アマゾンとグーグルとマイクロソフトとセールスフォースのクラウドはどこが違う?
しばらくマイクロソフトのWindows Azureの話題を続けて書きました。僕がWindows Azureに注目する理由は、実はいくつかのクラウドを提供しているベンダの中で、ビジネスアプリケーションを稼働させるプラットフォームとしていちばんよく考えられているのがWindows Azureだと思っているからです。
それはアーキテクチャが素敵とか性能が高そうだとかではなくて、Windows Azureが狙っているターゲットが絶妙だから、という理由です。
クラウドを提供するベンダとしてよく名前が挙がるのは、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、それにセールスフォース・ドットコムでしょう。それぞれの特徴を理解している範囲で整理してみます。
Amazon EC2 - レンタルサーバプール
最も下位レイヤのサービスを提供しているのがアマゾンのAmazon EC2です。これはレンタルサーバ屋さんに近い。
客「サーバ1台貸してください、CPUは1コアでメモリは2GBくらいで」
店「了解! 用意しました」
客「あ、それ20台よろしく!」
店「了解! 用意しました」
客「あ、あと50台追加よろしく!」
店「了解! 用意しました」
と、どんどんサーバを借りられるんですね。巨大なサーバマシンのプールからどんどん自分用のサーバを瞬時に用意してくれるのがAmazon EC2です。
サーバを借りたら、OSのインストールからWebサーバの設定、アプリケーションのインストールなどは全部自分でやる必要があります(簡単にできるようにアマゾン側で工夫してくれていますが)。そして、大量のサーバを活かして分散処理などを考えたアプリケーションにするのは利用者側の責任になります。
Google App Engine - クラウド最適化重視
もう少し高度なサービスを提供しているのがグーグルのGoogle App Engine。サーバの上にクラウド専用のOSと開発環境とデータベースを用意してくれています。利用者は開発言語を使ってアプリケーションを書くだけです。サーバのロードバランスや分散処理などのスケール処理はグーグル側がやってくれます(実際にはどんなアプリケーションでもスケールする訳ではありませんが)。
ただし開発言語がいまのところPythonに限られており、データベースもリレーショナルではなくて、あらかじめグーグルが用意したキーバリュー型のデータベースを使わなくてはなりません。この環境を前提にしてアプリケーションを開発する必要があります。
Windows Azure - Windows互換クラウド
Windows Azureは、サーバとOSと開発環境をマイクロソフトが提供しています。データベースもマイクロソフトが提供しています。グーグルのモデルに近いといえるでしょう。
ただしグーグルが、とにかくクラウドの性能を引き出すために最適化されたOSや開発環境やデータベースを提供しているのに対して、マイクロソフトはWindowsとの互換性を重視したOSと開発環境(Visual Studio)とSQL Server互換のデータベースを用意している点が違います。
Salesforce.com - SaaS
セールスフォース・ドットコムのSalesforce.comは、完成済みのアプリケーションを利用するためのサービス、つまりSaaSです。アプリケーションのカスタマイズはできますが、独自アプリケーションの開発をする目的には使えません(追記09/4/1:すいません、言い切りすぎました。同社はForce.comでアプリケーションのプラットフォーム機能も提供しており、さまざまな独自アプリケーションが開発可能です)。
こうしてみると、それぞれのターゲットがずいぶん違うことが分かります。
- アマゾン:自分で分散処理が書ける、ネットサービスベンダー向け
- グーグル:スケーラビリティが必須のクラウド専用アプリケーションの開発者向け
- マイクロソフト:アプリケーションを手軽に移植しておまかせで稼働させたい開発者向け
- セールスフォース:アプリケーションの利用に専念したいユーザー向け
アマゾンで1、2台サーバを借りても、レンタルサーバ屋さんで借りるのと値段も性能もそれほど変わらないと思います。アマゾンのクラウドが威力を発揮するのは、突然人気が出てトラフィックが急増する可能性があるようなサービスを抱えているネットベンダーでしょう。
グーグルはJavaのようにもう少しポピュラーな開発言語で開発できるようにならないと、一般のアプリケーション開発で利用されることにはならないのではないかと思います。
そうなると、ビジネスアプリケーションの開発者がクラウドを選ぶときに候補として考えるのはマイクロソフトのWindows Azureになるわけです。移植が比較的容易なうえに、高い可用性が維持できて運用もアウトソースできるというクラウドのメリットは得られるわけです。ついでにアプリケーションがスケールしてくれればラッキーでしょう。
アマゾンもグーグルも、そもそも従来のビジネスアプリケーション市場にはほとんど縁がなかったので、マイクロソフトがその市場をクラウドでもどん欲に獲得しにいったところで、その2社にとっては大した興味の対象ではないのかもしれません。
では従来のビジネスアプリケーション市場でマイクロソフトと戦っていた、オラクル、IBM、SAP、HP、サン・マイクロシステムズなどなど各社はどうしているのでしょうか? ここはまだ僕も情報収集が足りていない分野なので、情報がまとまったらまたこのブログで続きを書きたいと思います。
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