二宮健、石川慶、行定勲、深田晃司らが自身の“短編”語る【「SHINPA(シンパ)」vol.14レポート】
2022年12月13日 20:00
「チワワちゃん」「真夜中乙女戦争」の監督・二宮健が中心となり、2014年に日本映画界の“新しい波”を標榜して始動した上映企画「SHINPA(シンパ)」のvol.14が12月10日、東京のLOFT9 Shibuyaで開催された。
第1部では、和田淳、石川慶、小林達夫、クリス・ザハリエフ、行定勲��短編、第2部では「PLAN 75」が第75回カンヌ国際映画祭カメラドール、スペシャルメンションを受けた早川千絵のほか、渡辺大知、深田晃司、近藤啓介、二宮健の短編を披露。第2部では、東京国際映画祭の前プログラミングディレクター・矢田部吉彦氏がゲストとして登壇した。
石川監督が手がけた「点」は、2017年に製作され、短編映画ながら劇場公開された作品だ。幼なじみの元恋人との久しぶりの出会い――揺れ動く2人の心情を描いている。自身でも久しぶりの鑑賞となった石川監督は、本作の製作経緯を明かす。yonigeの楽曲「ワンルーム」にインスピレーションを受けて書かれた脚本は、自身のフィルモグラフィーの中でも珍しい完全オリジナルで「手応えと思い入れのある作品」と語る。また、編集をしていく中で“グッと来るポイント”があったそう。それは山田孝之演じる理容師の高志がなんでもない話をする瞬間。ここは脚本にはなく「(山田が)撮影現場で即興的に作り出した話」と明かしていた。
小林監督作「Smile」のトークには、出演者の佐伯日菜子も登壇。同作は、芸能活動のため母と東京で暮らす少女の心の成長を描くティーンムービーで、娘のしおりを植原星空、母親を佐伯が演じている。物語の着想は「反抗期が少なくなってきている現代の高校生の現状を下敷きに、娘と母の関係性を問い直す作品にした」。佐伯は、シネフィルの小林監督だからこそ「撮影現場でも求める演技の基準が高かった」と明かし、場内の笑いを誘った。ブルガリアのクリス・ザハリエフ監督「One Elevator Apart」は、現地から監督のビデオメッセージも上映し「冒険のような撮影だった」と語った。
行定監督が披露したのは、釜山を舞台にした「愛」がテーマのオムニバス映画「カメリア」内の1編「Kamome」。ベテランの撮影監督役をソル・ギョング、“カモメ”と名乗る謎の少女役として吉高由里子が出演している。トークは、現在とは異なる当時の韓国映画業界の状況を振り返るところから始まり、「TOKYO!」を日本で撮影したポン・ジュノ監督と“韓国映画と日本映画の撮影の違い”を話し合ったという思い出も語った。
「Kamome」は、短期間での制作だったため、たまたま持っていたタゴールの詩集をきっかけにしながら、釜山という場所と「セッションしながら物語を紡いでいった」という。トーク終盤では、ソル・ギョングの素晴らしさに言及した行定監督。ソル・ギョングは他の出演者に対して「たとえ韓国人として違和感を抱くことがあっても、この脚本にある情緒は絶対に修正してはいけない。その上で韓国人が見ても遜色ない演技をしよう」と伝えていたことを明かしつつ、その出来事を受けて「韓国人キャストで撮影するからといって何かを変える必要はなく、自分が正しいと思う演出をするために改めて気持ちが入り直した」と振り返っていた。
第2部は、早川監督作「冬のメイ」と渡辺監督作「Good News,」の上映でスタート。渡辺監督は、作品の主題を「不安感から脱却しようともがいている姿」と説明。コロナ禍で増えた詐欺の実話をベースに物語を組み立て「人の不安に付け込み��詐欺をする側も日々の不安に駆られている状況を滑稽に描きたかった」と明かした。
二宮監督の新作「嗚呼、かくも牧場は緑なりけり」は、初上映。トークには、主演の寺本莉緒、押田岳が登壇し「特殊な設定と展開に台本を読んだ時に最初はどう演じてよいか戸惑った」「完成作は面白くて笑ってしまった」とコメント。撮影現場でのエピソードでは、牧場、動物たちとの撮影の困難さ、特殊メイクを担当したAmazing JIROの素晴らしいテクニックとクオリティ、ある重要な役を演じた成河の役作りの的確さといった話題が飛び出した。当日鑑賞していた矢田部氏は「久しぶりに登場したワールドスタンダードな短編日本映画。ホラー・コメディというジャンル映画でありつつ深いメッセージを持った稀有な作品」と絶賛していた。
矢田部氏は、特別講演「現代映画の動向」シリーズ(第4弾)に登壇。谷田部氏が立ち上げたクラウドファンディング「ウクライナ映画人支援緊急企画:ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督作品上映会」を経て感じたことを語り始め、2022年の国際映画祭のトピックスとして「女性監督の台頭」「女性の権利・移民の問題を主題にした作品」「Netflixと映画業界の関係性」「アジア映画の存在感」「戦争」を挙げた。
また、2021年のカンヌ国際映画祭では「ドライブ・マイ・カー」と競ったジュリア・デュクルノー監督「TITANE チタン」、ベネチア国際映画祭ではオードレイ・ディバン監督「あのこと」、2022年のベルリン映画祭ではカルラ・シモン監督「Alcarras」と三大映画祭で三作連続女性監督が最高賞を受賞したことを指��。カンヌでは史上2人目となる女性監督によるパルム・ドールの受賞といった、男女による不均等の問題を提起し、最後にはアムステルダム・ドキュメンタリー国際映画祭で上映された世界のドキュメンタリー映画を紹介していた。
深田監督作「ヤルタ会談 オンライン」では“なぜこの作品ができたのか?”という話題からトークが始まった。「We Are One: A Global Film Festival」というオンライン国際映画祭のオファーから企画を考え始め「Zoomで映画をつくることはこの時期しかできない。数年後には廃れている」と感じたそう。そこに合った題材として青年団の戯曲として上演されていた「ヤルタ会談」をセレクト。「これほどリモート向きの作品はない」と述べていた。「思いついたらやりたくなってしまうタイプ」と語る深田監督。「自主映画の延長線上で映画を撮っていて、持ち込まれた企画で映画を作っ��ことがなく、自分が撮りたい作品を撮ることができて恵まれている」とも語っていた。
なお、第1部のオーブニングでは、観客のお題をもとに即興で映画製作を行う企画「KCP(ケーシーピー)の監督を務める近藤監督と出演者が登壇。今年は、菊地姫奈(「散歩時間 その日を待ちながら」「まなみ100%」)、三河悠冴(「スクロール」「さかなのこ」)、前原瑞樹(「アボカドの固さ」)、松井薫平(「グッドバイ、バッドマガジンズ」「この恋は終わってる」)が出演することになり、イベントの最後で上映を行った。
小林監督が2022年の映画を振り返る“コバデミー賞”では、劇場未公開の作品も含め、小林監督が鑑賞した作品の中から10作品が紹介された。上位5作品には、ジャック・オーディアール監督「パリ13区」、マチュー・アマルリック監督「彼女のいない部屋」、キリル・セレブレンニコフ監督「インフル病みのペトロフ家」、オリビエ・アサイヤス監督「イルマ・ヴェップ」、ラモン・チュルヒャー監督「ガール・アンド・スパイダー」が選出された。
なお「SHINPA(シンパ)」Vol.15は、2023年1月28日、29日に、京都みなみ会館で開催される。
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