「小市民シリーズ」“互恵関係”を結んだふたりの中に潜む“異質性”【藤津亮太のアニメの門V 111回】

『氷菓』など『古典部』シリーズの作者・米澤穂信による青春ミステリー小説『小市民』シリーズ。“互恵関係”を結ぶ高校生の小鳩常悟朗と小佐内ゆきを軸に、周囲で発生する“日常の謎”を推理していく物語だ。

連載 藤津亮太のアニメの門V
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『小市民』シリーズ第9話「スイート・メモリー(前編)」、第10話「同(後編)」にはとても興奮した。それは、原作『夏期限定トロピカルパフェ事件』を扱った第6話以降のエピソードの総まとめとして盛り上がった、というだけではない。もちろん原作のおもしろさ、脚色の巧みさはそのとおりだが、この2話は、ストーリーのおもしろさもさることながら第1話から積み重ねてきた演出的な積み重ねが、すべてはこの2話のためであったと納得させる、その映像の見せ方にある。

『小市民』シリーズは大雑把にまとめると、高校生の小鳩常悟朗と小佐内ゆきを軸に、ふたりの周囲に発生する、いわゆる“日常の謎”を解く物語だ。作中では推理することを“知恵働き”という言葉で表現している。しかしふたりは、推理で目立つことのない“小市民”を目指しており、その目的を共有した“互恵関係”を結んでいる。ところがふたりはそのように自らを律しながらも、推理することをやめられない。本作のポイントはそうした推理への欲望が、かつ探偵という存在が自然と帯びる傲慢さと結びついていることに触れている点だ。

第9話・第10話は、小佐内が誘拐されるという事件が終わったのエピソード。小鳩は小佐内と夏季限定トロピカルパフェを食べながら、その事件に関わる小佐内の企みを解き明かしていく。シチュエーションから自然と、テーブルで向かい合ったふたりのバストショットでの正面顔の切り返しが多い。本作は第9話に至るまで、そのような形の切り返しをほとんど採用してこなかった。

それまでは正面顔のバストショットがあっても、それを受けるのは横顔であったり、七三ぐらいの斜め顔であったり。また対話している相手の頭越しに(いわゆる頭をナメた状態)、話者の顔を正面から捉える形で対話を見せることもあった。いずれにせよ、正面顔と正面顔で切り返すという演出はここまで封じられており、だからこそ、ここで抜き差しならない対峙が行われている、ということが――普通であれば単調なほどシンプルなカット割りに見えてしまうはずにもかかわらず――異様な圧力でもって伝わってくるのだ。


《藤津亮太》
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