吉村“ポップ”秀雄は、世界二輪車史を語る上で欠かせない重要人物である。 排気効率に優れた集合マフラーを開発し、世界各地の名だたる二輪車レースをチューニングの技術一本で制覇した。ヨシムラの登場以前の二輪車レースとは、大手メーカーがラボの中で完成させたマシンを思う存分に走らせる「巨大な実験場」だったが、ヨシムラのメカニックチームはレース直前にピットの中でマシンを改造してしまう。 70年代、既にアメリカでは「ヨシムラの改造したマシンは規格外のパワーを帯びる」ということが知れ渡っていた。我々現代人もよく知っている片仮名の「ヨシムラ」というロゴは、「アメリカ人が唯一読める日本語」と言われるほどだった。が、そのロゴは一時期、ヨシムラの知名度だけを狙う詐欺師の手に握られてしまった——。 エンジン家族のアメリカ進出 1969年、NHKは『ある人生』というドキュメンタリーシリーズ番組で吉村一家を取り上げた。