(株)Jコミックテラスの中の人

マンガ図書館Zに関する実験や報告をするブログです。

赤松健、これが究極の一手。・・・なぜ我々は「電子書籍版YouTube」を目指すか

前振り:【動画投稿サイトは、著作権侵害のコンテンツを掲載していても、なぜ罪に問われないの?】
YouTubeやニコ動も「違法なアップロードの排除」には取り組んでいるのだと思うのですが、残念ながら私の作品のアニメ版やCDが、今もYouTubeにも大量にニコ動にもバンバン掲載されまくっているのが現実です。
・・・動画投稿サイトは、著作権侵害のコンテンツを掲載していても、なぜ罪に問われないのでしょうか?
それは、プロバイダ責任制限法があるからです。
この法律では、権利侵害の被害が発生した場合であっても、その事実を知らなければ、プロバイダは被害者に対して賠償責任を負わなくてもよいとしています。
YouTubeの規約にも、投稿する際はちゃんと「第三者著作権により保護された マテリアルや、その他の第三者が財産的権利を有するマテリアルが含まれないことに同意」すると書いてありますね。現実は「そんなわけあるか」という感じもしますが、世界中で便利に利用され、今や正に「社会の公器」へと成長しています。


さて、いよいよ最終章です!


(1)新しくなった「マンガ図書館Z」の5つの秘密 〜悪魔を滅ぼす禁断の力〜
(2)求む傭兵! 海賊と闘う「ホワイト・リスト&インセンティブ作戦」とは?
(3)いよいよ発動、「日本の全マンガ蒐集計画」!


海賊版に対抗しながら、日本の全マンガを集めつつ、しかも作者に収益が発生する*1という、上手く行けば最強のシステムになりうる「日本の全マンガ蒐集計画」
その核となるのが、マンガ図書館Zの新型「作品データアップロード機能」でしたね。
(マンガ図書館Zはコチラ。 )
アップロードされてきたマンガZIPが「表紙1枚」だけ公開されますので、それに対して権利者が「公開OK」ボタンを押すと、全ページ公開される仕組みになっています。

ただしこの仕組み、大幅に改善しなくてはならないポイントが出てきました。
YouTubeやニコ動と変わらないくらい、とても簡単に権利者が公開許諾ができるがゆえに生じている、要改善なポイントです。
その要改善ポイントとは、”権利者が「公開OK」ボタンを押す”の部分。

この権利者チェックの部分を、早急に何とかしなくてはいけません。
現実に、市川和彦先生・つるぎ基明(サケマス)先生・新井リュウジ先生など、作者ご本人が公開ボタンを押して頂いており、想定通りのアクションになってはいるのです。しかし、想定外に、第三者が公開許諾してしまう事案があったのです。



さて。その前に、そもそも何故このような「権利者から公開許諾が出て、そのまま公開が開始される」ようなシステムを開発したかをご説明いたしましょう。これは、今日まで(恐らく全マンガ家の中で最も)ネット海賊版に対抗してきた私の、「究極の一手」とも言えるシステムであります。


まずコチラをご覧下さい。これは私(赤松健)の作品の、ネット海賊版リンク集です。
あらかた全作品を読むことが出来るようになっており、しかも赤松には収益が一切入りません。
そこで私は、これら海賊版データを回収し、第三者にアップロードしてもらうことによって、作者の収益に繋げる実験を続けてまいりました。


そしていよいよ今回、YouTubeニコニコ動画と同じく、

  • 「権利者」が、規約に同意した上で全ページ公開できるシステム

を取り入れました。
これは、YouTubeニコニコ動画がすでに社会の公器になっていることを鑑み、

  • 彼らに先んじて、広告収益を100%作者に還元する「電子書籍YouTube」システムを作り、海賊版や動画投稿サイトに対抗していこう

という意思の表れなのです。そのためには、やはり同じく「権利者が全ページ公開できる」システムにする必要があります。でなくてはスピード的に太刀打ちできません。音楽や映画やスマホ用アプリは、もう海外にプラットフォームを取られてしまいましたが、漫画ならまだ間に合います。
ちなみに、

  • 全ページ公開しただけでは広告収益は入りません。弊社と契約し、銀行口座を登録した作家様だけに、広告収益などをお振り込みしています。本人確認できるまでは、広告収益はプールされる仕組みです。

また、連続して公開ボタンを押すような人には警告メールが行きますし、そして実はツイッター上に作者ご本人がおられる場合」には私が直接ご本人にDMで確認してニセモノを排除しています。


それでも、この権利者チェックに改善の余地がある点に関して、「ミイラ取りがミイラになっては本末転倒だろう」というご指摘はあるだろうと思いました。
しかし驚いたことに、スタート時だけでかなりの数の作家さんが公開OKを出して下さり、非常に理解を示して下さっていることが分かりました。

★許諾したマンガ家さん達の声

  • サイトの企画趣旨は、大変よく理解できた。とても面白い試みだと思う。埋もれていた過去の作品に日の目を見せてやれるのは、純粋に嬉しい。さらにそこに収益の道筋まで用意されているのであれば、商業漫画家を目指す若い作家さんや、諸事情でコミックス化が困難な作家さん達の指標にもなれる気がする。
  • 自分としては、ネット時代のこうしたグレーゾーンの問題はある程度許容すべきという考えであり、今後なんらかの契約の上で公開して差支えない。
  • もともとマンガ図書館Zに大変興味があり、私の漫画でも公開できる物は無いか…と考えていた。
  • 私の作品でも気にして、読みたいと思ってくださる方がいるということは本当に有り難い。それがなんらかの収益につながるのであれば、更に有難い。
  • 近年の違法なアップロードを止めることは無理であること、できればいろんな人に読んでもらいたいとは思うこと、もっとできるならば対価が入るならばなおよいこと。これを常々思っているので参加したい。
  • 今まで自作品で海賊版や権利関係のトラブルに巻き込まれた事が無かった為、あまり深く考えた事は無かった。しかし漫画図書館Zに参加する事で、その意義に賛同し出来る限りの協力をしていこうと思う。
  • 今回のマンガ図書館Zの発想は、一漫画家としても納得できるものである。一昔前ならともかく、ネットの普及している今なら単行本が絶版になってなお、作者に収益が還元されるというのは現状のネット違法アップロードに対して為す術の無い漫画家にとって見事なカウンターとなるもので、自分としても感心する事しきり。
  • 私は現在のところ引退状態だが、やはり自分の作品が忘れられていくのが寂しく、少しでも新しい読者の目に触れてもらえればと、マンガ図書館Zにお世話になることにした。


掲載拒否する場合も、それなりに理解を示して下さる場合が多いです。

★掲載を拒否したマンガ家さん達の声

  • 広告収入を得る形が個人的に嫌い。批判も揶揄もしないので、私は誘わないで欲しい。
  • あの作品は、来年あたり出版社から再発売の予定。
  • 該当作品は、ある出版社から電子書籍化されるので不参加。しかしいつかは収入が途切れてしまうと思われるので、その時こそ無料公開に踏み切りたい。改めて相談にのって欲しい。

これは私にとって驚きでした。なかなかに好意的な内容が多く、もし連絡が取れた場合は「打率9割」以上で許諾OKが取れています。
ただもちろん、お怒りになっている先生も2名おられます。
本音では、私はとても恐ろしいです。
しかしながら、この手法を進められるとしたら、恐らく(TPP対策や児ポ法対策、著作隣接権問題や海賊版対策、自民党議員への表現規制反対ロビイングなどの活動を、漫画家の中では殆ど一人きりでやり続けてきた)私、赤松だけではないでしょうか。複数の識者からの勧めもあり、思い切ってやってみることにいたしました。


もしグーグル(またはアマゾンやネイバー)が電子書籍の世界でも「日本漫画を管理する立場」になった場合、海外の価値観で日本の文化を選別し、検閲してくることでしょう。そして広告収益を100%作者へということも無いでしょう。その点、私なら検閲はしませんし、手数料も取りません。


もしこの手法が強いバッシングを受けたら、私はもう電子書籍サイト運営から引退して、本業の漫画連載にでも集中しようかな・・・と思っています。
なぜなら、海賊版サイトにあるのは無視するが、マンガ図書館Zにあって作者の収益化に役立てる仕組みを作る���は許さない(=叩く)」という漫画業界からの意思表示だと、私は受け止めるからです。
いかがでしょうか。



最近、アマゾンがAmazonプライム「ビデオ見放題」に続いて「音楽聴き放題」も始めました。次は、どう見てもAmazonプライムでの「マンガ読み放題」を狙っているはずです。もともと本業は書籍ですしね。


グーグルが、裁判で勝ちました。大量の書物を無断で電子化したことが著作権侵害に当たるとして、米作家協会などが訴えていたあの裁判です。あのグーグルブックスが復活でしょうか。日本に攻めてきたら国会図書館でも太刀打ちできません。


その国会図書館も、近年は様々な実験を行っています。スキャンしたデータを利活用したがっているのは明白で、やるなら著作者に収益があるような仕組みでやって欲しいものですね。
そして政府与党のフェアユースの方向性
最後に、ネット海賊版


・・・ここまで来ると、我々「日本人」が、しかも「クリエイター主導」でこれを率先して進めないと、またもや外資に扉を開けられて、我々日本人はそれを「使わせていただく」ことになってしまいそうです。検索エンジン*2クラウドコンピューティング*3などと同じく。
または、国が(クリエイターの利益優先ではなく)利用者の利便性主導で始めてしまうでしょう。


私に、しばらく実験させてもらえないでしょうか!?
そして、もし今回の方法を超える海賊版対策法&書籍データの活用方があるなら、教えて欲しいのです!

*1:絶版書の場合、そのままでは収益は0円ですからね。

*2:日本人は、例えば検索した後の冒頭引用文の著作権を気にして、検索エンジン事業に二の足を踏んでしまう。

*3:日本人は、クラウドに音楽を保存すると著作権侵害では・・・と気にしてしまう。そしてシステム作りからも撤退してしまう。