイベント(ブルーノートジャズフェス、宝塚)

 絶賛体調不良中の現在だが、ちょっと前にいろいろ行った疲れも原因の一つではあるなー(体力の低下を実感(悲)。
 9月21日にはBlue Note Jazz Festival Day1へ。

bluenotejazzfestival.jp
 ジャズフェスとは名ばかりで、この日はいわゆるジャズミュージシャンはゼロだね。 
ACT1 .ENDRECHERI.
 堂本剛だけではないが、元ジャニーズについてはジャニー喜多川の件を無視して言及するのは難しい。彼らの多くが(理由はどうあれ)言及を避けているので立ち位置がわからないことも、逆に触れざるを得ないところがある。性的加害が長年放置されていた構造上の問題含め、加害者側ではないとしても、個人としてはともかく集団としてでもいいのでなんらかの態度の表明があってもいいのではないかと思う(たとえば堂本光一は決別を宣言しているが、決別したという以前に直接態度を表明しているところが評価できる)。
 音楽自体は大変素晴らしいものであった。P-Funkの本質的な部分、性的な要素を含むユーモア、グルーヴ全てを正統に継承するファンクを展開していた。解像力と演奏力の高さは特筆すべきものだ。たしかTV番組でギターを始めたという流れだったと思うが、ここまでに至る道のりの努力は尋常ではないものがあるだろう。そしてその真摯さは現況を反映したものかもしれない。(俳優業の方もやっていることは知っているが)彼のキャリアが問題のあった人物に引かれたレールであるという批判はおそらく長く続くであろうし、そのこともよく理解しているだろう。元々ファンクは垣根の低さの一方で(Princeが典型的だが)精神性の高い音楽である。よりその精神性を突き詰めていく方向に彼は進むのではないかという予感がする。もはや彼には音楽しかないのかもしれない。
ACT2 Tank and the Bangas
 ニューオーリンズのバンドで、いかにもニューオーリンズというよりはヒップホップの感覚を通過した、現代ブラックミュージックという感じ。新進気鋭(グラミーの新人賞も受賞しているっぽい)ということだが、個人的には突出したなにかを感じることが出来ず今一つだった。
ACT3 Misia and Takuya Kuroda Band
 日本のディーヴァとしてもう別格の存在として扱われるMisiaであるが、ライヴは初めて。どちらかというと初期の曲が好きで、バラードよりリズミカルな曲の方ばかり愛好する当ブログ犬にも嬉しい選曲。もちろんバラードも見事。脂の乗り切ったトップシンガーの最高のパフォーマンスを体験することができて大満足。素晴らしかった。
ACT4 Parliament Funkadelic feat. George Clinton
 御年83歳となるP-Funk総帥George Clinton。ライヴ引退じゃなかったんかい!というツッコミをよそに、来日も当ブログ犬は体力的に無理なフェスへの出演があり、涙をのんでいたが、今回は屋内。いやあまたお目にかかることができるとはありがたやありがたや。元気なお姿に信者としては後光が差して見えましたわ。いうことはありません。ただただ最高。
ACT5 Nas
 体力的な限界もあって、序盤だけ観て帰宅(ファンの方ゴメンナサイ)。でもすごく良かったです。本格的なヒップホップのライヴは恥ずかしながら初めてで、お客さんの雰囲気だとか盛り上がりのタイミングとか未体験のものがあって発見が多々あった。またトリだけあって、ステージの映像効果も豪華でカッコよかったね。ちゃんとヒップホップの単独公演をNasあるいは他のアーティストでも観てみたいな。
 楽しかったが半日でもこの時の疲労が間接的に影響してか体調を崩したので、参加方法をこれからは検討しないとな(情けなやー)。

 
 ちょっとしたきっかけがあって、10月30日は生まれて初めて宝塚公演を観た。
kageki.hankyu.co.jp
『記憶にございません!』三谷幸喜の政治風刺映画の舞台化(映画は未視聴)。首相が記憶を失ってしまうが、それを隠して活動することによって起こる騒動を描くコメディ。
 序盤に音楽をメドレーでテンポよく畳みかけ、ある程度キャラクターや話の骨格を見せてから地のお芝居が始まるというかたち。雑感を並べると
・男役めちゃカッコええ!脚長!
・出演者多!壇上で人がいっぱい!
・音楽パート多!生オーケストラ最高!
 元の映画がどうかはわからないが、選挙キャンペーンで登場するアイドルグループがダンスとかいかにもそれっぽいというところもベタながら可笑しかった。あまり観劇経験はないのだが、ミュージカルはやはり楽しいね。特にラテン、ファンク風、和風などなどくるくると曲調が変わり飽きさせない。少々諷刺が甘めなのが、惜しかったが、内容的にはタイムリーな題材でもあった。
 それから主人公の首相と野党の政治家、首相の妻と政治秘書のダブル不倫が上下の舞台組みで同時進行するというなかなかしゃれた演出があったのだが(歌も重なるという凝りぶりがニクい)、ここで女性の方が男性に迫るという図式になっているのが良かった。インモラル要素を含みつつ、女性をエンパワメントするところはフィクションの特性をよく生かした宝塚らしさなのかもしれないとちょっと思った。
 観客層にも驚かされた。もちろん予想通り圧倒的多数が女性なのだが、時に老夫婦、男性単独客、10代らしき若者、親子連れと年齢層の幅ではこれまでにいろんなジャンルの公演で見たことのないものだった。非常に新鮮な体験であった。
 宝塚もまたハラスメントの問題が残念ながらあった。報道にも注視していきたい。

www.kyoto-np.co.jp

2024年9月に読んだ本、参加した読書イベント


 引き続き積んでたSFマガジン消化につとめたので本自体は少なめ。
◆『19世紀ロシア奇譚集』

「アルテーミー・セミョーノヴィチ・ベルヴェンコーフスキー」アレクセイ・トルストイ
 馬車が壊れ、とある村の奇妙な家主のいる屋敷に世話になることになる。ちょっとしたユーモア短篇といった作品だが、この家主がダメ発明家なのが楽しい。
「指輪」エヴゲーニー・バラトゥインスキー
 資金繰りに窮した主人公は、裕福だが変わり者という人物に相談する。ホラーあるいは因果応報的な話に収束するかと思いきや。いい作品で、多少雰囲気に違いはあるが、プロット的にはウィリアム・トレヴァーあたりを連想。
「家じゃない、おもちゃだ!」アレクセイ・ヴェリトマン
 ドモヴォイ(家霊)の住む二軒の館に住む人々の運命が描かれる。このドモヴォイが頑固爺さん属性でユーモラスなのがポイント。
「白鷺ー幻想的な物語」ニコライ・レスコフ
 とあるパッとしない貴族の高官が査察のため行ったペテルブルクで美しい青年が配下に就くことになる主人公。誰からも愛されるこの青年が急死して、彼に取り憑くことになるのだが、多少鬱陶しい程度でさほど重苦しくないのが面白い。
「どこから?」フセヴォロド・ソロヴィヨフ
 当てもなく歩く主人公。友人を訪ねることを思い出し…。正調怪異譚。短いが文体のキレが良い。
「乗り合わせた男」アレクサンドル・アンフィテアトロフ
 列車で乗り合わせた男からいきなり五等官かどうかを聞かれる。死者だというこの男が話すには…。テンポよく現代性もあって楽しい。
「クララ・ミーリチー死後」イワン・トゥルゲーネフ
 大作家だが読むのは初めてかも。わずかな接点しか持たない女性の死に翻弄される若者の話。こうしたアンソロジーの中にあるが、文豪による文学的な題材の作品だが思いの外怪異寄り、というような位置だろうか。主人公が取り込まれていく描写の熱に浮かされる様は巻末にふさわしい迫力。
 古典新訳文庫は解説が毎回充実しているのだが、本書もロシア文学と幻想怪奇をめぐる流れが様々な角度から分析され、詳しくない身としては実にありがたい。
 さてこれに関しては二つも読書イベントに参加したので、両方言及。
 まずは第57回怪奇幻想読書俱楽部読書会に参加。

kimyo.blog50.fc2.com
 主宰のkazuouさんが言及されているが、英米の本流的な怪奇譚からするとちょっと歪ともいえる「家じゃない、おもちゃだ!」「乗り合わせた男」などが盛り上がったりしていたのが印象的。またSFも含めたロシアものの訳書、ドイツロマン派からの流れなど話題が多方面に及び実に楽しかった。(その分、課題本『ドイツロマン派怪奇幻想傑作集』同じく非英米ということでいろいろ教わりたかった次回58回の読書会が締め切りになったのがイタかったー。まだ読み終えていなくて迷ってしまったのだよな)
 こういうことは珍しいのだが、偶然にもこの本で別のイベントが行われ、しかもオンラインだったのでそちらも参加。

https://peatix.com/event/4124832/view
 実は最初の30分ほどはこちらの都合で聴けなかったのだが、十分に面白かった。そもそも今や大文豪の代名詞みたいなトルストイですらヘンリー・ジェイムズから異様なものと評されたようだ(必ずしも否定的ばかりではなくということらしい)。つまりわれわれが英米文学で正統ととらえているものを考え直す(ありていに言えばalternativeということになってしまうかな)きっかけになるのがロシア文学なのかもしれない。ロシア文学には<地の声(あるいは肉声?)>といった「スカース」という表現があって、通常の文学表現の合間に挿入されるということを知ったのも大きかった。英米そして日本文学にはあまりないとのこと。それが非常に訳しにくいというのはなんとなく納得。訳者の 高橋知之氏は怪奇幻想文学好きで、津原泰水の名前も挙げられており、落語やお笑いから翻訳のヒントを得ているなど、非常に今後を大いに期待させてくれる方でもあった。
◆『第四間氷期安部公房

 タイトルは現代の間氷期のこと。年代記的な小説ではなく、「モロー博士の島」のような生物改造とそれに関する陰謀劇が展開するSFミステリの趣向で前半は展開。しかし背景とする思弁性は先駆性を有し現代においても曇ることがない。日本のSFの嚆矢にして、あとがきにもある「現在に未来の価値を判断する資格があるか」という根本的な問いかけがあることに唸らせられる。ポストヒューマンに関する作品でもあり、今なお刺激的な視点を提示している。
◆『妻の帝国』佐藤哲也

 とある高校の日常風景から話は始まる。やや抽象的なディスカッションが交わされる中、一人の生徒が直感で理解できる「民衆の意思」の存在を主張、それは覚醒すれば理解可能だともいう。彼は「最高指導者」からの手紙を受け取っていたのだ。
 一方、その「最高指導者」は「わたし」の妻である。一風変わった性格の妻と「わたし」は珍しくもない出会いを経て結婚にいたる。しかし妻は既存のすべてのイデオロギーを否定し、直感による民衆独裁のみを肯定する革命家だったのだ。
 現在の政治体制をふまえたシミュレーション小説ではなく、思想的な動機から社会が崩壊してく過程は寓話的な部分が強い。しかし人によって構成される社会の構造は思想によって一気に変質する側面も持つ。本作は日常的な光景を乾いた文体で鮮やかに切り取っており、事態の推移がある種の現実感をともなって読者の前に現れる。非常に恐ろしい作品でもある。
 以下雑誌は例によって興味のあるもののみの感想
SFマガジン2002年3月号
 ニール・スティーヴンスンと新世代作家特集。
○フィクション
「ポタワトミーの巨人」アンディ・ダンカン
 2001年世界幻想文学大賞ショートストーリー部門受賞作。実在のボクシング世界ヘビー級チャンピオンだった、1881年生まれのジェフ・ウィラードを題材に取った作品。ジェフは白人であり、モハメド・アリに影響を与えた黒人ボクサーのジャック・ジョンソンから王座を奪ったため、当時白人ファンの溜飲を下げたというようなことがあり、また奇術師フーディーニと一悶着あったり、その辺が本作に取り込まれている。作品は手堅くまとまっていて悪くないが、むしろ途中に出てくる「フーディーニといっしよにステージにあがるんだージャック・ロンドンオークランドでやったように、ウィルソン大統領がワシントンでやったように。」という一文が気になるね。それぞれなんのことなんだろう?
○ノンフィクション
・「テクノロジーの世界に遊ぶ」ニール・スティーヴンスンインタビュウ デイヴィッド・V・バレット
 いまや"メタバース"が一般用語として浸透しているニール・スティーヴンスン。『ダイヤモンド・エイジ』(積読のまま(苦笑)刊行時で、創作の流れや参考にした本などについて語っている。いわゆるSFプロパー外の人で、SFコンヴェンションへの参加しないと言及しているのが面白い(自意識過剰に陥るだけで、ファンから質問されても自分が混乱して作家活動には邪魔、というようなことを答えている)。
・「コミュニケーション補綴具ーはたして脅威の存在か」ニール・スティーヴンスン
 短いエッセイでコミュニケーションツールとしてPowerPointをとらえるという内容で、ユニークな発想力がわかる。PowerPointに訳注がついめいるのが時代を感じさせる。
SFマガジン2009年7月号
 伊藤計劃追悼と映画「スタートレック」効果器記念特集号だがそちらは失礼ながらスルー。
〇フィクション
「齢の泉」ナンシー・クレス
 2008年ネビュラ賞ノヴェラ部門受賞作。若いころにキプロスで恋に落ちた娼婦を忘れられない男。彼女がある金持ちの妻になったと知って、という話だが近未来が舞台で不老技術をめぐる攻防の話も加わる。アイディアと情感のあるストーリーのバランスがよく、受賞も納得。ちなみに序盤に「日本人が入れ込んだレトロな金属性の犬」というフレーズがあるが、AIBOのことかな(この時期にはもうブームは過ぎてたっぽいが、<その技術が取り入れられていて>という文脈なのでオマージュ的な意味だろう)。
SFマガジン2012年1月号
○フィクション
「ドリアン・グレイの恋人」グレゴリイ・フロスト
 タイトルのようにドリアン・グレイを題材にしているが、<老いない>を<太らない>にしているのが現代的。シンプルなストーリーだが雰囲気があってよかった。
「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」ロバート・F・ヤング
 ミスをおかして、26世紀から11世紀にやってきた航時スーツを身に着けたPRC(過去再建部隊)マン。小品といってもいい長さの作品だが、作者のロマンティックな持ち味がよく出ている。あらすじだけで昔は拒否感が出ていたのだけど、『ジョナサンと宇宙クジラ』を読んでからは、この人の良さがわかってきた気はする。他の作家より堂に入っているというかタッチがスムースなんだよね。それでも相変わらず「たんぽぽ娘」は好きではないのだが(苦笑)。
○ノンフィクション
現代SF作家論シリーズ(監修:巽孝之)
 第12回ウィリアム・ギブスン
ヴァーチャル・カナダーウィリアム・ギブスンの脱領域空間 ポール・ジャイルズ(海老原豊訳)
 相変わらずギブスンに明るくないので、なかなか把握しづらい論考なのだが、カナダに亡命しヴァンクーヴァーに移り住んだ作家を環太平洋という視点でとらえるという視点は興味深い。(アナリー・ニューイッツの名も出てくる)
SFマガジン2012年10月号
 レイ・ブラッドベリ追悼特集号。
〇フィクション
「祝杯を前にして」井上雅彦
 舞台は1995年。LAで行われる怪奇幻想映画のコンベンションに向かう作家と編集長。いつもの鮮やかな幻想ショートショートだが、わからない箇所がところどころある。ブラッドベリファンならちゃんと楽しめるのだろう。
以下ブラッドベリ作品。
「生まれ変わり」
 生前最後の短篇集収録作ながら1943年前後の作品を改稿したものとのこと。散文詩のような、生と死のイメージを鮮やかに届ける。ブラッドベリらしい作品。
「ペーター・カニヌス」
犬が告解の秘蹟を行う話。可愛らしい掌篇だが、こういった作品はキリスト教徒ではないと少々わからない部分がどうしてもあるように思ってしまう。
「霧笛」
 再録。怪獣ものの原点とされる作品で、再読になるが、そもそも<怪獣(あるいは怪物)>ものには根本に詩情があるのだなと思わせる。
「歌おう、感電するほどの喜びを!」
 再録。有名作品だが初読。おばあちゃんロボットがやってきて子どもたちの面倒をみる話。まあおばあちゃん版ドラえもんだな(1977年作だからその表現で問題なし)。ドラえもんのび太のいい話回みたいな感じだが、このおばあちゃんロボットがやってきて起動するところがミイラから蘇る描写で怪奇幻想色を帯びるのが非常に良いアクセントになっていると思う。この辺がブラッドベリの味なのでは。
○ノンフィクション
・「連れて帰ってくれ」
自身による短いエッセイ。少年時代のSF小説との出会いについて。火星シリーズとターザンシリーズを暗記した彼は祖父母の家の芝生の上でだれにでも物語を聴かせ、本エッセイのタイトルそのままに火星に「連れて帰ってくれ!」といっていたという。全くファンではないのだが(月並みにいってやはり甘すぎるのよね)、ブラッドベリもまた「ここではないどこかに帰りたいの人」だったのだなあと思うと心動かされるものがある。後の作品「火の玉」につながるという、5歳の時に亡くなった祖父とのエピソードもまた名画の様に美しい。
・「感電するほどの墓碑銘をーレイ・ブラッドベリのために」現代SF作家論シリーズ番外篇 巽孝之
 普段は様々な書き手がSF作家について論じ、巽氏が監修者として紹介する形式だが、今回は自らによるブラッドベリ論。魔女狩りの犠牲者のしそんであったとか、映画版「白鯨」の脚本をたんとうしていたとか、知らなかった。アメリカ文学史において果たした役割を読み解いていく。いつもながら新鮮な視点かつ明解、ブラッドベリの拍子抜けするほどの素朴なアメリカ中心主義にもしっかりと言及、網羅的な内容にもなっている。
SFマガジン2018年4月号
 ベスト・オブ・ベスト2017。
〇フィクション
「「方霊船」始末」 飛浩隆
 『零號琴』スピンオフ。漢字とルビを多用した固有の文体でグロテスクなイメージを紡ぐ手法は本篇同様魅力を放つ。
「魔術師」小川哲
 忘れられた天才魔術師が舞台に戻ってきた。新たな出し物とは。人生を賭けたトリック、という題材としてはプリースト『奇術師』を想起させる。やはり魔術師ものはいい作品が多い。
「9と11のあいだ」アダム・ロバーツ
 『ジャック・ダグラス伝』(未読)が評判を呼んだ作家で、作品は初めて読む。必ずしもコメディとはいえない表現をとっているものの、これは大ボラ的な要素が強く本人の持ち味はまだちょっとわからないような作品。
SFマガジン2019年6月号
 横田順彌追悼号。
大昔に『脱線たいむましん奇譚』を読んだくらいで、古典SF研究についても全く押さえていないのだが、重要なお仕事をされていたと思うし、周囲の人々に愛されていたのがよく伝わってくる(ニューウェーヴSFは苦手だったようだが)。
〇ノンフィクション
・「ぼくの亜米利加旅行」
 1975年に鏡明荒俣宏伊藤典夫とロサンゼルスの北米SF大会やフォレスト・アッカーマン宅を訪問したり、ディズニーランドへ行って、さらにはニューヨーク、サンフランシスコと東西往復している。基本的にはユーモアたっぷりの珍道中の紀行記の趣向だが、さすがに現代だと問題のある表現がちらほら出るのも当然といえば当然か。なにはともあれアッカーマンが日本の貴重本をいろいろ持っていて、日本から訪問した彼らが買ったりもらったりしている様子には驚かされる。おそるべしアッカーマン。
・「横田順彌の不思議な世界」中島梓
 SFマガジン1978年6月号掲載の横田順彌ユーモアSF論。論旨はともかく10頁に渡って氏のユーモアSFについて解説しており、ダジャレを中心とした作品がゆえになかなか貴重な評論ではないかと思われる。
〇フィクション
「かわいた風」横田順彌
 様々な登場人物の断片的なエピソードから未来世界の状況が浮かび上がってくる叙情的な作品。氏のシリアスな作品を読むのはおそらく初めてではないかと思うが、SFらしい詩情とともに厭世的な影も垣間見える。
「大喝采横田順彌
 当時の活動写真を題材にした明治もの。文体が見事だな。レトロロマンの香りを醸し出している。
特集外作品のフィクション。
「ムジカ・ムンダーナ」小川哲
 音楽を文化の中心とした民族の元を訪れる音楽家とその過去が重なる。実はまだちゃんと長篇を読んだことがないのだが、読んだ作品はどれもレベルが高く、これも拡がりのある音楽SFに仕上がっている。
「髭を生やした物体X」サム・J・ミラー
 再読だがやはり傑作だな。映画「遊星からの物体X」オマージュだが、映画公開時の時代背景とゲイの苦悩が重なり、人間存在の根幹に向き合うような作品になっている。重い作風なのでなかなか紹介が進まないのもわかってしまうのだが、やはりいい作家だなあ。
SFマガジン2021年8月号
 ハヤカワ文庫JA総解説と映画「夏への扉」と「ARC アーク」特集。「Arc」未読だな。この頃あたりからホットな話題も押さえることができなくなってるなあ(悲)。
○フィクション
「人ともに働くすべてのAIが知っておくべき50のこと」ケン・リュウ
 停止したAIが残したメッセージとは。タイトル通りのメッセージが、前置きの後50並ぶ掌篇。ケン・リュウ自作のAIに自らの作品を読ませてできたテキストば使用されているという。本文にはオクテイヴィア・E・バトラーの未訳作の主人公の名前も登場する。本誌が2021年なのでこの辺りはさらに状況が進んでいるのだろうなあ。
「魔女の逃亡ガイドー実際に役立つ扉(ポータル)ファンタジー集」アリクス・E・ハーロウ
 厳しい日常にさらされている子どもたちに解放のための本を案内しようとするちょっとパンクな司書を描いている。これはSFファンの心をつかむよね。ということで、ヒューゴー賞を獲ったのも納得。
感想を検索したところ、飛浩隆が本作を賞賛しつつ「小説家が書く図書館や読書礼賛もの」へ警戒心を示していることをTwitterで表明していて、書き手ならではでやはりさすがだなと思った(予定調和や内輪視点に陥りがちだということではないかと推察)。
「働く種族のための手引き」ウィナ・ジエミン・プラサド
 シンガポール出身の女性作家ということだが、作品はそうした背景とはあまり関連の感じられないもの。ロボット同士のオンラインでのやり取りから成る。内容以前にロボットの擬人化の部分でどうも興味が薄らいでしまうのだよなあ。
○ノンフィクション
・「さようなら、世界 <外部への逃走論」木澤佐登志
 ポピュラー音楽の造詣の深さか伺える連載だが、ロシア文化における宇宙主義にも明るそうで興味深い内容だ。背景に加速主義へのシンパシーを感じざるを得ないため、一定の距離を置く必要のある書き手ではあると思うのだが、毎回面白い話題を提供してくれている。
・「SFのある文学誌」長山靖生
 ほとんど読んでいない連載だが、この回は小酒井不木の科学に対する言説について。ちょっと気になって目を通したが、大正時代の科学への思想的なアプローチや彼の神秘主義志向、また人工心臓(あのリンドバーグも登場)の話題に及ぶ。こうしてまた気になる内容が増えてしまうんだよな(笑)。

 そして1年間に及んだ長澤唯史先生の指輪物語講義ついに終了。
www.asahiculture.com
 ピーター・ジャクソン映画を観たのみで、原作未読だったので、読みながら講義を聴いていて、最終講義はこちらも旅の終わりのような気持ちが…(実はまだ少し読み残しているが(苦笑)。最終回は映画版では出てこなかった、戦争から帰還しての苦い結末について。そこをC・S・ルイスが高く評価した点であることなど。また書かれた後の出版のあれこれも面白かったなあ。ここでもアッカーマンがからんでいたとは(杜撰な出版計画でこれに関してはお騒がせだけだったみたいだが)。とにかく時代・個人史・関連人物など作品の背景や作者の意図、読者の受容及びその影響などなど多方面からの分析でこの大作の魅力を知ることができた。ありがとうございました!

2024年8月に読んだ本と参加した読書イベント

 主に雑誌の消化。
 昔から買ってある分が、このままではさすがにほとんど読めなさそうなので、さらに興味のあるものだけ目を通して処分することに(それでもどれくらい対処できるのやらとなるが)。
◆『旅のラゴス筒井康隆

 筒井康隆による異世界ファンタジーだが、現実世界の技術もそのまま入るちょっと変わったパターン。壁抜け芸人や宇宙船による移民など細部には惹かれる描写はあるものの、主人公の内的動機が薄く対人的にも感情が動かないこともあって、前半の幻想的世界が徐々に現実要素が入り込むことで作品が平板かしていく。ファンタジーとSFを重ね合わせたような、ウルフ「新しい太陽の書」のような作品を生み出したかったかのだろうか?いずれにしても成功しているとは言い難い。
◆『スペース・マシン』クリストファー・プリースト

 持っているのは下の表紙の方。後の作風からすると意外なくらいストレートな冒険SF。タイム・マシンの操作を誤って火星に飛んでしまうカップルの話で、なんだかんだあって最終的に火星の怪物の地球侵略を阻止しようと地球に戻るという直球ウェルズオマージュ作品。1893年が舞台ということもあって主人公の言動などさらにレトロ感を生じさせているのは意図的だろうがパルプっぽくすら感じられる。全体にライトかつ賑やかな印象。旧版でよんだが、訳者解説はなかなか独特(まあ文学的な部分の評価についてはたしかにSFファンの弱いところではあって、そちらへの言及は助かるが、結局なんか本質と少々ずれてしまっている面もあったり)。
 そして8/24ファン交流会のプリースト回にもオンライン参加。

www.din.or.jp
 https://www.din.or.jp/~smaki/smaki/SF_F/rireki1.html
 大野万紀さん、渡辺英樹さん、たこい☆きよしさんのお話を楽しく拝聴。あんなに面白いのに、なかなか売れなかったというプリースト。ちょっとそこは寂しいけど、気難し気に見えて実は生粋のSFイベント好きの純正SFファンの顔も持つプリーストがなんだか微笑ましくもあり。皆さんの作品解説やエピソード、いつもイベントでご一緒させていただいているたこいさんらしいプリーストを連想させる舞台演劇の話も新鮮。ありがとうございました!
SFマガジン2012年6月号

〇フィクション
「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」仁木稔
 遺伝子工学の発達で人工的につくられた亜人間=<妖精>が様々な人間の欲望により消費される世界。擁護派と撲滅派がそれぞれの思惑で対立しているが、その裏には政治・産業・宗教がからむ醜い欲望が渦巻いている。ミーチャ・ベリャーエフは実在のソ連の科学者。ソ連史や宗教文化など作者の該博な知識が反映され、異なる陰影が加わり、おぞましくも現実社会を想起させる立体感のあるディストピアを成立させている。
SFマガジン2018年10月号

〇フィクション
「検疫官」柴田勝家
 COVID-19パンデミック前に描かれた<物語>の禁止された国の話。まだ短篇をいくつか読んだのみだが、評価の高い作家だけにヴィヴィッドな感覚を巧みに作品に落とし込んでいる。寓話的ではなく、現実ベースのシミュレーションになっていくのがSF作家らしさともいえそう。
「火星のオベリスク」リンダ・ナガタ
 終末観の漂う地球、植民地の火星にも終わりがやってきたが高齢の建築家はオベリスクの建設に打ち込む。久しぶりの翻訳だったようだ(『ボーアメイカー』は読んだ記憶があるが、内容は忘却(苦笑)。希望があるようなないような悩ましい結末だが、終末において人間のできることは何かという内省的なテーマを提示していて悪くない。終末がいよいよ目の前に訪れると実際にモニュメントの建設計画が登場するかもしれない。
SFマガジン2011年2月号

〇フィクション
「Heavenscape」伊藤計劃
 これだけ読む。『虐殺器官』のもうひとつの可能性、という誌内の紹介文にあるように、同作のプロトタイプに位置する作品でウェブサイトにも掲載されていたとのこと。戦争が続く世界の中、伊藤計劃が提示したヴィジョンは常に今日的であることがわかる。
紙魚の手帖vol.1

〇フィクション
「三人書房」柳川一
 第18回ミステリーズ!新人賞受賞作。まだ売れる前の江戸川乱歩の友人である推理小説愛好家が主人公で、時代の空気感が当時の出来事も取り込まれてよく出ていて、日常系の小品だがなかなか良かった。
「ゼロ」加納朋子
 犬と飼い主の心の交流が描かれるファンタジィ。普段あまり読まないタイプの作品だが、たまにはこういうのも良いな。
「108の妻」石川宗生
 変わった妻の話が描かれた小品が並ぶ形式。ちなみに108話あるわけではなく、30話あまり(33かな?)。作者らしい奇想が並び楽しい。
◇文藝2018年冬季号

〇フィクション
「箱の中の天皇赤坂真理
 ちょっとしたタイムスリップ的思考実験で太平洋戦争敗北と天皇制を考察する作品。名のみ知る作家だっで作品は初読。平成の終わりという節目が意識された作品で、少々図式的に過ぎるきらいもあるが、横浜メリーさんあたりをイメージした切り口はなかなか面白い。
「居た場所」高山羽根子
 介護の仕事でやってきた小翠(シャオツイ)と主人公の交流が描かれる、正統派の純文学。小翠の祖国を訪ねるところで言葉がわからず不安になるところは日本にやってきて仕事をする人々の心理を想像させ、なかなかうまい。わずかに入り込む非日常的な世界がほどよく効果を上げている。(などとぼんやり感想を書いてしまったが、SFマガジン2019年4月号の大森望「新SF観光局」を読むと十分SF解釈の出来る内容だということがわかり吃驚。うーんやられた)
文學界〇フィクション(というか短歌)
「怪力」山本礼子
 短歌はほとんど知らないのだが、
無理やりに服を着替えて胃の痛む日だけに見える明るさがある
など現代的で斜めな視線のユーモアがあって良かった。
〇ノンフィクション
鼎談 鴻巣友季子×川本直×青木耕平「アメリカに抗するアメリカ文学
 川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』を話題のきっかけとして、アメリカ文学オルタナティヴ的な流れを語り合っている。こうした視点からの見直しが続いていることが確認できる内容。

 さて、長澤唯史先生の指輪物語講義もいよいよ来月で終了。
www.asahiculture.com
若干小説自体の消化に遅れが発生しているのは内緒だ......(苦笑)。それはさておき、ゴクリの物語内での存在意義という話題が印象深かった。映画の記憶もやや遠のいているのだが、原作の方がフロドがよりきわどくギリギリのところで対処していたように思えるし、そこで周囲の関係性を無視して指輪を得ることに没入したゴクリが、というのは本作のコアなんだろうなあ。

2024年7、8月に観た映画や行った美術展


 ここ最近の映画や美術展。
□「Shirley シャーリイ」(2020年)
 舞台は1948年、大学教授である夫とその妻である作家シャーリイ・ジャクスンの家に若い夫婦(フレッドとローズ)が住み込むようになる。より女性に抑圧的な社会風土を残す時代の空気を充満させたニューロティック・サスペンスといった感じだろうか。注意が必要なのは、これはシャーリイ・ジャクスンを題材にしてはあるもののフィクションであること(そういう意味で「伝記映画」と書いてある日本語wikiは誤解を招く)。例えばローズが妊娠したりといったエピソードがあるが、本編ではシャーリイが子どもを持った経験のない人物の様な描かれ方をしている。実際には子どもが4人いて、子育てに関するノンフィクション『野蛮人との生活』は名著として評価が高い(未読。再刊の噂はどうなったのか)。もちろん映画内にはその子どもたちは全く登場しない。

 映画そのものはなかなか面白く、シャーリイ・ジャクスン作品に見られるちょっと嫌な日常のずれや人間の悪意がよく表現されている。ただ(こちらも未読の)『処刑人』(あるいは『絞首人』)執筆にいたる経緯を追うというのが重要な流れの映画であり、読んでおけばより楽しめたかもしれない。
□「聲の形」(2016年)(TV視聴)
 一部はどこかで観た記憶があるが、通して観たのは初めて。台風で遠距離通勤者のため、翌日の予定とかも考えて東京に宿泊、たまたま地上波放送があったので観た。アニメーションでソフィスティケートさらている部分もあるが、聴力障害のある少女を中心にいじめについて正攻法に扱ったシリアスな作品。手探りで差別・コミュニケーションの問題と対峙しなくてはいけない若い主人公たちの描写は胸に重くのしかかり、当ブログ犬世代からでも辛い部分はあり、改善しなくてはいけないのはむしろ周囲の大人たちなのではないかとも思われる。ただ表現の豊かさや細やかさは見事。今更ながらに京都アニメーションの力が感じられる。それにしてもこれほど思春期の気持ちに真摯に向き合ったアニメーションの会社に暴力をふるう人物がいたという現実には、暗澹たる気持ちになる。
□「支那の夜」(1940年)(既に公開は終了)
 なんとなく普段観ていないタイプの映画を観たくなり、検索をしてこの特集に行き当たり、初めて国立映画アーカイヴへ。

www.nfaj.go.jp
 日本になくて海外に残っていて返還されたフィルムを上映している特集。この作品は短縮版があり、そちらはyoutubeでも観られるようだが、今回公開されたのはフルヴァージョンということでこれまた貴重な機会だったようだ。内容は、戦前の上海が舞台で、日本人船員と中国人女性が恋に落ちるというもの。当然占領側の都合の良い視点が全編を通じて出ている偏ったもので、受けつけない方もいるだろうが、気づくことも多くある作品だった。昔の映画をあまり観てきていないが、まずはこれなかなかの大作といえそう。メロドラマを軸にアクションシーン、上海市街・蘇州ロケの観光要素、支那の夜・蘇州夜と服部良一の音楽と盛り沢山で、当時の映画製作者が狙っている娯楽要素を知ることが出来る。また、李香蘭山口淑子)のキャラクター造形は、一般的な正統派優等生日本女優に比し(筋書上修正が見られるものの)情熱的で自由奔放(本編で三角関係となる女優との感情を抑えて生きる役との対比は明確)。現代にいたるまで、自由な振る舞いで人気を博す女性タレントへの系譜を感じさせる(大抵は若く、しばしば人種ミックス的あるいは保守的な一般社会のアウトサイダー要素を持つ人物。人気者になった後、いきなり貶められる流れまで見えるアレ)。また全体にあからさまに中国人差別が出ているというよりは、種々の問題に無関心のうちに話が流れ、重要なことが観客にシリアスに考えさせないように隠匿されているみたいないやらしさもある。というわけで但し書きが必要な作品であるが、古い作品からでしか発見できないことがあるのもまた事実だ。例えば、当然なことだが、ロケされた上海は当時の姿が映されている(どこかにJ.G.バラードが映っているのかもしれない!)。当時の上海の街並みや港を知ることができるし、港ではほんの少し労働歌っぽいものも聞こえる。それが語るものは物語そのものよりも雄弁であったりもするのである。あと無関係だが、主人公がヒロイン李香蘭をつきっきりで看病するシーンがあった。どこかで見覚えがあるなと記憶をたどったら、今年の大河ドラマ「光る君へ」で道長がまひろを看病するシーンだった。古典的な演出はそうは変わらないということかもしれないが、80年以上経ってて同じような演出というのもどんなものなのかねえ(まあ外野の印象でしかないがね)。
□「首」(2023年)
 CSで鑑賞。SNSで割と良いという噂を知って、観てみた。結構楽しめた。当ブログ犬が若かった頃、時代の寵児であった北野武なので、HANA-BIあたりまでは割と観ていた。近年は本人含め興味を失っていたし、よく名前を聞く「アウトレイジ」も観ていない。が、本作は唐突な暴力と横溢する死、無慈悲な哄笑など、北野武映画とはこんな感じだったなとらしさがよく出ている作品だなと思った。重鎮になって大物俳優も使いやすくなったり、昔に比しホモソーシャル世界をフラットに表現できるようになったのも歪みが減ったのもいい方向に作用しているのかな。通常の時代劇より妙に剃りの面積の広い丁髷になってるのは監督の照れではないのかな。あと、木村祐一の不慣れなセリフ回しも意外と映画から浮いていないのだが、こうした専業じゃないタレント(など)を積極的にキャスティングする傾向のある監督が他にもいたりするが、これはどういった考えなのかなと思ったりもした。
 美術展も行ったり。(どちらも終了ですな)
〇内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙

www.nmwa.go.jp
 なんの気なしに観に行ったが、超絶細かく美しい中世写本の世界に驚かされた。またこれが医師である内藤裕史氏の個人的な興味からのコレクションだという事実にも圧倒される。
〇TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション

www.momat.go.jp
 パリ、東京、大阪の美術館のコレクションを集めたもの。ちらもふらっと行ったが、有名な画家の作品が多く、楽しかった。